物理干渉、化学干渉:金属材料基礎講座(その149)

投稿日

試料導入部とプラズマトーチ:金属材料基礎講座(その146)

【目次】

    1. 物理干渉

    物理干渉とは試料溶液の密度、粘度、酸濃度などによってプラズマに噴霧される溶液試料の導入効率に差が生じることです。

    ICP-AESではプラズマ中に試料溶液を霧状に噴霧するために、試料導入部はネブライザーとスプレーチャンバーから成り立っています。試料導入部の模式図を下図に示します。

     

    試料導入部とプラズマトーチ:金属材料基礎講座(その146)

    図.試料導入部の構成

     

    ネブライザーやスプレーチャンバーにもいくつか種類があります。図のタイプは同軸型ネブライザー、サイクロン型スプレーチャンバーとなります。試料溶液は最初にネブライザー(水色)に導入されます。ここでキャリアガス(Arガス)によって霧吹きのように試料溶液を霧状の小さいサイズにして噴射します。

     

    ネブライザーから噴射された霧状の溶液試料はスプレーチャンバー(緑)によって粒の大きな溶液と小さい溶液に分けられます。そして小さな粒の溶液がその次のプラズマトーチに導入されます。

     

    ICP-AESではネブライザーにアルゴンガスを流して噴霧しますが、この機構では避けられない干渉です。また試料溶液の塩濃度が高いと、ネブライザー先端に塩の沈殿が発生します。これが大きくなると試料導入量やガス流量が徐々に低下していきます。試料導入量が低下すると発光強度も低下します。ネブライザーなどのガラス器具は1日使用する度に酸溶液などで洗浄することが望ましいです。

     

    物理干渉の対処としては試料溶液と検量線用の標準溶液の酸の種類や濃度などを出来る限り合わせることが有効です。標準溶液には測定元素の種類や濃度だけでなく「5%HNO3」・・・などベースとなる酸の種類や濃度も記載されているので、これを試料溶液と合わせます。また、物理干渉の補正には内標準法が使用されます。

     

    2. 化学干渉

    結論としてICP-AESでは化学干渉の影響は少ないです。それはプラズマの温度が高いために化学干渉が起こりにくいからです。

     

    プラズマに導入された試料溶液中の元素は次第に脱溶媒化され単独の原子となり基底状態から励起状態になります。この脱溶媒化から原子へとなる過程において難解離性化合物を形成してしまい、原子化が妨げられ、測定すべき原子の量が変化することを化学干渉と呼びます。なお、化学干渉は原子吸光法では影響されやす...

    試料導入部とプラズマトーチ:金属材料基礎講座(その146)

    【目次】

      1. 物理干渉

      物理干渉とは試料溶液の密度、粘度、酸濃度などによってプラズマに噴霧される溶液試料の導入効率に差が生じることです。

      ICP-AESではプラズマ中に試料溶液を霧状に噴霧するために、試料導入部はネブライザーとスプレーチャンバーから成り立っています。試料導入部の模式図を下図に示します。

       

      試料導入部とプラズマトーチ:金属材料基礎講座(その146)

      図.試料導入部の構成

       

      ネブライザーやスプレーチャンバーにもいくつか種類があります。図のタイプは同軸型ネブライザー、サイクロン型スプレーチャンバーとなります。試料溶液は最初にネブライザー(水色)に導入されます。ここでキャリアガス(Arガス)によって霧吹きのように試料溶液を霧状の小さいサイズにして噴射します。

       

      ネブライザーから噴射された霧状の溶液試料はスプレーチャンバー(緑)によって粒の大きな溶液と小さい溶液に分けられます。そして小さな粒の溶液がその次のプラズマトーチに導入されます。

       

      ICP-AESではネブライザーにアルゴンガスを流して噴霧しますが、この機構では避けられない干渉です。また試料溶液の塩濃度が高いと、ネブライザー先端に塩の沈殿が発生します。これが大きくなると試料導入量やガス流量が徐々に低下していきます。試料導入量が低下すると発光強度も低下します。ネブライザーなどのガラス器具は1日使用する度に酸溶液などで洗浄することが望ましいです。

       

      物理干渉の対処としては試料溶液と検量線用の標準溶液の酸の種類や濃度などを出来る限り合わせることが有効です。標準溶液には測定元素の種類や濃度だけでなく「5%HNO3」・・・などベースとなる酸の種類や濃度も記載されているので、これを試料溶液と合わせます。また、物理干渉の補正には内標準法が使用されます。

       

      2. 化学干渉

      結論としてICP-AESでは化学干渉の影響は少ないです。それはプラズマの温度が高いために化学干渉が起こりにくいからです。

       

      プラズマに導入された試料溶液中の元素は次第に脱溶媒化され単独の原子となり基底状態から励起状態になります。この脱溶媒化から原子へとなる過程において難解離性化合物を形成してしまい、原子化が妨げられ、測定すべき原子の量が変化することを化学干渉と呼びます。なお、化学干渉は原子吸光法では影響されやすいです。

       

      次回に続きます。

      関連解説記事:マランゴニ対流~宇宙でもきれいに混ざらない合金の不思議 

      関連解説記事:金属材料基礎講座 【連載記事紹介】

       

      連載記事紹介:ものづくりドットコムの人気連載記事をまとめたページはこちら!

       

      【ものづくり セミナーサーチ】 セミナー紹介:国内最大級のセミナー掲載数 〈ものづくりセミナーサーチ〉 はこちら!

       

         続きを読むには・・・


      この記事の著者

      福﨑 昌宏

      金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。

      金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。


      「金属・無機材料技術」の他のキーワード解説記事

      もっと見る
      疲労強度とは? 疲労の概要やS-N曲線の見方など基礎的な知識について解説

      機械や構造物の破壊事故の約80%は疲労による破壊が原因とされており、疲労破壊による航空機や鉄道車両、自動車、橋梁などの重大な事故も多く発生しています。...

      機械や構造物の破壊事故の約80%は疲労による破壊が原因とされており、疲労破壊による航空機や鉄道車両、自動車、橋梁などの重大な事故も多く発生しています。...


      ビーチマーク、延性破壊と脆性破壊 金属材料基礎講座(その44)

          1. ビーチマーク  ビーチマークも前回のストライエーションと同様に割れの進行で見られる特徴的な破面の一つです。  亀...

          1. ビーチマーク  ビーチマークも前回のストライエーションと同様に割れの進行で見られる特徴的な破面の一つです。  亀...


      構造 金属材料基礎講座(その1)

        1.金属結合  金属を構成する物質の最小単位は原子です。例えば鉄原子やアルミニウム原子などです。原子の結合には主に金属結合、イオン結合、...

        1.金属結合  金属を構成する物質の最小単位は原子です。例えば鉄原子やアルミニウム原子などです。原子の結合には主に金属結合、イオン結合、...


      「金属・無機材料技術」の活用事例

      もっと見る
      金代替めっき接点の開発事例 (コネクター用貴金属めっき)

       私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...

       私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...


      ゾルゲル法による反射防止コートの開発と生産

       15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...

       15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...