雇用の安定 商売繁盛に向けた「ものづくり改善」(その3)

 

 

【商売繁盛に向けた「ものづくり改善」連載目次】

1. 視座の高さを変えて「流れ」を見る

2. 製造―営業 連携

3. 雇用の安定

4. 付加価値生産性を高めるということ

 

【この連載の前回:商売繁盛に向けた「ものづくり改善」(その2)へのリンク】

「ものづくり改善」の成果というと、生産性向上、リードタイム短縮、在庫削減、品質安定、歩留まり向上のような指標で評価されることが多いと思います。

 

これら指標が改善されると「企業の売上利益」、更には「顧客満足」に繋げられることになります。「ものづくり改善」により売上利益確保と顧客満足向上に結びつけるのは当然ですが、大切なのはこれだけではありません。

 

1.生産性向上して人員はどうする?

改善活動の結果、生産性が向上出来たとします。例えばある工程の一人当たり生産性が従来1000個/人であったのが、改善により1500個/人に向上。すなわち労働生産性が1.5倍になったとします。この生産は従来6人で担当していたとすると、改善により4人で出来ることになります。

 

少ない人数で出来るようになりますので、人件費削減、つまり原価低減となり利益拡大に繋がり、コスト競争力が強化されます。成果としては立派です。ここまではいいのですが、次の打ち手として「減った2人はどうするか?」ということが経営者に問われます。

 

2.三方良し

ものづくり経営学の大家として知られる藤本隆宏氏(一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事/早稲田大学教授/東京大学名誉教授)が、大変興味深い提言をしています。

 

「日本企業の隠れた競争力の一つは、近江商人以来の『三方良し』。つまり顧客の満足(買手良し)・企業の利益(売手良し)・地域の雇用安定(世間良しつまり地域良し)の3つを同時に追求する経営思想を持つ優良な中小中堅企業が、地域に根差す現場を重視することです」

【出典】1,000回以上通った現場から見えてきた「広義のものづくり」の本質。| UTOKYO VOICES 059
    大学院経済学研究科 教授 / ものづくり経営研究センター センター長 藤本隆宏

 

藤本隆宏氏の提言で特に興味深いのは、次の箇所です。

 

3.「雇用の安定」ということ

先ほどの事例、従来6人で生産していたのが4人でも出来るようなったら、経営者は駆けずり回って2人分の新たな仕事を獲得してくることが大切。2人を解雇したりなどは決してしてはいけないということです。

 

もし解雇でもすると、本人とその家族は会社を恨み悪い評判を流すだけでなく、残った従業員も「次は自分達か」と思うようになります。そうなると改善活動を熱心にやらなくなるばかりか、改善とは直接関係の無い業務までも身が入らなくなります。

 

計算上期待される利益改善効果自体が見込めなくなるだけでなく、負のスパイラルが起こります。

 

余剰人員の発生 ⇒ 従業員の解雇 ⇒ 従業員の士気低下と地域での信用低下 

 

この企業はその地域で長く存続できない事態となります。経営者は「生産性向上」と共に「需要創造」を行う必要があります。先ほどの例では、改善で2人分省人化出来たなら、2人分の仕事を別に獲得するということです。

 

需要創造ですが、元々の事業(本業)を伸ばす場合もあれば、新規事業を獲得する場合もあります。元々の事業(本業)を伸ばす場合ですが、パイが拡大してない事業領域で販売を伸ばすにはシェア拡大しかないのですが、市場規模がシュリンクしている領域では先行きは厳しいでしょう。

 

一方、新規事業の需要創造は結果的にその企業の事業構造転換に繋がります。世の中の産業構造の転換に順応しながら新規事業分を増やすことは、その企業が時代の中で生き残って...

いく企業に変化していくということです。

 

それにあたって、旧産業の生産に必要な雇用量(人・時)と新産業の生産に必要な雇用量(人・時)の合計は安定、つまりは雇用が維持されるということが大切です。「生産性向上」と「需要創造」の両方が回っている状態が継続されることで、企業は世の中の変化に対応しながら永続的に発展していることに繋がっていきます。

 

経営者が駆けずり回って仕事を獲得してくる姿は、工場の中の従業員も見ています。その姿を見て「自分達も更にものづくり改善に精を出すか」という気持ちになるものです。雇用の安定ということを経営者が心して取り組むこと。商売繁盛に向けた「ものづくり改善」で大切なことです。

 

次回に続きます。

 

◆関連解説『生産マネジメントとは』

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