熱処理とは?【基礎知識】代表的な種類や違いをわかりやすく解説

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熱処理とは?【基礎知識】代表的な種類や違いをわかりやすく解説

 

1. 熱処理とは?

熱処理とは、金属に熱を加えてその組織を変化させ、機械的性質や耐食性、耐摩耗性などの性能を向上させるための加工技術です。主に鋼材を対象としますが、アルミニウムやチタンなど、他の金属にも用いられます。

熱処理は、古くから行われてきた歴史のある技術で、紀元前500年頃の中国や、紀元前1000年頃のインドなどで、熱処理が行われていたという記録があります。

日本では、江戸時代には、刀の硬度を高め、切れ味を向上させるために刀の焼入れが行われていました。

20世紀に入ると、自動車や航空機などの工業製品の開発に伴い熱処理の技術は急速に発展し、近年では、熱処理の技術はさらに進化し、さまざまな種類の熱処理が行われています。

 

2. 熱処理の種類

熱処理には、以下のようなものがあります。

①焼なまし

金属の組織を、フェライトとパーライトの比率を高めるように変化させ(金属の組織を軟化させて)切削性や成形性を向上させる。

②焼ならし

焼なまし後に、再び加熱して(パーライトの量を増やす)、硬さを向上させる。

③焼入れ

金属を高温まで加熱して(パーライトの組織を、硬いマルテンサイト組織に変化さ)、硬さを高める。

④焼戻し

焼入れ後の金属を再加熱して、硬さを調整し(マルテンサイト組織を変化させ)、靭性を向上させる。


3. 熱処理の原理・仕組み

熱処理の原理は、金属の組織変化を利用したものです。鋼材の組織は、炭素量によって以下のようになります。

 

  • フェライト…鉄の単体組織です。炭素量が少ない(0.02%以下)鋼材にみられます。軟らかく、延性が高い組織です。

  • パーライト…フェライトとセメンタイトの混合組織です。炭素量が中程度(0.02%〜0.8%)の鋼材にみられます。硬さや強度がある組織です。

  • マルテンサイト…オーステナイトが急冷されたときに形成される組織です。炭素量が中程度〜多量(0.02%〜2.1%)の鋼材にみられます。非常に硬いが脆い組織です。

  • オーステナイト…鉄の結晶構造の一種です。鉄の炭素量が中程度〜多量(0.02%〜2.1%)の鋼材にみられます。面心立方格子構造を持ち、硬度が低く、延性が高い組織です。

以下に、それぞれの組織の特徴をまとめます。

表1,金属の組織特徴

組織 炭素量 結晶構造 特徴
フェライト 0.02%以下 体心立方格子 軟らかく、延性が高い
パーライト 0.02%〜0.8% 体心立方格子 硬さや強度がある
マルテンサイト 0.02%〜2.1% 体心立方格子 非常に硬いが脆い
オーステナイト 0.02%〜2.1% 面心立方格子 硬度が低く、延性が高い


①焼なましは、フェライトとパーライトの組織を、フェライトとパーライトの比率を高めるように変化させます。

②焼ならしは、焼なまし後に再び加熱して、パーライトの量を増やします。

③焼入れは、パーライトの組織を、硬いマルテンサイト組織に変化させます。

④焼戻しは、焼入れ後の金属を再加熱して、マルテンサイト組織を、硬さや靭性を向上させるように変化させます。

 


関連記事:マルテンサイトの結晶構造・TTT曲線:金属材料基礎講座


 

4. 焼入れの代表的な種類

焼入れには、以下のようなものがあります。

  • 全体焼入れ:金属全体を高温まで加熱して、マルテンサイト組織に変化させる。
  • 表面焼入れ:金属の表面だけを高温まで加熱して、マルテンサイト組織に変化させる。
  • 真空焼入れ:真空中で焼入れを行うことで、酸化や脱炭を防ぐ。
  • 浸炭焼入れ:金属の表面に炭素を浸透させて、マルテンサイト組織に変化させる。
  • 高周波焼入れ:高周波の電流を流して、金属の表面を高温まで加熱する。
  • 窒化焼入れ:窒素を金属の表面に浸透させて、硬度を向上させる。


①全体焼入れ

最も一般的な焼入れ方法です。金属全体を均一に焼入れすることができるため、硬度や強度が安定します。

②表面焼入れ

金属の表面だけを焼入れする方法です。表面の硬度を高めたい場合に用いられます。

③真空焼入れ

真空中で焼入れを行うため、酸化や脱炭を防ぐことができます。高級な鋼材や、耐食性を向上させたい場合に用いられます。

④浸炭焼入れ

金属の表面に炭素を浸透させて、マルテンサイト組織に変化させる方法です。表面の硬度を高めながら、内部の靭性を維持することができます。

⑤高周波焼入れ

高周波の電流を流して、金属の表面を高温まで加熱する方法です。短時間で焼入れを行うことができるため、割れが発生するリスクを低減することができます。

⑥窒化焼入れ

窒素を金属の表面に浸透させて、硬度を向上させる方法です。耐摩耗性を向上させたい場合に用いられます。

 


