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近年、機械学習の技術はビジネスのあらゆる分野で急速に進化し、企業の意思決定プロセスに革命をもたらしています。しかし、複雑化するモデルの背後にある「なぜ」という問いに答えることは、ますます困難になってきています。今回は、解釈可能な機械学習モデルと事後的解釈手法の両方に焦点を当て、実際のビジネスシーンでの応用事例を通じて、これらの手法がどのように企業の意思決定を支援し、ビジネス価値を高めることができるかを説明します。医療、金融、小売といった多様な業界における事例を紹介し、機械学習モデルの透明性と効果性を最大化するための戦略の重要性を感じで頂ければと思います。今回は、連載3回のその1です。
【記事要約】
解釈可能な機械学習モデルと事後的解釈手法がビジネスにおいていかに重要であるかを、幾つかの事例を通じて説明しました。これらの先進的な手法がどのように実用的なデータインサイトを提供し、企業の意思決定プロセスを支援したのか、何となく理解できたのではないかと思います。解釈可能な機械学習モデルは、予測の背後にある論理を明確にし、解釈不可能な機械学習モデルに対しては事後的解釈手法により、より複雑なモデルの意思決定プロセスを理解するための鍵を提供することがえきます。このようにして、ビジネスはデータ駆動型の意思決定を行い、より効果的な戦略を策定し、競争上の優位性を確保することができます。今後も、機械学習モデルの進化とともに、その解釈と応用の方法はさらに重要性を増していくでしょう。
◆ なぜ「解釈可能ML(機械学習)」が必要なのか? 主な手法と事例のご紹介(連載3回のその1)
1. 機械学習モデルの解釈性の重要性
(1)機械学習モデルの出力を理解することの価値
機械学習モデルは、データから複雑なパターンを学習し、予測や決定を行います。しかし、モデルがどのようにこれらの結果に至ったかを理解することは、単に技術的な挑戦以上の意味を持ちます。モデルの出力を解釈する能力は、信頼性、透明性、そして責任ある利用を確保する上で不可欠です。特に、高リスクや規制された業界(例えば医療、金融)では、決定の背後にある理由を正確に理解し、説明することが法的要件にもなり得ます。
(2)機械学習が組み込まれた製品やサービスの購入・利用の決定要因
ビジネスの文脈では、機械学習モデルは製品やサービスの一部として組み込まれます(例:AI搭載〇〇サービス)。製品やサービスの見込み顧客や利害関係者にモデルの振る舞いを理解してもらうことは、機械学習モデルの組み込まれた製品やサービスの信頼性と受容性を高める上で重要です。また、モデルの透明性は、潜在的なバイアスや不公平な扱いを特定し、是正する上でも重要です。
2. 機械学習モデルを解釈する技術の概要
(1)解釈可能性とは?
解釈可能性とは、機械学習モデルの予測や決定がどのように行われたかを人間が理解しやすい形で説明できる程度を指します。機械学習モデル、特に複雑なモデル(例えば、深層ニューラルネットワーク)は、高い予測精度を持ちますが、その決定プロセスが複雑で、なぜ特定の予測や決定がなされたのかを理解するのが難しい場合があります。
【解釈可能性の重要性】
- 信頼性の向上: モデルの動作が理解できると、ユーザはモデルの予測をより信頼することができます。
- エラーの特定: モデルの予測に問題がある場合、その原因を特定しやすくなります。
- フィードバックと改善: 解釈可能なモデルは、フィードバックを受け入れ、改善するのが容易です。
- 規制とコンプライアンス: 特に金融や医療などの規制が厳しい分野では、モデルの決定を説明することが法的要件になっている場合があります。
- 倫理的透明性: 特に個人情報を扱う場合、モデルの決定プロセスが透明であることは、倫理的な問題やバイアスのリスクを減少させるのに役立ちます。
すべての機械学習モデルが解釈性が高いわけではありません。機械学習モデルには、解釈可能な機械学習モデルと解釈不可能な機械学習モデルに分かれます。解釈不可能な機械学習モデルに対しては事後的解釈手法を用います。
(2)解釈可...
