産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

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産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説 

【目次】

    1. 工業材料としての珪藻土

    みなさんは、珪藻土と聞いてどんなものを思い浮かべますか?珪藻土は、中学校の理科で学習するケイソウが化石化したもので、呼吸する壁や、バスマットでみなさんの目に留まることがあると思います。また、アルフレッドノーベルが、珪藻土にニトログリセリンを染み込ませることでダイナマイトを発明したのは有名なお話です。珪藻土は、工業材料としても非常に重要で、ビールなどの食品ろ過助剤、建材や樹脂製品などの原材料として広く使用されています。今回は、工業材料としての珪藻土について解説をしていきます。

    2. 珪藻土(diatomite、diatomaceousearth)

    珪藻土は、珪藻(ケイソウ)と呼ばれる藻が化石化したもので、次のような特徴があります。たくさんの孔がある多孔質体で、形状は珪藻の骨格に依存するため、さまざまなタイプがあります。

    産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

    Photo1. 珪藻の顕微鏡写真 1)

    産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

    Photo2. 珪藻土の電子顕微鏡写真 2)

    (1) 文化社会的

    • ・輸入に頼らなくてもよい自給可能な鉱物の一つで、世界第五位の生産量(2010年現在)
    • ・江戸時代以前には、食べられる土としても認知(熊本城には籠城時の備えとして内壁材に使用)
    • ・七輪や“かまど”の原料として使用

    産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

    Table1. 珪藻土の国別生産量(2010年)3)

    (2) 工業的

    • ・ダイナマイトの製造のため、ニトログリセリンを珪藻土に吸収させることで安定化
    • ・現在では、採掘した原土を焼成分級して製造
    • ・ビールなどの食品ろ過助剤、建材や樹脂製品などの原材料として広く使用

    3. 製法と種類

    工業材料としての珪藻土は製法により、乾燥品、焼成品、融剤焼成品の3つに大別されます。Fig1に製造フロー図を示します。

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    Fig1. 製造フロー図

    採掘された珪藻土の原鉱は、粉砕、乾燥、粒度調整(分級)の各工程を経て乾燥品となります。この乾燥品を焼成して、粉砕、乾燥、粒度調整(分級)の各工程を経ることで焼成品となり、炭酸ナトリウム等の融剤を焼成前に加えたものが融剤焼成品となります。また、これら製品の表面の金属を除去するために酸処理を行ったものもあります。採掘時は50~80%の水分を含んでいて長距離の搬送はコストが上がってしまうため、生産工場は鉱区に隣接しているケースが多いのが特徴の一つです。

    (1) 乾燥品

    原鉱を粗砕後、熱風乾燥、粉砕、分級を経て砂石などの夾雑物が分離された水分が数%の粉末状品。色調は原鉱の色を反映して灰黄色から暗緑色まで明度もさまざまです。

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    Photo3. 乾燥品の外観 4)

    (2) 焼成品

    純度を高めるために、乾燥品を1000~1110℃で焼成したもの。焼成により、乾燥品に含まれていた水分や有機物は除去され、非晶質シリカの一部はクリストバライト化し、化学安定度が高いろ過助剤が得られます。

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    Photo4. 焼成品の外観 4)

    (3) 融剤焼成品

    焼成を行う際に、ソーダ灰などの融解剤を添加することにより、珪殻が凝集した二次粒子が生成され、解砕は二次粒子を破壊しないように行われる。このため、圧力が高い高速ろ過に適します。

    産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

    Photo5. 融剤焼成品 4)

    4. 一般物性

    Table2に各珪藻土製品の一般物性を示します。

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    Table2. 各珪藻土製品の一般物性 5)

    一般に珪藻土は、その80~90%がシリカから構成される。純粋な珪殻の成分がシリカのみであることから、その他の金属参加物は、不純物である粘土に由来しています。またかさ密度、粒度、比表面積、細孔径は、おのおのの製品の間で次のような特徴があります。

    (1) かさ密度

    珪殻の多孔性と独特の形状によりいずれも極めてかさ高い。

    (2) 粒度

    原料や製造条件により粒度は異なるが、乾燥品が最も細かい。一方、焼成による凝集が著しい融剤焼成品が最も粗い。

    (3) 比表面積

    焼成により細孔が収縮するため、精製度を高めるにつれて低下してゆく。

    (4) 細孔径

    0.1~1μm程度の比較的マクロな孔であり、活性炭やゼオライトのような吸着性はない。

    5. 種類と用途

    Fig2に珪藻土の主な用途を示します。

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    Fig2.珪藻土の種類と用途

    Fig2のように珪藻土は、粘度成分含有の有無で高純度品、低純度品に分けられます。高純度化された珪藻土は、主にろ過助剤として用いられる他、プラスチック等のフィラー担体にも用いられています。一方、低純度品につきましては、建築材料、耐熱れんが、土壌改良剤等に用いられています。また、Table3 のように製品と粒度により使用用途が異なります。

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    Table3. 各製品と用途一覧 5)

    darcy:長さ1cm,断面積1cm2の岩石の両端に1気圧の圧力差をかけたとき,粘度1センチポアズ(Cp)の流体が毎秒1cm3の流量で流れるとき,この岩石の浸透率を1ダルシー(darcy,記号d)と定義

    (1) ろ過助剤

    ろ過助剤を使用する方法として、大きく分けてプリコート、ボディーフィードがあり、珪藻土はどちらの工程にも使用されています。

    Fig3. プリコートとボディーフィード 6)

