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1. 食用油劣化と酸素の影響
酸素、光、熱は食用油劣化の三大因子といわれています。今回はその中の「酸素」について述べてみたいと思います。酸素はご存知のとおり、空気中に21%存在しています。この酸素が食用油のみならず食品の保存に酸化という形で負の影響を与えることはよく知られているところです。この酸素は脂肪酸と反応し過酸化脂質となる「酸化」を引き起こし、さらに進行と共に分解反応も加わりアルデヒド類やケトン類などが生成します。特にアルデヒド類には毒性を有するものがあり、調理者がフライ調理作業中に気持ちが悪くなるなどの「油酔い」と呼ばれる症状を引き起こす「アクロレイン」(2-プロペナール)が知られています。
それでは具体的に油脂含有食品の酸素と酸化劣化の例をみていきたいと思います。以下の図は食用油を掛けた「あられ」の試験例で、小麦粉生地にコーン油を15%添加し、そのうち15gをプラスチックフィルム包装(サイズ10cm×15cm)に入れ、フィルム包装内の酸素をそれぞれ0.2%、1.3%、2.3%、及び5.0%となるように窒素ガスと空気で調整し、封をして保存試験を行ったものです。保存温度は37℃で、評価指標は過酸化物価(POV)です。
図1. 37℃における各包装内酸素濃度品と過酸化物価の経時変化 [1]
この図1.をみてわかりますように、空気(酸素濃度21%)と比較して酸素濃度が少ない包装品の食品は、酸化されにくいことがわかると思います。また同時に、酸素濃度と食品の酸化度合いには相関があり、酸素濃度が低ければ抗酸化効果も高くなることを示しています。厚生労働省の食用油に関する衛生規範では、揚げ菓子の規範ではありますが「過酸化物価のみでは50を超えないこと」と決められていますので、包装内が空気である場合は約120日で食すことができなくなります。一方で、包装内の酸素濃度が低いものはどうでしょうか。
包装内酸素濃度が2.3%であるものは180日経過していても過酸化物価が50を超えていないことがわかります。この保存試験の結果では包装容器内酸素濃度が2~3%以下にすると、格段に保存性が向上するといえます。このように酸素は油脂含有食品にも大きな影響を与えます。実際にはポテトチップスなどのスナック類の包装容器には窒素が充填されているものが多くあります。このような保存性の向上に関する技術は、食品ロス低減にも大きく貢献します。
2. 食品包装内での「脱酸素剤」の効果
「油脂の劣化を極力抑えたい。」食品に携わる技術者であれば誰でも思ったことがあると思います。そのためには、やはり「酸素」と油脂との接触をどう抑えるかが重要になってきます。前述の「1. 食用油劣化と酸素の影響」では、油を塗した「あられ」の包装パッケージ内の酸素濃度と過酸化物価による劣化の関係について述べました。そして、製品形態での容器内の酸素コントロールが、保存品質に大きな影響を与えることについても述べました。今回...
