【この連載の前回:レオロジーを深く知る(その2)レオロジーという「考え方」へのリンク】
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第1章 レオロジーとは
第1章では、レオロジーという「考え方」についての説明から始めます。この章で取り上げる内容です。
【この章で取り上げる内容】
- レオロジーの歴史的背景を振り返り、その流れを確認します。
- 具体的なレオロジーのやり方について説明します。
• 会社の仕事とレオロジー
- 会社の仕事とレオロジーの関わりについて考えてみます。
- 商品を作り出すときの有効性について見てみます。
• 人の感覚とレオロジー
- レオロジーは「おさわりの科学」とも言われています。
- 人間の五感が大事であることを再確認し、判断基準についても説明します。
• レオロジーを理解するために
- レオロジーの理解を妨げる要因について簡単にまとめます。
- オススメの理解へのアプローチについて紹介します。
4. レオロジーの理解のために
レオロジーという考え方自体は非常に単純で理解しやすいものなのですが、実際に比較しようとすると、突然複雑になることがあることがあります。
4.1 似たものを比べると?
たとえば、身近な水と蜂蜜を比べてみましょう。
• 水
– 簡単に箸でかき混ぜることができる。
– コップに簡単に注ぎ込むことができる。
• 蜂蜜
– 容易にかき回すことができない。
– 入れ物を傾けても、流れにくい。
図 6: はちみつとマヨネーズ
これらの違いは触れば簡単に理解できますが、その違いはあくまでも感覚的な相対的な比較であり、具体的にどのように表現するかが難しいのです。粘性の高いもの同士を比較する場合、より困難になります。たとえば、ハチミツとマヨネーズを比べるためには、何らかの客観的な判断基準が必要となります。
4.2 言葉の使い方が曖昧
もう 1 つの面倒くさいこととして、レオロジーでは多様な言葉が使われることがあります。これは、前述したようにレオロジーが人間の直感的な評価を行いやすいためだと言えます。その結果、抽象的な言葉や指示代名詞による、あまりにもイメージに偏った議論に陥りがちになるのです注3)。たとえば、以下に示したような言葉はレオロジーの説明によく出てきます。しかし、具体的に理解しようとすると、その意味が急にわからなくなることはありませんか?
注3)まあ、流石に以下のようなことを本当に言う人は少ないのですが、それに近いことを口走っていることはよく見かけます。「この時はこう、あの時はああ。」⇐ それなら。今はどの時?
• 「応力集中が粘弾性により緩和します。」
• 「チクソ性の高い液体は液だれしにくい。」
• 「非 Newton 流体の特徴的な流動を設計しなければいけない。」
この時に大事になるのは、曖昧な言葉でごまかすことではなく、共通のイメージを持てるようにキチンと言葉を定義することです。このようなアプローチに数式が役立ち、数式を使いこなせれば言葉の定義の不明確さは解消できます。しかしながら、数式が突然現れてもそれだけで内容が理解できるわけではありませんから、言葉と組み合わせて理解することが重要です。さらに、レオロジーの対象は非常に幅広いものであり、これも混乱の原因となります。以下に例を示します。
• 人間の心地よさをレオロジー的感覚で評価
– 「タピオカ」の喉越しのツルンとした感覚
– 肌触りのよい下着
• 機能設計にレオロジーを利用
– ショックのない運動靴
– 塗り易くて液だれしない塗料
食感や手触りから、材料の機能性の設計に至るまで、非常に幅広い分野でレオロジーの言葉が使われています。これらの言葉も、使っている人によって微妙に異なる意味を持つため、混乱しやすいものとなります。
4.3 よくある状態
我々の身の回りで、レオロジー関連で実際によくある状態として、以下のようなものがあります。
• ありがちな両極端
– 脳みそ筋肉状態⇔とにかく測れ
– 頭でっかち⇔理屈ばかりで手が動かない
• 誰もが、最初は素人
– うまくやっている人の物まねが手っ取り早い
– でも、近くにいい先輩がいないときは?
– 経験者のいない新しい問題へのアプローチは?
たとえば「頭で考えずに手を動かしてとにかく測れ」と言われたり「まずよく調べてから測定しよう」と言われたりして、どうすればいいのか判らなくなったりします。そこで、自身が素人であることを自覚して周りのマネをしようとしても、近くに先輩がいなかったり、そもそも新...