関連記事:熱処理工程は一方通行作業が基本


 

5. 焼戻しの代表的な種類

焼戻しには、以下のようなものがあります。

  • 低温焼戻し:焼入れ後の金属を、低温で再加熱する。
  • 高温焼戻し:焼入れ後の金属を、高温で再加熱する。

①低温焼戻し

硬さを調整し、靭性を向上させます。

②高温焼戻し

硬さを調整し、加工性を向上させます。

 

6. 水焼入れと油焼入れの違いとは

水焼入れと油焼入れは、焼入れの際に使用する冷却剤の違いです。水焼入れは、冷却速度が速く、硬度を高めることができます。しかし、冷却速度を上げすぎると、割れが発生する可能性があります。油焼入れは、冷却速度が遅く、硬度は低くなりますが、割れが生じにくいです。

具体的には、水焼入れでは、冷却速度が1000℃/秒を超えるため、マルテンサイト組織が形成されます。マルテンサイト組織は、非常に硬いが脆い組織です。そのため、水焼入れは、硬度を高めたい場合に用いられます。

油焼入れでは、冷却速度が1000℃/秒以下であるため、マルテンサイト組織が完全に形成されません。そのため、油焼入れは、硬度は低くなりますが、割れが生じにくいです。

水焼入れと油...

熱処理とは?【基礎知識】代表的な種類や違いをわかりやすく解説

 

1. 熱処理とは?

熱処理とは、金属に熱を加えてその組織を変化させ、機械的性質や耐食性、耐摩耗性などの性能を向上させるための加工技術です。主に鋼材を対象としますが、アルミニウムやチタンなど、他の金属にも用いられます。

熱処理は、古くから行われてきた歴史のある技術で、紀元前500年頃の中国や、紀元前1000年頃のインドなどで、熱処理が行われていたという記録があります。

日本では、江戸時代には、刀の硬度を高め、切れ味を向上させるために刀の焼入れが行われていました。

20世紀に入ると、自動車や航空機などの工業製品の開発に伴い熱処理の技術は急速に発展し、近年では、熱処理の技術はさらに進化し、さまざまな種類の熱処理が行われています。

 

2. 熱処理の種類

熱処理には、以下のようなものがあります。

①焼なまし

金属の組織を、フェライトとパーライトの比率を高めるように変化させ(金属の組織を軟化させて)切削性や成形性を向上させる。

②焼ならし

焼なまし後に、再び加熱して(パーライトの量を増やす)、硬さを向上させる。

③焼入れ

金属を高温まで加熱して(パーライトの組織を、硬いマルテンサイト組織に変化さ)、硬さを高める。

④焼戻し

焼入れ後の金属を再加熱して、硬さを調整し(マルテンサイト組織を変化させ)、靭性を向上させる。


3. 熱処理の原理・仕組み

熱処理の原理は、金属の組織変化を利用したものです。鋼材の組織は、炭素量によって以下のようになります。

 

  • フェライト…鉄の単体組織です。炭素量が少ない(0.02%以下)鋼材にみられます。軟らかく、延性が高い組織です。

  • パーライト…フェライトとセメンタイトの混合組織です。炭素量が中程度(0.02%〜0.8%)の鋼材にみられます。硬さや強度がある組織です。

  • マルテンサイト…オーステナイトが急冷されたときに形成される組織です。炭素量が中程度〜多量(0.02%〜2.1%)の鋼材にみられます。非常に硬いが脆い組織です。

  • オーステナイト…鉄の結晶構造の一種です。鉄の炭素量が中程度〜多量(0.02%〜2.1%)の鋼材にみられます。面心立方格子構造を持ち、硬度が低く、延性が高い組織です。

以下に、それぞれの組織の特徴をまとめます。

表1,金属の組織特徴

組織 炭素量 結晶構造 特徴
フェライト 0.02%以下 体心立方格子 軟らかく、延性が高い
パーライト 0.02%〜0.8% 体心立方格子 硬さや強度がある
マルテンサイト 0.02%〜2.1% 体心立方格子 非常に硬いが脆い
オーステナイト 0.02%〜2.1% 面心立方格子 硬度が低く、延性が高い


