ノイズの発生と対策について(ノイズ除去の基本と応用)本記事は、ちまたでよく耳にするコトバ、キーワードなどを筆者の経験事例を踏まえた見解を記述するものです。
◆無線回路、電気回路には、なぜノイズが存在するのか
無音室にいない限り、何らかの音の雑音(ノイズ)が聞こえます。どんな世界にも程度の差はあっても、ノイズというものは存在します。ノイズは、必要としている情報や信号以外のモノです。そのため、意図的に作られた環境でない限りノイズが無い世界はあり得ないと思います。言い方を変えると「なぜノイズが無くならないのか、消せないのか」更に「ノイズの発生とその対策はどのようなものがあるか」ということです。
無線機や電子機器での電子回路では、どのように動作させるかを設計します。当然ですが、回路設計そのものは、理論的に正常動作する前提です。ところが、予期しない箇所で雑音(ノイズ)の発生や発生したノイズの影響によって期待した設計通りの動作をしない場合があります。このノイズは、回路の電線内部や回路外へ影響します。
無線機は、使用している周波数帯にノイズがあるとそのノイズを受信してしまい希望波を受信するのが困難になってしまうこともあります。回路設計者は、ノイズが発生しない様に、あるいは発生しても大丈夫な様に設計計算しておきます。つまり、ノイズに対する動作マージンを確保するという事です。
では、そもそも、なぜノイズが発生するのでしょうか。ノイズが発生しなければ、動作マージンなどは考えなくてもいいはずです。ノイズの発生メカニズムとその対策及び無線回路などへの影響回避について解説します。
【目次】
- 1. どこにノイズがあるのか
- 2. ノイズがあると何が起こるか(どんな影響があるのか)
- 3. ノイズを発生させないために
- 4. ノイズが存在する環境で回路の安定動作を確保する
- 5. 無線回路への影響とその回避策
- 6. まとめ
◆関連解説記事:無線機の電源に発動発電機を使ったら、無線機使用不可能?
1. どこにノイズがあるのか
ノイズには大きく2つあります。内在的なものと外来的(環境的)なものです。内在的なものとしては、電子装置等の内部で発生するものです。外来的なものは、環境的な要素が大きく、周囲に置いてある装置が出すノイズや大気中で発生した気候的なものです。周波数帯にもよりますが、短波帯(3MHz~30MHz)では-100dBm程度で大きい場合-80dBmという信号強度程度まで上昇することがあります。ラジオや無線の信号は大体-70dBm~-90dBmなので受信しにくい場合が多くあります。携帯電話の周波数帯(800MHzや2GHz程度)のノイズは-110dBm程度なので割と低く安定的です。
電子装置から発生すると言っても出るべくして出るものが多く、わかりやすい代表的なモノでは電子レンジの高周波ノイズがあります。他に工事現場での建機でのモータや油圧制御機器、電柱に取り付けてあるトランス(電柱の途中に設置してある大きめの箱の様なもの)等から出ていたりします。これらの外部装置では、内蔵されている機器を動作させるための電気信号が大気に漏れ出して「ノイズとして」認識されたりします。こういう場合ノイズの信号強度は大きくても-90dBm程度です。
他にも街中にはこのようなものが沢山あり、自動ドア開閉、自動車のエンジン制御など電気信号を扱うところには必ずと言っていいほど存在しています。気候的なものとしてわかりやすいのは雷ですね。雷がピカッと光った際にテレビやラジオの音がバリバリしたりします。こういう場合のノイズの現れ方はインパルス的なので瞬間的に現れて消えます。その意味で、環境的なものと言っており、避けられないものとして存在します。これらは無線電波に影響を与えます。
さて内在的なものですが、例えば、パソコンを例に出してみます。パソコンのACアダプタの途中に円筒状のツチノコのようなものがあります(無いのもありますが)。これは、パソコンへの電源供給時にACアダプタで発生したノイズをパソコン内に送らないためと、パソコン内部にある電池充電用回路で発生したノイズを外に出さないためにあります。
つまり、パソコンの電源入力部にはノイズ発生源となる回路が存在しているという事です。今のパソコンはあまりケーブルで接続するというのもが減っていますが、ディスプレーやUSBケーブルにもノイズが乗っています。いずれもパソコン内部で発生しています。これらがケーブルを伝わって装置内部や大気中に放出されます。伝導性ノイズと言いますが、大体ケーブルを伝わるノイズの大きさは-60dBm程度まで上昇している場合があります。それが大気中に放出されるときに減衰され、-90dBm程度まで低下するイメージです。
