元素分析 ICP-AESの構成、ICP-AESにおける試料溶解:金属材料基礎講座(その144)

投稿日

元素分析 ICP-AESの構成、ICP-AESにおける試料溶解:金属材料基礎講座(その144)

【目次】

    1. ICP-AESの構成

    元素分析として広く使用されているICP-AESの構成を下図に示します。ICP-AESでは試料を酸などの溶液に溶解して分析します。この溶液試料を5000~8000℃のプラズマ中に噴霧することで試料に含まれる元素を励起させ、発光スペクトルを出します。この発光スペクトルを各波長ごとに分光、回析させます。波長は各元素によって決まります。そして、各元素(各波長)ごとに発光スペクトルの強度を測定して定量分析を行います。

     

    元素分析 ICP-AESの構成、ICP-AESにおける試料溶解:金属材料基礎講座(その144)

    図.ICP-AESの構成

     

    2. 試料溶解

    金属材料をICP-AESによって分析する方法は鉄鋼材料、非鉄材料ともにJISにより規格されているものがたくさんあります。鉄鋼材料を例にとると、分析対象の元素によって試料を溶解する試薬などが決められています。ICP-AESにおける試料溶解の大まかな流れは①試料準備、②洗浄、③秤量、④分解、⑤希釈となります。 

    ① 試料準備

    試料は溶解するので形状に特に制約はありません。しかし、比較的溶解しやすいように塊よりも、薄板、ワイヤー、粉末などが良いです。またこれらの形状でない時はボール盤などで切削加工した時の切り子などを使用すると早く溶解します。 

    ② 洗浄

    洗浄はアセトンやエタノールなどの有機溶剤などで行います。いわゆる脱脂洗浄が中心になります。しかし、汚れが大きい時などは塩酸などの酸洗浄が必要になります。酸洗浄する時は試料が早く溶解するので、事前に重量を秤量しておくとよいです。 

    ③ 秤量

    JISでは分析する試料重量はほとんどの場合0.5gと規定されています。ICP-AESの装置としてはそれより重量が変化しても測定できますが、分析結果の統一性などを考慮すると0.5gに合わせるのが良いです。実際には0.50±0.05g程度となります。秤は0.001(1mg)測定できる電子天秤が良いです。 

    ④ 分解

    鉄鋼材料を分解する場合、多くは塩酸と硝酸の混合酸(王水)にて試料を分解(酸溶解)します。塩酸と硝酸の割合は塩酸1:硝酸1や塩酸3:硝酸1があります。また、そこに水を加えることもあります。この時の酸の量は25mL程度です。酸の中に試料を入れて加熱していきます。また、硝酸は鉄の表面を酸化させる作用があります。表面が酸化されると分解が遅くなるので、塩酸や水を加えます。多くの成分は王水によって鉄とともに溶解します。しかし、個別の元素については溶解しにくいものもあるため、それらはろ過して別途溶解する必要があります。 

    ⑤ 希釈

    試料を分解したときは約25mLの王水溶液です。これに水を加えて100mLにします。これにより試料中の元素の濃度を算...

    元素分析 ICP-AESの構成、ICP-AESにおける試料溶解:金属材料基礎講座(その144)

    【目次】

      1. ICP-AESの構成

      元素分析として広く使用されているICP-AESの構成を下図に示します。ICP-AESでは試料を酸などの溶液に溶解して分析します。この溶液試料を5000~8000℃のプラズマ中に噴霧することで試料に含まれる元素を励起させ、発光スペクトルを出します。この発光スペクトルを各波長ごとに分光、回析させます。波長は各元素によって決まります。そして、各元素(各波長)ごとに発光スペクトルの強度を測定して定量分析を行います。

       

      元素分析 ICP-AESの構成、ICP-AESにおける試料溶解:金属材料基礎講座(その144)

      図.ICP-AESの構成

       

      2. 試料溶解

      金属材料をICP-AESによって分析する方法は鉄鋼材料、非鉄材料ともにJISにより規格されているものがたくさんあります。鉄鋼材料を例にとると、分析対象の元素によって試料を溶解する試薬などが決められています。ICP-AESにおける試料溶解の大まかな流れは①試料準備、②洗浄、③秤量、④分解、⑤希釈となります。 

