日本において非正規雇用が増え、正規雇用との格差が社会問題化しているためフレキシキュリティが注目されています。従来のフルタイムの正規雇用労働者と非正規労働者の間の平等待遇が定着しているオランダでは、ワークシェアリングだけではなく、フレキシキュリティ政策に関心が寄せられています。
1970~80年代には会社が社員に福祉を保障する日本型モデルが注目されましたが、バブル崩壊で日本が失速し、長期不況に入ると、ワークシェアリングが注目されました。しかし、ワークシェアリングはその後の景気回復とともにワークライフバランスへ変遷しました。そして、現在は、フレキシキュリティに注目が集まるようになっています。
今回は、このフレキシキュリティの概要を解説します。
1. デンマークがモデルと言われるフレキシキュリティとは
柔軟性(flexibility)と安定性(security)を結合させた造語がフレキシキュリティです。基本的な考え方は、労働市場の柔軟性と、所得・雇用の安定性という一見、相反する概念を対立的でなく相互に促進するということです。この仕組みでは、企業が簡単に従業員を解雇できる一方で、失業者は最低限の生活が保障されるという社会システムが実現されます。
フレキシキュリティ政策とは、次の3つを相互連携した雇用政策です。
- ①柔軟な労働市場:解雇や転職が容易
- ②厚い失業保障 :失業手当は失業前の収入に比べてあまり減少しない
- ③実践的な公的職業訓練:即業訓練と再就職の斡旋
これは1990年代にデンマークが先駆けて取り組んだ政策で、デンマーク・モデルと言われます。デンマークがこうした政策を可能としているのは、解雇規制が緩やかで、流動性の高い労働市場という特性から実現出来ています。背景には、正規・非正規雇用における格差も低い点が挙げられます。
日本で雇用の安全というと、長期雇用で同じ会社に長く勤務することとされてきました。デンマーク・モデルでは、同じ企業内の雇用保証ではなく、職業訓練と手厚い失業給付を基盤とした、切れ目のない雇用の確保を指していて、これは日本との大きな違いです。日本型雇用システムの労働市場から見ると、真逆とも言える政策です。
高福祉国家のデンマークは、国民負担も大きく、国民負担率は63%にものぼりますが、柔軟な労働市場が整備されて実践的な公的訓練を受けることができ、成長産業に労働力を移動することも実現しやすくなります。そこに、手厚い失業給付で生活が守られれば、経済的にも精神的にも安心できます。
2.なぜフレキシキュリティが重要視されているのか
フレキシキュリティが重要視されている背景は日本の少子高齢化です。近年では。長期的視点で個々のキャリアを意識して向き合い、同じ会社に生涯勤めるという考え方は変わってきており、長期的な視点でキャリアアップ、スキル向上を検討する方が増えていると考えます。生産年齢人口の減少による経済の縮小や人手不足を抑え、自分らしく働く社会を一人ひとりが実現するために重要視されているのがフレキシキュリティです。雇用流動化を促すフレィシキュリティで、一人ひとりの生産性を高めることが期待できるでしょう。
3.フレキシキュリティの効果
フレキシキュリティは、企業にとっても従業員にとっても多くのメリットをもたらします。
(1)自分らしく新たな働く環境を実現
地方へ移住して家事と仕事を両立させて働く人が増加しています。このような現状で、個々のプライベートな事情と照らして、新たな仕事環境を手に入れたいと考える人も多いでしょう。フレキシキュリティが浸透すれば、失業中も困ることはなく、転職活動を進めることができます。フレキシキュリティにより、個人が次のキャリアに踏み出しやすくなるのです。そして、自分らしく働く社会の実現するのです。
(2)個々のモチベーションアップから経済成長を促す
終身雇用制度は、入社してから定年まで同じ会社での安定雇用を保障してきました。しかしこの制度では、社内でのキャリアアップやスキル向上は見込めましたが、社外でも通用するキャリア/スキルの育成が困難で、転身への軌道修正を阻んでいました。高度成長期に確立した日本的雇用慣行ではそもそも、労働流動性を確保することを想定していません。現に終身雇用制度は崩壊しつつあり、誰もがキャリアアッ...