    ・プリコート

    濾過操作の前に助剤を清澄な液体に分散し、これを循環して濾布や金網などの濾材表面に助剤の層を形成させるろ過方法です。原液の濾過時にはこの層により原液中の懸濁固形分が捕捉されるため、濾液の清澄度が向上、濾材の汚染が防止でき、濾過操作後のケーク剥離も容易というメリットがあります。

    ・ボディーフィード

    原液に助剤を直接添加・分散して濾過する方法。形成されるケークは原液中の懸濁固形分と助剤とが混在した空隙率が高いため、プリコート法に比べ濾過抵抗が少ない。圧力損失の増大が抑制されるため、長時間の濾過操作が可能となるというメリットがある。

    (2) 粒度との関係

    珪藻土は、さまざまな粒度があり、プリコートとボディーフィードを組み合わせることにより、低粘性で清澄度が要求されるろ過から、糖類など粘性の高いものまで対応が可能できるのが特長の一つです。ろ過助剤に用いられる珪藻土は、焼成品と融剤調整品でこれらは、ビール、醤油、砂糖、ブドウ糖の食品をはじめ、潤滑油、酵素、工業用排水、プールのろ過等幅広いところで使用されていて、これらのろ過には、珪藻土の粒子径が大きく関わっています(Table3)。

    一般に、粒子径の細かいグレードを用いると、濾過速度は遅いが、懸濁固形分の捕捉性が極めて良好で濾液の清澄度が高くなります。一方、粗いグレードの場合は、濾液の清澄度はあり高くないが、速い濾過速度が得られます。両社はトレードオフの関係のため、これらを考慮に入れた選択が重要となります。

    以下に、珪藻土の粒子径とろ過性能について示します。

    ・微粉末

    焼成品で10µm程度の微粉末は低粘度液に対する清澄度の高いろ液が得られます。

    ・中粒子

    粒子径30µmの中粒子径の焼成、融剤焼成品は適用範囲が広く、一般的なろ過に使用されます。

    ・粗粒子

    40μm程度の粗い粒子径の焼成、融剤焼成品は、粗い懸濁粒子や高粘度液の濾過に用いられています。

    (3) 酸洗品

    珪藻土は、シリカの他、不純物としてアルミニウム、カルシウム、鉄等の金属元素が含まれていて、これらの金属は、清酒や薬品をろ過する際に変性等の悪影響を及ぼす場合があるため、これらのものに用いる場合は、酸水洗により、珪藻土が接液する表面の金属を除去したものが使用されます。

    (4) 乾式ろ過助剤

    ダイオキシン問題を発端に、ごみ焼却場からの有害物質の排出を防止するための乾式ろ過としてバグフィルタが設置されるようになり、乾式ろ過助剤の使用量は著しく伸び始めました。焼却炉で発生する有害酸性ガスは、煙道に消石灰を吹き込み気流中で反応させることで、塩化カルシウムを生成させ、バグフィルタにより分離して処理する方法が一般的です。しかし、塩化カルシウムは潮解性があり、濾布の目詰まりを引き起こすことがあります。このため、濾布表面に珪藻土をプリコートしたり、消石灰と同時に珪藻土を吹き込んで両者が混在する層を濾布表面に形成させるボディーフィード法が用いられていて、湿式の場合と同様な操作が行われています。これらの操作は、潮解した塩化カルシウムを珪藻土が吸収して濾布を保護、飛び火による濾布の焼失を防止するとともに、未反応の消石灰と有害ガスとの反応を濾布表面上で効率的に行わせることができるため、反応効率の向上にも寄与します(Fig4)

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    Fig4. 珪藻土を用いた排ガス浄化プロセス

    (5) フィラー

    10μm程度の微粉末の融剤焼成品の珪藻土(珪藻土)は、艶消し剤、プラスチックにはアンチブロッキング剤、シリコーンゴムの補強材等に用いられています。

    ・塗料

    珪藻土は、艶消し剤として用いられています。艶消し作用は、塗膜表面の粗度を上げることにより光を散乱させて光沢を減じることで起こります。また、多孔質構造であることから蒸気の透過性を調整して塗膜のフクレやハガレの発生を抑制や、溶媒の蒸発を速めることによる乾燥時間の短縮を図ることができます。更に、表面粗度が増すことにより上塗りへの噛み付きが良好となり接着強度が増すためプライマーにも配合されています。また、多量の漆液を吸収できることから塗膜厚みが増し堅牢性が高まるため、古くから漆器の下塗粉として用いられてきました。

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    Fig5. 艶消し効果のメカニズム

    ・プラスチック

    プラスチックシートやフィルムは高温でブローされると表面同士が付着固化します。この固化した状態のことをブロッキングといいます。ブロッキングを防ぐためには、フィルム表面に微細な凹凸を付けることが効果的で、アンチブロッキング効果を持つ添加剤(アンチブロッキング剤)を樹脂に練りこんだり、フィルム成型時に添加したりします。珪藻土をフィルムに添加することによりアンチブロッキング効果が得られます。

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    Fig6. アンチブロッキング効果のイメージ

    耐熱・耐候性に優れたシリコーンゴムにも珪藻土が補強作用のある合成シリカとともに、準補強剤もしくは増量剤として用いられています。シリコーン生ゴムに粒子径が小さく白色度の高い珪藻土などが添加・混練されてコンパウンド製品となります。また、Oリングやパッキンにも硬度調整や耐摩耗性向上のために添加される場合があります。

    ・その他

    歯科治療で義歯やクラウンなどを作製するために型取材が使用されています。型取材はアルギン酸の硬化反応を利用するものが多く、このタイプには珪藻土が配合されています。珪藻土の高い吸液性を有しているため、使用時に加える水量に対する許容度が大きいため粘度調整が容易で、しかも寸法安定性が良好なため印象精度が高くなります。

