日本の半導体は大きくシェアを落としたと言われていますが、これは半導体集積回路のことで、半導体材料:ウェハーでは日本の2社で世界の60%以上のシェアを有しています。国家戦略に関わる先端技術として5GやAI、自動運転が挙げられます。このいずれにおいても、競争力を実現するには高性能な集積回路が不可欠です。国の威信をかけた半導体産業の攻防が行われています。また、半導体業界では1兆円を超す金額の買収劇が繰り返され、企業の生き残りも熾烈です。
では、どうして集積回路が国家やグローバル企業の命運を懸ける対象となるのでしょうか。それは先端技術を用いる多くの領域で、集積回路が競争力を生み出し価値を創出するからです。集積回路を満足に活用できなければ、国家の安全保障や企業の生き残りにも関わるということです。そこで今回は、集積回路の概要を解説します。
1.集積回路とは
集積回路はシリコンウェハー上に数百工程からなる「前工程=ウェハー工程」によりデバイス構造を作りこみ、その後チップに切り分けてパッケージに組み立てる「後工程=組み立て工程」により製品となります。
集積回路とは、外形が小型で体積・面積あたりの実装効率がよく、多くの回路・機能を内蔵して、大量のデータを短時間で高精度に処理できます。これらを満たしながら相対的に消費電力と発熱が小さく、独自の処理方式を実現できる仕組みが内蔵されています。
これらの全てを満すのは困難です。しかしこのいくつかを満足するものが集積回路です。集積回路を活用することでライバルに先駆けて新機能や性能改善で製品価値を増すことも、部品コスト削減や小型化により製品コストを抑えることも可能となります。
2.集積回路、製造プロセス
集積回路のチップは、配線やトランジスタをウェハー上に配置して回路を形成したものです。IC(Integrated circuit)・LSI・VLSIと呼ばれ、これを製造するには配線回路を設計します。設計した回路を半導体ウェハー表面に形成する前工程:クリーンルーム、次に、チップに切り出して組立てを行う後工程で完成です。
半導体ウェハー表面に形成される配線やトランジスタ・抵抗・コンデンサ類は、集積度が高く微細化されているため、ウェハー表面に直接製造することはできません。そこでウェハー上に転写することで、回路を形成します。これはフォトマスクと呼ばれる原版にパターンを描き、これを転写します。下層にトランジスタ層を形成し、その上に配線回路層を重ねることで、半導体集積回路は完成します。ウェハーの各層は、成膜・パターン転写・エッチングの精密加工を繰り返して製造されます。
半導体集積回路の後工程、組立工程では、ウェハーから半導体集積回路を切り出し、外部との接続端子と半導体集積回路を接続して、所定の位置で固定・封入して検査を行います。完成品は、コンピュータ、パソコン、スマートフォン、自動車を始めとする様々な製品に組み込まれます。
3.集積回路の種類と用途
半導体集積回路の主なものを紹介します。半導体集積回路メーカーが手掛けているICには、GPU、DSP、MPU(Micro-Processing Unit:マイクロプロセッサ)、電源IC、レーザーやLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)、メモリ(DRAMとNANDフラッシュ)、FPGA、通信モデムIC、アナログIC(ADC/DAC)、受光素子やCMOSセンサ、MEMSなどがあります。
(1)半導体集積回路の種類
【構成元素による区別】
構成される元素によって半導体は元素半導体・化合物半導体・混晶半導体の3種類に分けることができます。元素半導体は、シリコン、ゲルマニウム、炭素などのⅣ族である一つの元素だけで構成された半導体のことです.化合物半導体は2種類の元素から構成される半導体です.よく使われる化合物半導体にGaAs や、InP などがあり、シリコンではできない発光ダイオードや移動度の高いトランジスターなどに利用されます。
【結晶の種類・結晶構造による区別】
多結晶や単結晶は様々な結晶構...
4.集積回路、今後の成長分野
今後の成長が期待されるのは、高周波半導体とパワー半導体です。高周波半導体はこれから成長が期待される製品です。パワー半導体は電動車のモータ制御をしたり、回生ブレーキによる充電を制御したり、車内のパワーウインドウ・ワイパーなどさまざまな小型モータの駆動にもパワー半導体が使われています。さらにワイヤレス製品が増えるほど無線回路に高周波半導体は欠かせなくなります。第5世代移動通信システムには高周波半導体への要求が高まります。AIもチップがカギを握るようになり、Google、Facebook、Amazon、Intel、Microsoftなどが熾烈な開発競争を展開しています。