このようにパソコンひとつとってもノイズが沢山あります。家電でも、先の電子レンジ内部でのノイズ、エアコンでも電気回路があるので内在しています。ノイズは生活のあらゆるところで存在しています。
以下の様な計測器で見れる様な状態だと、主信号に対して-10dB~-20dB(1/10~1/100)の大きさです。オシロスコープの様な計測器で観測できるレベルだと無線信号のノイズとしてはかなり劣悪です。
2. ノイズがあると何が起こるか(どんな影響があるのか)
無視できるノイズと無視できないノイズがあります。無視できないものとして、例えば、人の会話中に、もし、テレビの音や街頭演説、宣伝カーとかが近くを通った場合、会話の内容が聞こえなくなったりします。これがノイズの影響と言えます。つまり、目的以外の信号が存在し、目的を邪魔するものがノイズという事です。
これが、小さな音であれば、聞こえにくいにしても、目的は達成します。これが無視できるノイズになります。同じようなものでも無視できたり無視できなかったりします。ザックリ、主信号に対して1/5~1/10くらいで気になるほどの大きさです。
では、これが電気回路や装置の場合だった時にどのようなことが起こるでしょうか。先の会話を邪魔されたという場合を例にして、パソコンやスマホでWi-Fi接続状態でインターネット動画を見ているとしましょう。この時、パソコン、スマホはWi-Fi無線ルータと接続しています。このWi-Fiの電波がナニモノかの妨害電波で途絶えたのと同じ状態と言えます。そうなると、インターネット動画は、止まってしまい、つづきが見られなくなります。こうした信号はデジタル信号の伝送なのでS/Nという表現でノイズ(N)に対して信号(S)がどのくらいの大きさかが伝送可否の基準になります。安定した動画とか見るには、ザックリS/Nで20dB以上は欲しいところです。
他の例で言うと、固定電話機が壁に繋がっているジャック(RJコネクタといいます)に不良があったとします。そうすると、電線で繋がっているのに他のノイズが混入しやすくなり、電話で会話している音声が、バリバリ、ガサガサするときがあります。このジャックだけではなく、電話線はずーっと繋がっているのでどこかで同じような不良があるかもしれません。そうすると、ノイズで会話が聞こえづらくなります。
このように、ノイズが目的を邪魔することになり、装置は正常動作していないことになります。今回の例では、会話、音声の例としていますが、機械同士の信号のやり取りも同じようなことが発生します。リモコンで押したはずのボタン通りの操作ができなくなってしまうという誤動作もあり得ます。パソコンでマウスを操作しているのに動かないとか誤動作するとかは十分にあり得る話です。
3. ノイズを発生させないために
ノイズが存在していることで、機器、装置の誤動作が発生する事を記述しました。外来的ノイズは発生を抑制できないことが多いので、内在するノイズを発生させないことを考えてみます。
基本的に、電気回路では信号を伝達することでモノの動作をさせます。その時に送った信号が丁度いい感じに(過不足が無く)伝われば、信号は伝達先で他の信号や状態に変化します。例えば、リモコンのボタンを押したら、その先でエアコンが動作したとかです。もしここで、過不足があったとしましょう。信号の大きさが大きすぎたとかです。大きすぎた信号は、受け手の回路では吸収しきれず、エネルギーとして余ってしまい、どこかに大きすぎた分を逃がそうとします。これがノイズとして発生することになります。信号が大きすぎるという事は、期待した信号の大きさを超えているからです。お互い通信している電気信号では、信号の共用範囲があります。また、お互いの伝送条件を一致させないと上手くいきません。
伝送条件を合わせることを「整合させる」と言います。その逆は「不整合」と言います。この不整合を起こしたときにノイズが発生しやすくなります。
この不整合というのは、電気的には「インピーダンスをマッチングさせる」と言います。先の会話に言い換えると、聞きやすい丁度良い音量と音質となるようにすることです。もし、音量音質が丁度良くないと、聞き手は不快感を覚えます。この不快感がノイズ発生と同義になります。
さて、インピーダンスマッチングというのは電気的な条件として伝送した信号を過不足なく伝達させます。専門的な言い方をすると、送信側の出力を最大限に伝達させるために出力抵抗と同じ入力抵抗にすることです。無線の様な高周波信号を扱う場合のインピーダンスは50Ωという抵抗値のものが標準です。なので、機器同士を接続する場合はお互いのインピーダンスは50Ωで設計されています。この辺の理論的なことはちょっとグーグル先生に聞けば教えてくれます。