    また、珪藻土を紙に配合することにより、インクの吸収性、乾燥性、発色性が向上するとともに、耐傷性、耐摩耗性が良好な印刷用紙が得られます。更に、蓄電池には、バッテリー液中で極板相互のショートを防止するために、更には充放電時にイオンを通すセパレータのフィラーとしても用いられています。

    (6) 担体

    珪藻土はさまざまな触媒や活性成分の機能を効果的に発現するため、触媒担体をはじめガスクロマトグラフのカラム充填剤、酵素発酵の担体としても使用されています。

    ・触媒担体

    珪藻土は1930年代にはFischer-Tropsch合成触媒の担体に使用されていると論文で報告されています。Fischer-Tropsch法とは、ドイツの技術者フィッシャー(Fischer)とトロプシュ(Tropsch)が開発した技術で、天然ガスや石炭等を原料とし、液体炭化水素を合成する方法で、別名FT法と呼ばれています(Fig7)。

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    Fig7. FT法の概略と珪藻土触媒担体のイメージ

    珪藻土による効果は、珪殻自体のメソ孔と成形された触媒中のマクロ細孔とにより構成される細孔分布が、反応促進に効果的であると考えられています7)。 また、水素化プロセスではニッケル珪藻土触媒が用いられています。ニッケル珪藻土触媒は、ニッケル溶液を珪藻土表面に沈着させ、還元して安定化させた粉末状触媒は、分散性や反応生成物との分離(濾過)性に優れています。更に、タブレット状などに成形されたものは、気相や固相の充填層触媒として、安定化処理せず硬化油脂で被覆したフレーク状触媒は油脂の水素化に用いられます8)。更に、珪藻土に酸化バナジウムを担持した触媒は硫酸製造に使用されています9)。

    ・その他

    特に精製度の高い珪藻土は、非水系の微量成分の分析に用いられるガスクロマトグラフカラムの充填剤として用いられています。このとき、焼成もしくは融剤焼成珪藻土の表面には活性なサイトが残っているため、検出ピークにテーリングを生じやすく、担体を酸処理した後にシリル化剤による不活性化処理が行われます。また、珪藻土を担体とした固相抽出剤は、医薬品バイオ関連分野でも利用が検討されています。

    また、水和分散剤の農薬には、植物保護剤や界面活性剤などと配合され、薬剤の凝集固化防止、流動化を促進させる担体として使用されています。更に、珪藻土は表面粗度が大きいため微生物の付着が容易、細孔径が酵素の固定化に適することから、酵素や微生物を固定化する担体に使用されていて、リパーゼを用いたエステル交換反応に用いられています 10)。

    (7) 建築材料

    珪藻土は、耐熱性、調湿性を有しているため、耐熱材料、外壁材、壁材等の建築材料に幅広く使用されています。

    ・耐熱材料

    珪藻土は溶融温度が比較的高く、熱伝導率や熱膨張係数が低く、古くから家庭用コンロの原料として用いられています。また、珪藻土を用いた耐火断熱レンガはJISに規定され工業窯炉の材料として使用されています。能登珪藻土を使用した天然珪藻土岩で作る「切り出し七輪」は、食品を美味しく焼くことができるばかりではなく、工芸品としてもデザイン性に長けていることから一般家庭から、プロの方まで幅広く愛用されています。しかし、2022に発生した能登半島珠洲地震により、焼き窯が破損してしまい、現在窯の再建を行ながら生産を再開していて、一日でも早い復旧をお祈りする次第です。

    ・外壁材

    珪藻土をシリカ源として合成されるケイ酸カルシウム板(ケイカルボード)は、耐火・断熱・遮音性に優れ、かつ軽量で施工時の作業性も良好なため、外壁材をはじめさまざまなところで使用されています。ケイカルボードは、珪藻土にカルシウム源としての石灰質原料および補強材としての繊維を加えて抄造・成形後、オートクレープ内で反応させて製造されます。

    ・壁材

    珪藻土は多孔性構造から湿度調整機能を有していて、内装壁材の混和材としても利用されています。住宅の気密・断熱性が向上すると室内の結露によりダニやカビが発生しやすくなります。珪藻土を用いた壁材は、室内が高湿度時には吸湿、低湿度時には放湿させて適度な湿度を維持することにより、建物内の結露が抑えられます。

    (8) 吸収剤

    珪藻土は空隙率が高く自重の2~3倍の液体を吸収できます。このため、アルフレッドノーベルによるダイナマイトの発明から、猫砂のようにペットの排泄物を吸収。更には、油や有害物質などの吸収等の用途でも幅広く使用されています。また、昆虫に付着することで体液を吸収させて死に至らしめる効果を応用して殺虫剤の代替えとして検討されていて、貯蔵中の穀物に対する化学燻蒸処理の代替としても期待されています11)。

    (9) 土壌改良材

    珪藻土を粒状にすることにより、粒内部に水分や肥料成分を吸収保持し,かつ粒相互の間隙が大きいため通気性が良好になることから土壌改良材としても使用されています。また、一般土壌と混合して人口地盤の形成、のり面保護、砂漠緑化に、更に、水はけがよいことから、ゴルフ場や野球場、陸上競技場などのスポーツ施設などでも用いられています。

    (10) 研磨剤

    珪藻土はモース硬度が6~7程度であるため、ソフトな研磨剤として自動車用ツヤ出し剤に使用されています。珪藻土は大きな表面粗度を有していて、更には使用中に珪殻が壊れて細かい破片となることとにより更に研磨効果を高めるため、エマルションタイプのカーワックスに融剤焼成品が添加されています。また、乾燥品グレードはさらに柔らかいため、銀や真鍮のツヤ出し剤として使用されます。更に、摩擦力が向上することから,自動車のクラッチ板に配合されたり、滑りやすい路面でのタイヤのグリップ性能を高めてスリップを防止するため、シリカと同様にタイヤゴムのフィラーとしても用いられています。