これは、その構造や動作が比較的単純であり、モデルがどのように予測や決定を行っているかを直接理解できるモデルを指します。例えば次の2点です。
- 線形モデル:線形回帰やロジスティック回帰など。これらのモデルは、各入力特徴に係数を割り当て、その係数が予測に与える影響が直接的に解釈できます。
- 決定木:データを分類するための一連の質問に基づいて構築され、各分岐点での決定が直接的に理解できます。
(3)解釈不可能なモデルのための事後的解釈手法
これらは、解釈が難しい複雑なモデル(例:深層ニューラルネットワークや複雑なアンサンブルモデル)に後から解釈を加える手法です。これらのモデルは、その内部動作が非常に複雑で、直接的な理解が困難なため、別の方法で予測の根拠を説明する必要があります。例えば次の2点です。
- シャプリー値:モデルの予測に各特徴がどれだけ貢献したかを数値で表します。
- LIME:複雑なモデルの個別の予測の周辺で、より単純なモデルを構築し、その単純なモデルによる予測の根拠を説明材料として使用します。
3. 機械学習モデルの予測や決定がどのように行われたか、2つの説明の仕方
機械学習モデルの予測や決定がどのように行われたかを人間が理解しやすい形で説明するとき、主にローカルな説明とグローバルな説明の仕方があります。ローカルな説明は個々の予測または決定に焦点を当てたもの、グローバルな説明はモデル全体の動作と決定ロジックを説明することに焦点を当てたものです。それぞれについて簡単に説明した後、事例を交え解説します。
(1)ローカルな説明とは?
ローカルな説明は、個々の予測または決定に焦点を当て、その特定のケースにおけるモデルの動作を説明します。これにより、モデルがその特定のケースに対してなぜそのような予測を行ったのかを理解することが可能になります。
- 事例指向: ローカルな説明は、一つのデータポイント(例えば、特定の顧客のクレジットスコアリング)に対するモデルの予測に対する解釈を提供します。
- 解釈の深さ: このアプローチでは、その予測に影響を与えた特徴や要因を詳細に理解することができます。
- 透明性の向上: ローカルな説明は、利用者や関係者が個々の決定の背後にある論理を理解するのに役立ちます。
(2)グローバルな説明とは?
グローバルな説明は、モデル全体の動作と決定ロジックを説明することに焦点を当てます。これはモデルが全体的にどのように機能しているかを理解するのに役立ちます。
- モデル全体の理解: グローバルな説明は、モデルがデータセット全体にわたってどのように決定を下しているかを示します。
- 特徴の影響: このアプローチでは、どの特徴がモデルの予測に最も影響を与えているかを理解することができます。
- 一般化された知見: グローバルな説明は、モデルの一般的な挙動と傾向を捉え、より広範なビジネスインサイトや戦略的意思決定に役立ちます。
解釈可能な機械学習モデルでは、これらのローカルとグローバルな説明を通じて、モデルの動作をより深く理解し、それをビジネスやリサーチの文脈で活用することが可能になります。これにより、モデルの信頼性を高め、利用者の理解を促進し、最終的にはより効果的な意思決定をサポートします。
(3)事例: クレジットスコアリングモデル
銀行が機械学習モデルを使用して、顧客のクレジットスコアを予測し、ローンの承認を決定する。
①ローカルな説明・・・ローカルな説明は、個々の予測や決定に焦点を当て、特定のケースにおけるモデルの動作を説明します。
- 個別のケースの詳細・・・顧客Aがローンを申し込んだとき、モデルがなぜ彼に低いスコアを割り当てたのかを詳細に説明します。例えば、モデルが顧客Aの低い収入、高い債務、または過去の支払い遅延を低スコアの主要な理由として識別した場合、その情報が提供されます。
- 個々の意思決定の透明性・・・このローカルな説明は、顧客やローン担当者にとって有用です。それにより、特定のローン申請に対する決定の理由を明確に理解できます。
②グローバルな説明・・・グローバルな説明は、モデル全体の動作と決定ロジックを説明することに焦点を当てます。
- モデル全体の傾向とパターン・・・クレジットスコアリングモデル全体がどのように機能するかを示します。たとえば、どの特徴がスコアリングに最も影響を与えるかなどです。例えば、収入レベル、債務履歴、支払い行動が全体的にスコアリングにおける最も重要な要因であることが明らかになるかもしれません。
- 一般的な決定メカニズムの理解・・・グローバルな説明は、銀行のリスク管理チームやポリシーメーカーにとって重要です。それにより、モデルが全体としてどのようにリスクを評価し、ローンの承認を決定しているかを理解できます。
③違いと特徴