大事なことは、不整合を起こすとノイズが発生するという事を知ることです。不整合を無くすように電気回路を設計しないと良くないのです。しかし、これが意外と難しいところで、電線をつなげて、規格のあった信号とすれば問題ないように思えますがそれだけではうまくいきません。回路テクニック的なモノがありますが、基本は、短い電線で最短でつなげるということにつきます。なぜかというと、電線が長くなると、それだけコイル成分、コンデンサ成分を持つことになるので、いくら規格通りの部品を使ってもインピーダンスが回路上で乱れます。伝送信号の速度や周波数が大きいと影響が顕著に現れます。それが不整合を引き起こし、ノイズ発生の原因になります。
設計をやったことがある人はわかると思いますが、伝送信号が乱れているのを計測器で観測したことがあると思います。デジタル信号なら、オーバシュート、アンダーシュートなどのリンギングを起こして矩形波が乱れます。アナログ信号だと、歪率が悪くなります。全て不整合がもたらす影響です。
最近では、パソコンやワークステーションでの電磁界解析でプリント基板配線の適正化をしてくれるので、回路テクニックに長けていなくてもなんとか動作する回路は設計できます。このように「不整合」を起こさせないことが最も重要な、ノイズ発生を回避することになります。
(引用:https://www.murata.com/ja-jp/products/emc/emifil/library/knowhow/basic/chapter03-p2)
4. ノイズが存在する環境で回路の安定動作を確保する
ノイズ発生している状態、ノイズが存在するかもしれない状態で電気回路や無線回路の動作を安定的にするためにはどうすればよいかを考えてみましょう。これは、アナログ回路、デジタル回路で少々異なります。一般にデジタル回路は少々のノイズでも動作するというノイズ耐性があります。
まずはデジタル回路ですが、基本的には、1か0かを判別できるようにすることです。1か0かを判別するだけなので、そのしきい値が分離できればOKです。例えば、5Vで1、0Vで0とする場合、わかりやすく、5V~2.5Vで1、2.5V~0Vで0と半分半分にすれば判別できます。専門的にはTTLレベルとかCMOSレベルとか称して、そのしきい値を決めています(この辺のしきい値の電圧はグーグル先生に聞いてみてください。最近は電池1個でも動作する回路があるので、LVDSとか色々なレベルがあります)。その際、しきい値近辺でノイズがある場合は誤動作する可能性が出てきます。
例えば先ほどの2.5V近辺で0.1Vのノイズがあると、微妙なタイミングで1か0かを判別できなくなります。そういう時は、回避策として2つあり、一つはノイズを回路に混入させない様にノイズフィルタを電源部か、信号ラインに挿入します。もう一つは信号そのものの振幅を5Vと0Vにできるだけ近づける様に回路を工夫します。その一例として、プルアップ、プルダウンという方法です。これはどういうことかというと、初めからどちらかに偏らせておいて、信号が伝送されたときに反対に振幅させるというものです。
つまり、プルアップしている場合は、5Vに抵抗器を介して、5V側に偏らせておき、5Vの時はそのまま、0Vの時は0Vに強制的に振らせるという動きをさせます。プルダウンはその逆です。ごくまれに、終端と言って抵抗器を分圧する形で中間的な電位にしておき、伝送された信号で両方のどちらかに振らせるという事もさせます。
さて、アナログ回路でのノイズ対策ですが、基本的にノイズフィルタを入れることが基本です。他には伝送する信号のレベルを大きくして、ノイズよりも10倍以上の信号とさせるなどでノイズ耐性をとります。ただし、無線信号の様な微弱信号ではノイズフロアより下回っていると二度と再生できなくなるので、アナログ回路ではノイズより下回ってしまうことが無いように信号レベルと雑音レベルの設計をします。
特にアナログ回路では熱雑音という物理現象が大敵になり、半導体とかが動作する際に雑音を発生しやすくさせてしまいます。そのため、ノイズフィギュアという物理量が回路設計時に重要なファクタとなります。外部からの雑音というより内部で自然発生的に出てきます。
先の不整合を起こすとノイズになるという事ですが、アナログ信号の伝送で不整合を起こすと、伝送時に「反射信号」が発生します。そうなると、伝えた信号とは別に信号が跳ね返ってきてしまうので、それが行き場を失い、伝送路上で行ったり来たりして発振という現象になり定在波比というものに発展します。わかりやすく言うと...