前回のその1に続いて解説します。
常々、私が思っていることですが、どんなに高く苦労してモノにした技術であっても、それを高く売ることができなければ、「商売」「ビジネス」として同業者と戦っていけません。そんな業界の荒波を乗り越えて、商売をしていかないといけないわけですが、そのやり方についても、会社ごと、経営者ごと、いろいろなやり方があります。
今回は、これまで私が20年以上、この製造業の業界で見て聞いてきたキーワードを元に、製造業の価格交渉 (タフネゴシエーターの名言)について考えていきたいと思います。
「あえて社長にならない」これは、単品部品の加工を主に受注する機械加工メーカーの専務さんの言っていた一言です。この人は、実質すでに社長業をされていたのですが、価格交渉で攻めたあげくここ一番、「社長に聞いてきます」というクッションを置くために、あえて「専務」という立場をとっていました。
「競合相手に外注したら納期遅延された(失敗例) 」これは、試作板金メーカーの営業さんの失敗談です。そりゃそうだろ、と言いたくなるような話です。多くの営業担当さんは、受注してきた製品については、きちんと要求品質どおりの製品として納品できるか、納めるまで気が気でないと思います。その営業担当さんは、とあるティア2メーカーから受注した板金仕事を社内は手一杯で対応してもらえず(派閥の問題もあり)、困ったあげくライバルメーカーに外注しました。この業界は、仕事の得手不得手もありますので、仕事を出しあったりするものです。
ですから本人はさして問題はないだろうと思っておりましたら、やはり案の定、納期をダダ遅れにされました。「あー、やられたな」という感じです。そのライバルメーカーとは、いつも仕事を取り合っていたので、受けた仕事の納期をあえて遅らせることで、外注した営業担当さんの会社は、大きく信用を失うことになりました。ひどいケンカ状態になり、「どうしてくれるんだ!」と掴みかかってましたが、後の祭りでした。
「安い仕事受けるなら、遊んでいた方がマシ」これは、ある研磨屋さんの社長の一言です。安い仕事で現場の負荷が埋まってオーバーフローしていると、単価の良い仕事の話があったときに受注できなくなるため、安い仕事は、仮に現場が空いていても受けない時が多いそうです。
「接待するとナメられるだけだから、ウチはやらない」これは、ある大型の門型マシニングを持つ機械加工メーカーさんが、自動車部品の仕事から撤退する決意をしたときの一言です。その会社は、これまで毎年年間、何百万円という接待費を使っていました。
接待という営業は、仕事を確保するには効果はあるかもしれませんが、価格交渉においては足を引っ張るだけとその会社は考え、一切止める決断をしました。そして、得意だった大型の金型を高精度に加工する技術を活かし、県外営業拠点もつくり、広く顧客を開拓して、顧客に対し強い立場での受注を行っていくことで、高い利益を得ることに成功しています。
「ウチは相手がもってない設備で勝負する」これは、まだ大手企業でも5軸加工機を設備していない頃、ある機械加工メーカーの経営者さんが言っていた一言です。この経営者さんの考えは、同業他社の持っていない機械を設備することで、業界水準より高い価格基準を持つことが重要だと言っていました。これによって、同業他社の倍くらいのアワーレートで仕事を受注していたと思います。
「この時期は空けとけよ」この言葉は、ある機械加工業の社長さんの言葉です。「この時期」とは、年末年始やゴールデンウィークなど長期休暇前後のことです。こういった長期休暇の直後の納期、例えば、年始であれば1月6日といった休み明け初日が納期の仕事は、どこも受注したがらないため、仕事を発注する担当者さんなどは、仕事をさばくのが大変です。
そこで、通常の単価よりも割高で受注できる確率が上がるのが、この長期休暇の前後になるというわけです。これを利用し、そういった時期は、あえてなるべく仕事を断り、空けておくよう指示を出す会社もあります。
「その工数でやれるなら、やってもらおうじゃねぇか」最後に、これは私自身、実際に発注企業から言われた言葉です。捨て身の戦術です(そんなにオーバーなことでもありませんが)。私は以前勤めていた5軸マシニングを主力にしている加工メーカーにてCAMオペレーター兼務で技術営業もやっていました。
そこで、航空機部品の仕事を、知り合いづてで受注するため、ある大手企業に訪問営業をしたのですが、その企業では、ある航空機部品を3軸の門型マシニングで3回段取り、60時間で加工していました。その部品を私は、5軸の複合加工機を使い、24時間で加工できますと大見得を切り...