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1. 食用油劣化と酸素の影響
酸素、光、熱は食用油劣化の三大因子といわれています。今回はその中の「酸素」について述べてみたいと思います。酸素はご存知のとおり、空気中に21%存在しています。この酸素が食用油のみならず食品の保存に酸化という形で負の影響を与えることはよく知られているところです。この酸素は脂肪酸と反応し過酸化脂質となる「酸化」を引き起こし、さらに進行と共に分解反応も加わりアルデヒド類やケトン類などが生成します。特にアルデヒド類には毒性を有するものがあり、調理者がフライ調理作業中に気持ちが悪くなるなどの「油酔い」と呼ばれる症状を引き起こす「アクロレイン」(2-プロペナール)が知られています。
それでは具体的に油脂含有食品の酸素と酸化劣化の例をみていきたいと思います。以下の図は食用油を掛けた「あられ」の試験例で、小麦粉生地にコーン油を15%添加し、そのうち15gをプラスチックフィルム包装(サイズ10cm×15cm)に入れ、フィルム包装内の酸素をそれぞれ0.2%、1.3%、2.3%、及び5.0%となるように窒素ガスと空気で調整し、封をして保存試験を行ったものです。保存温度は37℃で、評価指標は過酸化物価(POV)です。
図1. 37℃における各包装内酸素濃度品と過酸化物価の経時変化 [1]
この図1.をみてわかりますように、空気(酸素濃度21%)と比較して酸素濃度が少ない包装品の食品は、酸化されにくいことがわかると思います。また同時に、酸素濃度と食品の酸化度合いには相関があり、酸素濃度が低ければ抗酸化効果も高くなることを示しています。厚生労働省の食用油に関する衛生規範では、揚げ菓子の規範ではありますが「過酸化物価のみでは50を超えないこと」と決められていますので、包装内が空気である場合は約120日で食すことができなくなります。一方で、包装内の酸素濃度が低いものはどうでしょうか。
包装内酸素濃度が2.3%であるものは180日経過していても過酸化物価が50を超えていないことがわかります。この保存試験の結果では包装容器内酸素濃度が2~3%以下にすると、格段に保存性が向上するといえます。このように酸素は油脂含有食品にも大きな影響を与えます。実際にはポテトチップスなどのスナック類の包装容器には窒素が充填されているものが多くあります。このような保存性の向上に関する技術は、食品ロス低減にも大きく貢献します。
2. 食品包装内での「脱酸素剤」の効果
「油脂の劣化を極力抑えたい。」食品に携わる技術者であれば誰でも思ったことがあると思います。そのためには、やはり「酸素」と油脂との接触をどう抑えるかが重要になってきます。前述の「1. 食用油劣化と酸素の影響」では、油を塗した「あられ」の包装パッケージ内の酸素濃度と過酸化物価による劣化の関係について述べました。そして、製品形態での容器内の酸素コントロールが、保存品質に大きな影響を与えることについても述べました。今回は、食品包装内での「脱酸素剤」の効果について、述べてみたいと思います。
脱酸素剤は油脂のみならず、食品の劣化を抑える目的で包装容器内に入っていることがありますが、例えば、三菱ガス化学株式会社製の製品名「エージレス®」は良く知られた脱酸素剤であると思います。[4]脱酸素剤は、主成分は大別すると活性酸化鉄系とアスコルビン酸系の二種類があり、これらの酸素を化学的に吸収する素材を、酸素を通すことができるパック(小袋)に封入したものです。この脱酸素剤を食品と一緒に密封容器中に封入することにより容器内の酸素を吸収除去し、食品と酸素の接触を抑えます。その効果を「コーン油添加アラレ」で試験した結果が以下の図2になります。
図2. コーン油添加アラレ(抽出油)の過酸化物価の経時変化 [2]
この図の試験では、コーン油添加アラレに脱酸素剤(三菱ガス化学株式会社製エージレスパック)を封入し包装(エージレスパック0.1%02以下)したもの、脱酸素剤を利用せずに包装内の酸素濃度をコントロールしなかったもの(空気(21%02))、そして包装内の酸素濃度を5%、2.3%、1.3%、及び0.2%にコントロールしたものの、37℃・暗所における180日間の保存状態を評価したもので、アラレに含まれる油脂の過酸化物価の変化を経時的に分析した保存試験です。[5]
脱酸素剤を利用していない空気(21%02)では、180日目で過酸化物価が100meq/kg近くまで上昇し、著しく劣化が進んでいることがわかる一方、脱酸素剤を封入しているエージレスパック0.1%02以下では過酸化物価の上昇が抑制されていることから、その効果は大きいといえます。また、この試験結果からも包装容器内の酸素濃度をコントロールすることにより、 油脂食品の劣化を制御できることが示されています。この試験では食品として「コーン油添加アラレ」で行われていますが、他の食品でその効果を利用したい場合は、実際に対象の食品で保存試験を行って確認をすることが必要です。
3. 食用油脂自体に含まれる酸素の劣化への影響
食用油脂や食品に含まれる油脂の劣化を抑えるには、酸素との接触をいかに抑えるかが重要です。「1. 食用油劣化と酸素の影響」では包装容器内の酸素濃度を制御することへの劣化への影響を述べました。「食品包装内での「脱酸素剤」の効果」では包装容器内ヘッドスペースの脱酸素効果についてお話をしました。今回は、食用油脂自体に含まれる酸素の劣化への影響について述べてみたいと思います。食用油脂自体にはどれくらいの酸素が溶解するかご存知でしょうか?