    6. 安全性

    焼成珪藻土は、焼成により一部が結晶性シリカのクリストバライトが生成するため、取り扱いに注意が必要です。結晶質シリカは、二酸化ケイ素(SiO2)が規則的に配列した結晶構造を持つ物質であり、石英、クリストバライト、トリジマイトなどの結晶多形が存在します。

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    Fig8. 高温型クリストバライトの結晶イメージ 12)

    (1) けい肺

    結晶性シリカは、けい肺を起こす原因物質です。けい肺は、結晶質シリカを含む粉じんの吸入が原因となって発症する肺疾患であり、最古の職業病として知られるじん肺の一種です。肺胞に沈着した粉じんは、通常、細胞性免疫を担うマクロファージが主体となったクリアランス機構(異物を排除する働き)によって体外へ排出されますが、粉じんが結晶質シリカの場合は、マクロファージの損傷性が高く、細胞死を誘発するため、クリアランス機構が阻害されてしまいます。これにより、マクロファージのサイトカイン分泌が促進され、免疫細胞が活性化し、肺胞での炎症が引き起こされます。これに連鎖して、線維芽細胞が分泌したコラーゲンの過剰蓄積が起こり、線維化が進行、最終的には、コラーゲンや結晶質シリカから成るけい肺結節やPMFが形成されます。このような一連の流れから、マクロファージの結晶質シリカに対する反応は、けい肺発症のメカニズムを知る上で、重要な手掛かりと考えられています。14)

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    Fig9. けい肺の発症メカニズム 14)

    (2) 発がん性等

    GHSで結晶性シリカの発がん性は区分1Aで、ヒトに対する発がん性が知られているとして区分されています。更に、特定標的臓器毒性では区分1(呼吸器、免疫系、腎臓)に影響があると区分されています。 区分1とは、ヒトに重大な毒性を示した物質、または実験動物での試験の証拠に基づいて反復ばく露によってヒトに重大な毒性を示す可能性があると考えられる物質です 13)。

    GHS(GloballyHarmonizedSystemofClassificationandLabellingofChemicals)とは、化学品の危険有害性(ハザード)ごとに分類基準及びラベルや安全データシートの内容を調和させ、世界的に統一されたルールとして提供するものです。

    (3) 粒子との関係

    上述した健康影響は、粒子径も大きく関係しています。産業安全で粒子はThoracic、Respirableに分類されます。これらの粒子は、健康影響の大小はありますが、珪藻土に限らずすべての粉体にいえることで、このような微粒子の粉体を取り扱う場合は、局所排気や保護具を用いできるだけ人体への吸入や接触を避けることが肝心です。

    ・Thoracic

    Thoracicは、粒子径範囲0~25ミクロン、50%径10ミクロンの粒子を指し、これらの粒子は気管支や肺胞まで到達します。

    ・Respirable

    Thoracicより更に微小な粒子をRespirableといいます。Respirableは、粒子径範囲0~10ミクロン、50%径4ミクロン程度の粒子を指し、この粒子はほとんどが肺胞まで到達します。

    (4) 結晶性シリカの管理濃度と許容濃度

     結晶性シリカを含む材料は健康影響が大きいため、法律により管理濃度と許容濃度が定められています。 

    ・管理濃度

    管理濃度とは、作業環境管理を進める上で、有害物質に関する作業環境の状態を評価するために、作業環境測定基準に従って実施した作業環境測定の結果から作業環境管理の良否...

    産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説 

    【目次】

      1. 工業材料としての珪藻土

      みなさんは、珪藻土と聞いてどんなものを思い浮かべますか?珪藻土は、中学校の理科で学習するケイソウが化石化したもので、呼吸する壁や、バスマットでみなさんの目に留まることがあると思います。また、アルフレッドノーベルが、珪藻土にニトログリセリンを染み込ませることでダイナマイトを発明したのは有名なお話です。珪藻土は、工業材料としても非常に重要で、ビールなどの食品ろ過助剤、建材や樹脂製品などの原材料として広く使用されています。今回は、工業材料としての珪藻土について解説をしていきます。

      2. 珪藻土(diatomite、diatomaceousearth)

      珪藻土は、珪藻(ケイソウ)と呼ばれる藻が化石化したもので、次のような特徴があります。たくさんの孔がある多孔質体で、形状は珪藻の骨格に依存するため、さまざまなタイプがあります。

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Photo1. 珪藻の顕微鏡写真 1)

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Photo2. 珪藻土の電子顕微鏡写真 2)

      (1) 文化社会的

      • ・輸入に頼らなくてもよい自給可能な鉱物の一つで、世界第五位の生産量(2010年現在)
      • ・江戸時代以前には、食べられる土としても認知(熊本城には籠城時の備えとして内壁材に使用)
      • ・七輪や“かまど”の原料として使用

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Table1. 珪藻土の国別生産量(2010年)3)

      (2) 工業的

      • ・ダイナマイトの製造のため、ニトログリセリンを珪藻土に吸収させることで安定化
      • ・現在では、採掘した原土を焼成分級して製造
      • ・ビールなどの食品ろ過助剤、建材や樹脂製品などの原材料として広く使用

