例えば地下水など、イオンを含んだ水を陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂に通すと、水の中の両イオンはイオン交換樹脂によって除去され、イオン交換によって生じたH+とOH-は直ちに中和します。これが純水になるということですが、これは正しくは脱イオン水で、非電解質の有機物を完全に除去できたわけではありません。
イオン交換樹脂はこの水処理ばかりではなく、金属や有価物の回収精製、触媒、高純度薬品や電子材料の高品質化、食品・飲料の分離精製プロセスなどにも幅広く応用されています。
このような背景を踏まえて、今回はイオン交換樹脂の概要を解説します。
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1. イオン交換樹脂とは?
イオン交換樹脂とは、特定のイオンを吸着し、他のイオンと交換する能力を持つ合成樹脂のことです。主に水処理や化学プロセス、化学分析、医療分野などで利用されます。イオン交換樹脂はポリマーの網目構造を持ち、その中に特定のイオンが固定されています。これにより、溶液中のイオンと結合し、交換反応を行うことができます。
イオン交換樹脂には大きく分けて、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の2種類があります。陽イオン交換樹脂は、陽イオン(例えば、ナトリウムやカルシウム)を吸着し、他の陽イオンと交換します。一方陰イオン交換樹脂は、陰イオン(例えば、塩素や硫酸)を吸着し、他の陰イオンと交換します。
この特性を利用することにより、硬水を軟水に変える過程や、特定の化合物を分離・精製するプロセスにおいて重要な役割を果たしています。イオン交換樹脂は、環境保護や資源回収の観点からも注目されており、持続可能な技術の一環としてますます重要になっています。
(1)イオン交換樹脂は身近な存在
イオン交換樹脂は、さまざまな分野で広く利用されています。身近な例をいくつか挙げます。
- ①水の軟化・・・家庭用の水軟化装置では、イオン交換樹脂が使われています。硬水に含まれるカルシウムやマグネシウムイオンをナトリウムイオンと交換することで、洗剤の泡立ちを良くしたり、配管のスケール(析出物)を防いだりします。
- ②飲料水の浄化・・・一部の浄水器や浄水システムでもイオン交換樹脂が使用されています。特定のイオンの選択的吸着により、水中の不純物や有害物質を取り除くことができます。
- ③医療分野・・・医療用の透析装置でもイオン交換樹脂が利用されています。血液中の不要・有害な物質を除去するために、特定のイオンを選んで交換する役割を果たします。
- ④食品業界・・・食品の製造過程でもイオン交換樹脂が使われることがあります。例えば調味料や飲料の製造において、特定の成分を調整するために使用されます。
2. イオン交換の仕組み
イオン交換作用を持つ物質(イオン交換体)のうち合成樹脂をイオン交換樹脂と呼び、分子構造の一部にイオン交換基として電離する構造を持っています。イオン交換樹脂は、主に直径約0.5mm程度の球状の外観をしたビーズの形で利用され...