①焼なましは、フェライトとパーライトの組織を、フェライトとパーライトの比率を高めるように変化させます。

②焼ならしは、焼なまし後に再び加熱して、パーライトの量を増やします。

③焼入れは、パーライトの組織を、硬いマルテンサイト組織に変化させます。

④焼戻しは、焼入れ後の金属を再加熱して、マルテンサイト組織を、硬さや靭性を向上させるように変化させます。

 


関連記事:マルテンサイトの結晶構造・TTT曲線:金属材料基礎講座


 

4. 焼入れの代表的な種類

焼入れには、以下のようなものがあります。

  • 全体焼入れ:金属全体を高温まで加熱して、マルテンサイト組織に変化させる。
  • 表面焼入れ:金属の表面だけを高温まで加熱して、マルテンサイト組織に変化させる。
  • 真空焼入れ:真空中で焼入れを行うことで、酸化や脱炭を防ぐ。
  • 浸炭焼入れ:金属の表面に炭素を浸透させて、マルテンサイト組織に変化させる。
  • 高周波焼入れ:高周波の電流を流して、金属の表面を高温まで加熱する。
  • 窒化焼入れ:窒素を金属の表面に浸透させて、硬度を向上させる。


①全体焼入れ

最も一般的な焼入れ方法です。金属全体を均一に焼入れすることができるため、硬度や強度が安定します。

②表面焼入れ

金属の表面だけを焼入れする方法です。表面の硬度を高めたい場合に用いられます。

③真空焼入れ

真空中で焼入れを行うため、酸化や脱炭を防ぐことができます。高級な鋼材や、耐食性を向上させたい場合に用いられます。

④浸炭焼入れ

金属の表面に炭素を浸透させて、マルテンサイト組織に変化させる方法です。表面の硬度を高めながら、内部の靭性を維持することができます。

⑤高周波焼入れ

高周波の電流を流して、金属の表面を高温まで加熱する方法です。短時間で焼入れを行うことができるため、割れが発生するリスクを低減することができます。

⑥窒化焼入れ

窒素を金属の表面に浸透させて、硬度を向上させる方法です。耐摩耗性を向上させたい場合に用いられます。

 


関連記事:熱処理工程は一方通行作業が基本


 

5. 焼戻しの代表的な種類

焼戻しには、以下のようなものがあります。

  • 低温焼戻し:焼入れ後の金属を、低温で再加熱する。
  • 高温焼戻し:焼入れ後の金属を、高温で再加熱する。

①低温焼戻し

硬さを調整し、靭性を向上させます。

②高温焼戻し

硬さを調整し、加工性を向上させます。

 

6. 水焼入れと油焼入れの違いとは

水焼入れと油焼入れは、焼入れの際に使用する冷却剤の違いです。水焼入れは、冷却速度が速く、硬度を高めることができます。しかし、冷却速度を上げすぎると、割れが発生する可能性があります。油焼入れは、冷却速度が遅く、硬度は低くなりますが、割れが生じにくいです。

具体的には、水焼入れでは、冷却速度が1000℃/秒を超えるため、マルテンサイト組織が形成されます。マルテンサイト組織は、非常に硬いが脆い組織です。そのため、水焼入れは、硬度を高めたい場合に用いられます。

油焼入れでは、冷却速度が1000℃/秒以下であるため、マルテンサイト組織が完全に形成されません。そのため、油焼入れは、硬度は低くなりますが、割れが生じにくいです。

水焼入れと油焼入れの具体的な違いは、以下の表の通りです。

 

表2、水焼入れと油焼入れの具体的な違い

項目 水焼入れ 油焼入れ
冷却速度 1000℃/秒以上 1000℃/秒以下
組織 マルテンサイト マルテンサイト + 残留オーステナイト
硬度
割れ 発生する可能性がある 発生しにくい
使用例 工具鋼、刃物鋼 構造用鋼、機械構造用鋼

 


関連記事:残留オーステナイトとは 金属材料基礎講座


 


7. まとめ

熱処理は、金属の機械的性質や耐食性、耐摩耗性などを向上させるための重要な加工技術です。さまざまな種類の熱処理があり、それぞれに特徴があります。適切な熱処理を行うことで、金属の性能を最大限に引き出すことができます。

このような熱処理を行う際には安全対策を十分に講じる必要があり、熱処理炉は高温になるため、火傷ややけどに注意が必要です。また、熱処理炉から出る煙やガスには有毒なものがあるため、呼吸器を保護する必要があります。さらに、熱処理中に金属が割れる可能性があるため、防護服を着用して、飛散物に当たらないよう注意する必要があります。

技術者であれば、熱処理の基礎知識を身につけておくことが重要です。

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この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。


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