      3. 製法と種類

      工業材料としての珪藻土は製法により、乾燥品、焼成品、融剤焼成品の3つに大別されます。Fig1に製造フロー図を示します。

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Fig1. 製造フロー図

      採掘された珪藻土の原鉱は、粉砕、乾燥、粒度調整(分級)の各工程を経て乾燥品となります。この乾燥品を焼成して、粉砕、乾燥、粒度調整(分級)の各工程を経ることで焼成品となり、炭酸ナトリウム等の融剤を焼成前に加えたものが融剤焼成品となります。また、これら製品の表面の金属を除去するために酸処理を行ったものもあります。採掘時は50~80%の水分を含んでいて長距離の搬送はコストが上がってしまうため、生産工場は鉱区に隣接しているケースが多いのが特徴の一つです。

      (1) 乾燥品

      原鉱を粗砕後、熱風乾燥、粉砕、分級を経て砂石などの夾雑物が分離された水分が数%の粉末状品。色調は原鉱の色を反映して灰黄色から暗緑色まで明度もさまざまです。

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Photo3. 乾燥品の外観 4)

      (2) 焼成品

      純度を高めるために、乾燥品を1000~1110℃で焼成したもの。焼成により、乾燥品に含まれていた水分や有機物は除去され、非晶質シリカの一部はクリストバライト化し、化学安定度が高いろ過助剤が得られます。

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Photo4. 焼成品の外観 4)

      (3) 融剤焼成品

      焼成を行う際に、ソーダ灰などの融解剤を添加することにより、珪殻が凝集した二次粒子が生成され、解砕は二次粒子を破壊しないように行われる。このため、圧力が高い高速ろ過に適します。

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Photo5. 融剤焼成品 4)

      4. 一般物性

      Table2に各珪藻土製品の一般物性を示します。

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      Table2. 各珪藻土製品の一般物性 5)

      一般に珪藻土は、その80~90%がシリカから構成される。純粋な珪殻の成分がシリカのみであることから、その他の金属参加物は、不純物である粘土に由来しています。またかさ密度、粒度、比表面積、細孔径は、おのおのの製品の間で次のような特徴があります。

      (1) かさ密度

      珪殻の多孔性と独特の形状によりいずれも極めてかさ高い。

      (2) 粒度

      原料や製造条件により粒度は異なるが、乾燥品が最も細かい。一方、焼成による凝集が著しい融剤焼成品が最も粗い。

      (3) 比表面積

      焼成により細孔が収縮するため、精製度を高めるにつれて低下してゆく。

      (4) 細孔径

      0.1~1μm程度の比較的マクロな孔であり、活性炭やゼオライトのような吸着性はない。

      5. 種類と用途

      Fig2に珪藻土の主な用途を示します。

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Fig2.珪藻土の種類と用途

      Fig2のように珪藻土は、粘度成分含有の有無で高純度品、低純度品に分けられます。高純度化された珪藻土は、主にろ過助剤として用いられる他、プラスチック等のフィラー担体にも用いられています。一方、低純度品につきましては、建築材料、耐熱れんが、土壌改良剤等に用いられています。また、Table3 のように製品と粒度により使用用途が異なります。

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Table3. 各製品と用途一覧 5)

      darcy:長さ1cm,断面積1cm2の岩石の両端に1気圧の圧力差をかけたとき,粘度1センチポアズ(Cp)の流体が毎秒1cm3の流量で流れるとき,この岩石の浸透率を1ダルシー(darcy,記号d)と定義

      (1) ろ過助剤

      ろ過助剤を使用する方法として、大きく分けてプリコート、ボディーフィードがあり、珪藻土はどちらの工程にも使用されています。

      Fig3. プリコートとボディーフィード 6)

      ・プリコート

      濾過操作の前に助剤を清澄な液体に分散し、これを循環して濾布や金網などの濾材表面に助剤の層を形成させるろ過方法です。原液の濾過時にはこの層により原液中の懸濁固形分が捕捉されるため、濾液の清澄度が向上、濾材の汚染が防止でき、濾過操作後のケーク剥離も容易というメリットがあります。

      ・ボディーフィード

      原液に助剤を直接添加・分散して濾過する方法。形成されるケークは原液中の懸濁固形分と助剤とが混在した空隙率が高いため、プリコート法に比べ濾過抵抗が少ない。圧力損失の増大が抑制されるため、長時間の濾過操作が可能となるというメリットがある。

      (2) 粒度との関係

      珪藻土は、さまざまな粒度があり、プリコートとボディーフィードを組み合わせることにより、低粘性で清澄度が要求されるろ過から、糖類など粘性の高いものまで対応が可能できるのが特長の一つです。ろ過助剤に用いられる珪藻土は、焼成品と融剤調整品でこれらは、ビール、醤油、砂糖、ブドウ糖の食品をはじめ、潤滑油、酵素、工業用排水、プールのろ過等幅広いところで使用されていて、これらのろ過には、珪藻土の粒子径が大きく関わっています(Table3)。

      一般に、粒子径の細かいグレードを用いると、濾過速度は遅いが、懸濁固形分の捕捉性が極めて良好で濾液の清澄度が高くなります。一方、粗いグレードの場合は、濾液の清澄度はあり高くないが、速い濾過速度が得られます。両社はトレードオフの関係のため、これらを考慮に入れた選択が重要となります。

      以下に、珪藻土の粒子径とろ過性能について示します。

      ・微粉末

      焼成品で10µm程度の微粉末は低粘度液に対する清澄度の高いろ液が得られます。

      ・中粒子

      粒子径30µmの中粒子径の焼成、融剤焼成品は適用範囲が広く、一般的なろ過に使用されます。

      ・粗粒子

      40μm程度の粗い粒子径の焼成、融剤焼成品は、粗い懸濁粒子や高粘度液の濾過に用いられています。

      (3) 酸洗品

      珪藻土は、シリカの他、不純物としてアルミニウム、カルシウム、鉄等の金属元素が含まれていて、これらの金属は、清酒や薬品をろ過する際に変性等の悪影響を及ぼす場合があるため、これらのものに用いる場合は、酸水洗により、珪藻土が接液する表面の金属を除去したものが使用されます。