- 焦点: ローカルな説明は「個別の予測」に焦点を当て、グローバルな説明は「モデル全体の挙動」に焦点を当てます。
- 利用者: ローカルな説明は顧客や個々の意思決定者に役立ち、グローバルな説明はポリシーメーカーや組織のリーダーに役立ちます。
- 目的: ローカルな説明は透明性と個々の理解を提供するのに対し、グローバルな説明は全体的な洞察と戦略的意思決定をサポートします。
(4)事例: オンライン小売業者の顧客購買行動予測
オンライン小売業者が機械学習モデルを用いて、顧客の購買行動を予測し、パーソナライズされた商品推薦やマーケティング戦略を展開する。
①ローカルな説明・・・ローカルな説明は、個々の顧客の予測に焦点を当て、その特定のケースにおけるモデルの動作を説明します。
- 個別の予測の詳細・・・顧客Aが特定の商品を購入する可能性が高いと予測された場合、ローカルな説明は、なぜその顧客にその商品が推薦されたのかを明らかにします。例えば、顧客Aの過去の購買履歴、閲覧履歴、および類似顧客の行動パターンが、この推薦の根拠として提供されます。
- パーソナライズされた推薦の理解・・・このローカルな説明は、マーケティングチームにとって有用です。それにより、個々の顧客に対する最適な商品推薦の戦略を理解し、調整することができます。
②グローバルな説明・・・グローバルな説明は、モデル全体の動作と決定ロジックを説明することに焦点を当てます。
- 全体的な傾向とパターン・・・顧客購買行動予測モデル全体がどのように機能するかを示します。たとえば、どのような顧客特性が購買行動に最も影響を与えるかなどです。例えば、一般的に年齢層、購買頻度、シーズンごとの行動が顧客の購買傾向に大きく影響していることが明らかになるかもしれません。
- 全体的なマーケティング戦略の洞察・・・グローバルな説明は、経営陣や戦略担当者にとって重要です。それにより、モデルが全体として顧客の購買行動をどのように予測しているかを理解できます。
③違いと特徴
- 焦点: ローカルな説明は「個別の顧客の予測」に焦点を当て、グローバルな説明は「モデル全体の挙動」に焦点を当てます。
- 利用者: ローカルな説明は個々のマーケティング担当者や顧客エンゲージメントチームに役立ち、グローバルな説明は経営陣や戦略立案者に役立ちます。
- 目的: ローカルな説明は個々の顧客対応の最適化に役立ち、グローバルな説明は全体的なマーケティング戦略や商品企画のための洞察を提供します。
(5)事例: 交通流予測モデル
都市交通局が機械学習モデルを用いて、都市部の交通流を予測し、交通管理や都市計画を行う。
①ローカルな説明・・・ローカルな説明は、特定の時点や地点における交通流の予測に焦点を当て、その具体的なケースにおけるモデルの動作を説明します。
- 特定の状況の詳細・・・例えば、月曜日の朝の特定の交差点において、交通渋滞が予測された場合、ローカルな説明は、なぜその場所で渋滞が発生すると予測されたのかを明らかにします。その理由は、近隣の学校やオフィスの開始時間、最近の道路工事、特定のイベントなどの特定の要因に基づいているかもしれません。
- 具体的な意思決定の支援・・・このローカルな説明は、交通管制官や地域計画担当者にとって有用です。それにより、特定の場所や時間帯における交通管理の戦略を理解し、調整することができます。
②グローバルな説明・・・グローバルな説明は、モデル全体の動作と決定ロジックを説明することに焦点を当てます。
- 全体的な傾向とパターン・・・交通流予測モデル全体がどのように機能するかを示します。たとえば、時間帯、曜日、季節、気象条件などが全体的に交通流にどのように影響を与えるかです。例えば、週末になると特定の地域で交通量が増加する傾向があることや、雨天時には特定の道路で渋滞が発生しやすいことが明らかになるかもしれません。
- 全体的な交通管理の洞察・・・グローバルな説明は、都市計画者や政策立案者にとって重要です。それにより、モデルが全体として交通流をどのように予測しているかを理解できます。
③違いと特徴
- 焦点: ローカルな説明は「特定の場所と時間の交通流の予測」に焦点を当て、グローバルな説明は「モデル全体の交通流予測パターン」に焦点を当てます。
- 利用者: ローカルな説明は交通管制官や地域計画担当者に役立ち、グローバルな説明は都市計画者や政策立案者に役立ちます。
- 目的: ローカルな説明は具体的な場所や時点での交通管理を最適化するのに役立ち、グローバルな説明は都市全体の交通管理戦略や政策のための洞察を提供します。
次回のなぜ「解釈可能ML(機械学習)」が必要なのか? 主な手法と事例のご紹介(連載3回のその2)に続きます。
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