      ① 試料準備

      試料は溶解するので形状に特に制約はありません。しかし、比較的溶解しやすいように塊よりも、薄板、ワイヤー、粉末などが良いです。またこれらの形状でない時はボール盤などで切削加工した時の切り子などを使用すると早く溶解します。 

      ② 洗浄

      洗浄はアセトンやエタノールなどの有機溶剤などで行います。いわゆる脱脂洗浄が中心になります。しかし、汚れが大きい時などは塩酸などの酸洗浄が必要になります。酸洗浄する時は試料が早く溶解するので、事前に重量を秤量しておくとよいです。 

      ③ 秤量

      JISでは分析する試料重量はほとんどの場合0.5gと規定されています。ICP-AESの装置としてはそれより重量が変化しても測定できますが、分析結果の統一性などを考慮すると0.5gに合わせるのが良いです。実際には0.50±0.05g程度となります。秤は0.001(1mg)測定できる電子天秤が良いです。 

      ④ 分解

      鉄鋼材料を分解する場合、多くは塩酸と硝酸の混合酸(王水)にて試料を分解(酸溶解)します。塩酸と硝酸の割合は塩酸1:硝酸1や塩酸3:硝酸1があります。また、そこに水を加えることもあります。この時の酸の量は25mL程度です。酸の中に試料を入れて加熱していきます。また、硝酸は鉄の表面を酸化させる作用があります。表面が酸化されると分解が遅くなるので、塩酸や水を加えます。多くの成分は王水によって鉄とともに溶解します。しかし、個別の元素については溶解しにくいものもあるため、それらはろ過して別途溶解する必要があります。 

      ⑤ 希釈

      試料を分解したときは約25mLの王水溶液です。これに水を加えて100mLにします。これにより試料中の元素の濃度を算出します。濃度の高い元素がある時は、この溶液を薄めて溶液の濃度を調整します。

       

      次回に続きます。

      関連解説記事:マランゴニ対流~宇宙でもきれいに混ざらない合金の不思議 

      関連解説記事:金属材料基礎講座 【連載記事紹介】

       

      連載記事紹介:ものづくりドットコムの人気連載記事をまとめたページはこちら!

       

      【ものづくり セミナーサーチ】 セミナー紹介:国内最大級のセミナー掲載数 〈ものづくりセミナーサーチ〉 はこちら!

       

         続きを読むには・・・


      この記事の著者

      福﨑 昌宏

      金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。

      金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。


      「金属・無機材料技術」の他のキーワード解説記事

      もっと見る
      すべりとへき開 金属材料基礎講座(その42)

           すべりとは、材料がすべり面やすべり方向に沿って塑性(そせい)変形することです。例えば丸棒の材料に引張応力が負荷されていた...

           すべりとは、材料がすべり面やすべり方向に沿って塑性(そせい)変形することです。例えば丸棒の材料に引張応力が負荷されていた...


      研磨紙:金属材料基礎講座(その114) 研磨紙で行う、面出しと研磨

        研磨工程は細分化すると、面出し、研磨(研磨紙による研磨)、琢磨(バフ研磨)の3種類となります。研磨紙で行う場合、面出しと研磨を行います...

        研磨工程は細分化すると、面出し、研磨(研磨紙による研磨)、琢磨(バフ研磨)の3種類となります。研磨紙で行う場合、面出しと研磨を行います...


      ハフ変換法、CI(信頼性指数):金属材料基礎講座(その128)

        【目次】 1. ハフ変換法 EBSDにて取り込んだパターンを認識するための方法としてハフ変換法が良く用いられます。...

        【目次】 1. ハフ変換法 EBSDにて取り込んだパターンを認識するための方法としてハフ変換法が良く用いられます。...


      「金属・無機材料技術」の活用事例

      もっと見る
      金代替めっき接点の開発事例 (コネクター用貴金属めっき)

       私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...

       私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...


      ゾルゲル法による反射防止コートの開発と生産

       15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...

       15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...