      (4) 乾式ろ過助剤

      ダイオキシン問題を発端に、ごみ焼却場からの有害物質の排出を防止するための乾式ろ過としてバグフィルタが設置されるようになり、乾式ろ過助剤の使用量は著しく伸び始めました。焼却炉で発生する有害酸性ガスは、煙道に消石灰を吹き込み気流中で反応させることで、塩化カルシウムを生成させ、バグフィルタにより分離して処理する方法が一般的です。しかし、塩化カルシウムは潮解性があり、濾布の目詰まりを引き起こすことがあります。このため、濾布表面に珪藻土をプリコートしたり、消石灰と同時に珪藻土を吹き込んで両者が混在する層を濾布表面に形成させるボディーフィード法が用いられていて、湿式の場合と同様な操作が行われています。これらの操作は、潮解した塩化カルシウムを珪藻土が吸収して濾布を保護、飛び火による濾布の焼失を防止するとともに、未反応の消石灰と有害ガスとの反応を濾布表面上で効率的に行わせることができるため、反応効率の向上にも寄与します(Fig4)

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Fig4. 珪藻土を用いた排ガス浄化プロセス

      (5) フィラー

      10μm程度の微粉末の融剤焼成品の珪藻土(珪藻土)は、艶消し剤、プラスチックにはアンチブロッキング剤、シリコーンゴムの補強材等に用いられています。

      ・塗料

      珪藻土は、艶消し剤として用いられています。艶消し作用は、塗膜表面の粗度を上げることにより光を散乱させて光沢を減じることで起こります。また、多孔質構造であることから蒸気の透過性を調整して塗膜のフクレやハガレの発生を抑制や、溶媒の蒸発を速めることによる乾燥時間の短縮を図ることができます。更に、表面粗度が増すことにより上塗りへの噛み付きが良好となり接着強度が増すためプライマーにも配合されています。また、多量の漆液を吸収できることから塗膜厚みが増し堅牢性が高まるため、古くから漆器の下塗粉として用いられてきました。

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      Fig5. 艶消し効果のメカニズム

      ・プラスチック

      プラスチックシートやフィルムは高温でブローされると表面同士が付着固化します。この固化した状態のことをブロッキングといいます。ブロッキングを防ぐためには、フィルム表面に微細な凹凸を付けることが効果的で、アンチブロッキング効果を持つ添加剤(アンチブロッキング剤)を樹脂に練りこんだり、フィルム成型時に添加したりします。珪藻土をフィルムに添加することによりアンチブロッキング効果が得られます。

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Fig6. アンチブロッキング効果のイメージ

      耐熱・耐候性に優れたシリコーンゴムにも珪藻土が補強作用のある合成シリカとともに、準補強剤もしくは増量剤として用いられています。シリコーン生ゴムに粒子径が小さく白色度の高い珪藻土などが添加・混練されてコンパウンド製品となります。また、Oリングやパッキンにも硬度調整や耐摩耗性向上のために添加される場合があります。

      ・その他

      歯科治療で義歯やクラウンなどを作製するために型取材が使用されています。型取材はアルギン酸の硬化反応を利用するものが多く、このタイプには珪藻土が配合されています。珪藻土の高い吸液性を有しているため、使用時に加える水量に対する許容度が大きいため粘度調整が容易で、しかも寸法安定性が良好なため印象精度が高くなります。

      また、珪藻土を紙に配合することにより、インクの吸収性、乾燥性、発色性が向上するとともに、耐傷性、耐摩耗性が良好な印刷用紙が得られます。更に、蓄電池には、バッテリー液中で極板相互のショートを防止するために、更には充放電時にイオンを通すセパレータのフィラーとしても用いられています。

      (6) 担体

      珪藻土はさまざまな触媒や活性成分の機能を効果的に発現するため、触媒担体をはじめガスクロマトグラフのカラム充填剤、酵素発酵の担体としても使用されています。

      ・触媒担体

      珪藻土は1930年代にはFischer-Tropsch合成触媒の担体に使用されていると論文で報告されています。Fischer-Tropsch法とは、ドイツの技術者フィッシャー(Fischer)とトロプシュ(Tropsch)が開発した技術で、天然ガスや石炭等を原料とし、液体炭化水素を合成する方法で、別名FT法と呼ばれています(Fig7)。

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      Fig7. FT法の概略と珪藻土触媒担体のイメージ

      珪藻土による効果は、珪殻自体のメソ孔と成形された触媒中のマクロ細孔とにより構成される細孔分布が、反応促進に効果的であると考えられています7)。 また、水素化プロセスではニッケル珪藻土触媒が用いられています。ニッケル珪藻土触媒は、ニッケル溶液を珪藻土表面に沈着させ、還元して安定化させた粉末状触媒は、分散性や反応生成物との分離(濾過)性に優れています。更に、タブレット状などに成形されたものは、気相や固相の充填層触媒として、安定化処理せず硬化油脂で被覆したフレーク状触媒は油脂の水素化に用いられます8)。更に、珪藻土に酸化バナジウムを担持した触媒は硫酸製造に使用されています9)。