文献によりますとその飽和溶存酸素量はキャノーラ油で0℃、1気圧のデータですが24.3 mL/L-oil、つまり2.4vol%最大で溶解します。[5] つまり、油脂と空気の接触表面のみならず、空気に存在する酸素を油脂が取り込み、そして不飽和脂肪酸と反応を起こすという仕組みがあります。実際の試験例を図.3に示します。
この試験はキャノーラ油と、キャノーラ油に消泡剤として使用される食品添加物のシリコーン(ジメチルシロキサン)が100ppm※になるように含有させた油脂(シリコーン含有キャノーラ油)を用いて実施したものです。そして、これらの油脂表面と空気が常に接触する環境に置き、その室温(room temp.)および60℃における溶存酸素量と過酸化物価の経時変化を調べたものです。[5]
(※シリコーンは急性毒性、慢性毒性、一般生化学試験等の試験で安全性が確認され、 食品・添加物等の規格基準(厚生省告示第370号)では0.050g/kg(50ppm)を上限として、消泡目的に限り使用が認められています。 また、業務用の油脂製品においてのみ、実用的には1~3ppmの添加が適当とされています。[6])
シリコーンは消泡作用の他にも油脂表面に存在し、空気からの酸素との接触を抑制しているとされ、実際に油脂に対して劣化抑制機能を有します。
図3. 油脂中溶存酸素量とシリコーンの有無および温度による自動酸化への影響[3]
図の内の左上図、Relative oxygen content(%)(相対酸素含有率)では100%のラインが先ほどお話した飽和溶存酸素量である24.3mL/L-oil(2.4vol%)に相当し、その結果はほぼ2日目で飽和酸素濃度近くまで達して平衡状態になっていることがわかります。つまり、酸素は油脂中に速やかに吸収されていきます。図の内の左下図、Peroxide value(meq/kg)(過酸化物価)で見る劣化の経時変化については、キャノーラ油とシリコーン含有キャノーラ油共にその劣化は少なく、大きな差は見られませんが、少し過酷な条件である60℃では状況が変わってきます。図の内の右上図では60℃下におけるRelative oxygen content(%)の経時変化を見ると、キャノーラ油とシリコーン含有キャノーラ油共に減少し、特にシリコーン含有キャノーラ油の減少が比較して大きくなっています。
これは、酸化による酸素消費によって油脂中の溶存酸素量が減少していることを意味しています。そして、シリコーン含有キャノーラ油は油脂表面に存在するシリコーンによって、空気からの酸素供給が抑制されているため、シリコーンを含有しない油脂よりも溶存酸素量が少なくなるといえます。図中の右下図では溶存酸素量の低減による劣化抑制の効果を見ることができます。シリコーン含有キャノーラ油がキャノーラ油よりも、有意に過酸化物価の上昇が抑えられています。このように、油脂中の溶存酸素を低減することも劣化防止という観点から重要になってきます。その溶存酸素の低減の方法としては、窒素など不活性ガスの接触・吹き込み(バブリング)による置換や、減圧下における脱気などがあります。
【参考文献】
[1] 三菱ガス化学株式会社ホームページ
https://www.mgc.co.jp/products/sc/ageless/index.html DL 2019.10.02
[2] 戸谷永生「油中溶存酸素量と油脂の酸化に関する研究」杉山産業化学研究所 平成26年(2014)研究助成報告書p34-41
[3] 湯木悦二「フライ油の問題点とその対策」日本油化学会誌, 第28巻, 第10号, p736, (1979)
【引用文献】
[4] 太田静行 著「油脂食品の劣化とその防止」(幸書房) p181, 2), 図6.13 (1977)
[5] 三菱ガス化学株式会社ホームページ
https://www.mgc.co.jp/products/sc/ageless/effect/02.html 上図 DL 2019.11.02
[6] 戸谷永生「油中溶存酸素量と油脂の酸化に関する研究」杉山産業化学研究所 平成26年(2014)研究助成報告書p34-41, Fig.2A, Fig.2B
【出典】中谷技術士事務所 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載
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