      ・その他

      特に精製度の高い珪藻土は、非水系の微量成分の分析に用いられるガスクロマトグラフカラムの充填剤として用いられています。このとき、焼成もしくは融剤焼成珪藻土の表面には活性なサイトが残っているため、検出ピークにテーリングを生じやすく、担体を酸処理した後にシリル化剤による不活性化処理が行われます。また、珪藻土を担体とした固相抽出剤は、医薬品バイオ関連分野でも利用が検討されています。

      また、水和分散剤の農薬には、植物保護剤や界面活性剤などと配合され、薬剤の凝集固化防止、流動化を促進させる担体として使用されています。更に、珪藻土は表面粗度が大きいため微生物の付着が容易、細孔径が酵素の固定化に適することから、酵素や微生物を固定化する担体に使用されていて、リパーゼを用いたエステル交換反応に用いられています 10)。

      (7) 建築材料

      珪藻土は、耐熱性、調湿性を有しているため、耐熱材料、外壁材、壁材等の建築材料に幅広く使用されています。

      ・耐熱材料

      珪藻土は溶融温度が比較的高く、熱伝導率や熱膨張係数が低く、古くから家庭用コンロの原料として用いられています。また、珪藻土を用いた耐火断熱レンガはJISに規定され工業窯炉の材料として使用されています。能登珪藻土を使用した天然珪藻土岩で作る「切り出し七輪」は、食品を美味しく焼くことができるばかりではなく、工芸品としてもデザイン性に長けていることから一般家庭から、プロの方まで幅広く愛用されています。しかし、2022に発生した能登半島珠洲地震により、焼き窯が破損してしまい、現在窯の再建を行ながら生産を再開していて、一日でも早い復旧をお祈りする次第です。

      ・外壁材

      珪藻土をシリカ源として合成されるケイ酸カルシウム板(ケイカルボード)は、耐火・断熱・遮音性に優れ、かつ軽量で施工時の作業性も良好なため、外壁材をはじめさまざまなところで使用されています。ケイカルボードは、珪藻土にカルシウム源としての石灰質原料および補強材としての繊維を加えて抄造・成形後、オートクレープ内で反応させて製造されます。

      ・壁材

      珪藻土は多孔性構造から湿度調整機能を有していて、内装壁材の混和材としても利用されています。住宅の気密・断熱性が向上すると室内の結露によりダニやカビが発生しやすくなります。珪藻土を用いた壁材は、室内が高湿度時には吸湿、低湿度時には放湿させて適度な湿度を維持することにより、建物内の結露が抑えられます。

      (8) 吸収剤

      珪藻土は空隙率が高く自重の2~3倍の液体を吸収できます。このため、アルフレッドノーベルによるダイナマイトの発明から、猫砂のようにペットの排泄物を吸収。更には、油や有害物質などの吸収等の用途でも幅広く使用されています。また、昆虫に付着することで体液を吸収させて死に至らしめる効果を応用して殺虫剤の代替えとして検討されていて、貯蔵中の穀物に対する化学燻蒸処理の代替としても期待されています11)。

      (9) 土壌改良材

      珪藻土を粒状にすることにより、粒内部に水分や肥料成分を吸収保持し,かつ粒相互の間隙が大きいため通気性が良好になることから土壌改良材としても使用されています。また、一般土壌と混合して人口地盤の形成、のり面保護、砂漠緑化に、更に、水はけがよいことから、ゴルフ場や野球場、陸上競技場などのスポーツ施設などでも用いられています。

      (10) 研磨剤

      珪藻土はモース硬度が6~7程度であるため、ソフトな研磨剤として自動車用ツヤ出し剤に使用されています。珪藻土は大きな表面粗度を有していて、更には使用中に珪殻が壊れて細かい破片となることとにより更に研磨効果を高めるため、エマルションタイプのカーワックスに融剤焼成品が添加されています。また、乾燥品グレードはさらに柔らかいため、銀や真鍮のツヤ出し剤として使用されます。更に、摩擦力が向上することから,自動車のクラッチ板に配合されたり、滑りやすい路面でのタイヤのグリップ性能を高めてスリップを防止するため、シリカと同様にタイヤゴムのフィラーとしても用いられています。

      6. 安全性

      焼成珪藻土は、焼成により一部が結晶性シリカのクリストバライトが生成するため、取り扱いに注意が必要です。結晶質シリカは、二酸化ケイ素(SiO2)が規則的に配列した結晶構造を持つ物質であり、石英、クリストバライト、トリジマイトなどの結晶多形が存在します。

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Fig8. 高温型クリストバライトの結晶イメージ 12)

      (1) けい肺

      結晶性シリカは、けい肺を起こす原因物質です。けい肺は、結晶質シリカを含む粉じんの吸入が原因となって発症する肺疾患であり、最古の職業病として知られるじん肺の一種です。肺胞に沈着した粉じんは、通常、細胞性免疫を担うマクロファージが主体となったクリアランス機構(異物を排除する働き)によって体外へ排出されますが、粉じんが結晶質シリカの場合は、マクロファージの損傷性が高く、細胞死を誘発するため、クリアランス機構が阻害されてしまいます。これにより、マクロファージのサイトカイン分泌が促進され、免疫細胞が活性化し、肺胞での炎症が引き起こされます。これに連鎖して、線維芽細胞が分泌したコラーゲンの過剰蓄積が起こり、線維化が進行、最終的には、コラーゲンや結晶質シリカから成るけい肺結節やPMFが形成されます。このような一連の流れから、マクロファージの結晶質シリカに対する反応は、けい肺発症のメカニズムを知る上で、重要な手掛かりと考えられています。14)

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      Fig9. けい肺の発症メカニズム 14)

      (2) 発がん性等

      GHSで結晶性シリカの発がん性は区分1Aで、ヒトに対する発がん性が知られているとして区分されています。更に、特定標的臓器毒性では区分1(呼吸器、免疫系、腎臓)に影響があると区分されています。 区分1とは、ヒトに重大な毒性を示した物質、または実験動物での試験の証拠に基づいて反復ばく露によってヒトに重大な毒性を示す可能性があると考えられる物質です 13)。

      GHS(GloballyHarmonizedSystemofClassificationandLabellingofChemicals)とは、化学品の危険有害性(ハザード)ごとに分類基準及びラベルや安全データシートの内容を調和させ、世界的に統一されたルールとして提供するものです。

      (3) 粒子との関係

      上述した健康影響は、粒子径も大きく関係しています。産業安全で粒子はThoracic、Respirableに分類されます。これらの粒子は、健康影響の大小はありますが、珪藻土に限らずすべての粉体にいえることで、このような微粒子の粉体を取り扱う場合は、局所排気や保護具を用いできるだけ人体への吸入や接触を避けることが肝心です。

      ・Thoracic

      Thoracicは、粒子径範囲0~25ミクロン、50%径10ミクロンの粒子を指し、これらの粒子は気管支や肺胞まで到達します。

      ・Respirable

      Thoracicより更に微小な粒子をRespirableといいます。Respirableは、粒子径範囲0~10ミクロン、50%径4ミクロン程度の粒子を指し、この粒子はほとんどが肺胞まで到達します。

      (4) 結晶性シリカの管理濃度と許容濃度

       結晶性シリカを含む材料は健康影響が大きいため、法律により管理濃度と許容濃度が定められています。 

      ・管理濃度

      管理濃度とは、作業環境管理を進める上で、有害物質に関する作業環境の状態を評価するために、作業環境測定基準に従って実施した作業環境測定の結果から作業環境管理の良否を判断する際の管理区分を決定するための指標です。管理区分は3段階に分かれていて、区分Ⅲの場合は、速やかに改善する必要があります。結晶性シリカの管理濃度は、以下の公式から求められます。 例えば、遊離ケイ酸の含有率が1%の場合、管理濃度は1㎥に対して1.36㎎以下に抑える必要があります。遊離ケイ酸とは、空気中に浮遊している結晶性シリカを含有する粉体を指します。

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      ・許容濃度

      許容濃度とは、労働者が1日8時間、1週間40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害物質に暴露される場合に、当該有害物質の平均暴露濃度がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度です。日本産業衛生学会(2015年度版)では、吸入性結晶質シリカの許容濃度は0.03mg/m3以下と定められています。

      産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説

      7. 課題

      珪藻土は、天然物でかつ様々な形状のものが存在するため、合成シリカに対して、粒子径や多孔質材料に要求される比表面積、細孔容積、細孔径の制御とその均質性の向上が課題です。更に、製造に高温を要するため生産エネルギー、結晶性シリカ含有量の低減等のエネルギー、安全性に対しても課題があると考えます。

      8. まとめ

      工業的に珪藻土は、ろ過助剤をはじめさまざまな用途に使用されいます。これらの用途はシリカゲルなどの合成シリカと重複する部分がありますが、珪藻土は、合成シリカに比べ製造工程が簡単ですが、天然物のため、合成シリカに比べ均質性や物性の制御が難しい反面、製造コストが低いという特徴があります。一方、合成シリカは珪藻土に比べて製造工程が複雑ですが、均質性や物性制御が容易ですが、製造コストが高いという特徴があります。したがって、これらの長所・短所をお互いに補完し合い、珪藻土と合成シリカのブレンド等により新たな価値が創出できるかもしれません。今後、さまざまなシリカの技術を融合することでシリカ産業界全体が盛り上がることを筆者も期待しています。

      【参考文献】

      1) 光合成辞典https://photosyn.jp/pwiki/index.php?%E7%8F%AA%E8%97%BB
      2) クラフトワークHP http://cr-w.com/keisoudo
      3) NOCS HP https://www.nocs.cc/study/ind/diatomite.htm
      4) 珪藻土.com https://www.e-keisoudo.com/keisou05.html
      5) 神笠諭 “珪藻土 とその工業的利用”, 粉体工学会誌, 39,114-121 (2002)
      6) 昭和化学工業株式会社HP https://www.showa-chemical.co.jp/service_1rok.html
      7) 乾智行 “触媒担体としてのセラミックス”, セラミックス, 15,324-330 (1980)
      8) 中森一義 “銅,ニッケル触媒卿,触媒,23,145-148(1981)
      9) 東洋シーシーアイほか “触媒工業の新展開;無機化学品製造用触媒”, JETI, 47-5, 51 (1999)
      10) Yamane, T., etal. “Intermolecular Esterification by Lipase Powder in Microaqueous Benzene”, Biocechnol. Bioeng., 36, 1063-1069 (1990)
      11) Cook, D. A., D. M. Armitage and D. A. Collins “Diatomaceous earth as alternatives to organo-phosphorous pesticide treatments on stored grain in the UK”, Postharvest News and Information, 10-3, 39N-43N (1999)
      12) 結晶構造ギャラリー https://staff.aist.go.jp/nomura-k/japanese/itscgallary.htm
      13) 職場のあんぜんサイト https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/14808-60-7.html
      14) 労働安全衛生研究所HP https://bit.ly/3U6YBrh

       

      次回に続きます。

      【出典】笛田・山田技術士事務所HPより、筆者のご承諾により編集して掲載。

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      この記事の著者

      山田 佳之

      『シリカ』のことでお困りの際には合成シリカの専門家『シリカ博士』笛田・山田技術士事務所にご相談ください。専門技術をベースに、環境保全、労働安全衛生を結び付けクライアント様の問題を解決へと導きます。

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