数値予測は9つのシナリオで実施する データ分析講座(その223)

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データ分析

 

【この連載の前回:データ分析講座(その222)「相関」は曲がったことが大っ嫌いへのリンク】

ビジネスの現場で売上などの数値を予測することは多いでしょう。例えば、予測モデルを構築し予測したり、例年踏襲型で数値を予測したりします。例年踏襲型とは、昨年と同額もしくは昨対比10%UPみたいな感じの予測というものです。予測対象域は未来のため、何かしら想定と言うかシナリオを考える必要もでてきます。今回は、「売上などの数値予測は少なくとも9つのシナリオで実施する」というお話しです。

 

【目次】
1.点予測は100発0中が当たり前
(1)人口推計
(2)3×3の9つのシナリオ
2.ポジもネガも3つのシナリオで予測しよう
(1)どこまで要因を分解するのか?
(2)移動推計
(3)3つもシナリオ作れないよぉー

 

1.点予測は100発0中が当たり前

数理モデルなどを活用し、来年度の売上予測は「152億3,2987万1,827円」などと言う感じの、点予測の値を出すことは可能です。恐らく、その年の売上が「152億3,2987万1,827円」になることは、ほとんどありません。1つの値だけを予測する点予測の結果は、100発0中が当たり前なのです。

 

しかし、点予測の結果が独り歩きすることがあります。可能であれば、幅を持った区間予測がいいでしょう。

 

(1)人口推計

日本国政府は、日本の人口推計を実施しています。

 

人口統計学の手法である生命表(死亡表)などを活用し推計しています。詳細は、厚生労働省や国立社会保障・人口問題研究所のHP(http://www.ipss.go.jp/)などを参考にして頂ければと思います。人口推計は、大災害など極端なことが起きない限り、比較的精度よく予測できます。このような人口推計ですが、3×3の9つのシナリオから成り立っています。

 

(2)3×3の9つのシナリオ

人口推計するには、出生し増える人口と、死亡し減る人口を推計する必要があります。

 

ビジネスであれば、顧客数を推計するのに、新規顧客数と離反顧客数を推計する、という感じになります。人口推計するときに、3つのシナリオに沿って出生を推計します。

  • 高位
  • 中位
  • 低位


死亡に関しても同様に、3つのシナリオに沿って推計します。

  • 高位
  • 中位
  • 低位

 

要するに、出生と死亡についてそれぞれ高位・中位・低位の3仮定を設け、それらの組み合せにより9通りの推計を行っています。

 

データ分析

 

これは日本国だけでなく、海外の国でも同様です(すべてかどうかは分かりません。シナリオの数も国によって変わります)。さらに、国際人口移動のシナリオを考え組み合わせることあります。英国の政府保険数理局(GAD)では、国際人口移動のシナリオも高位・中位・低位の3仮定を設け、27シナリオで人口推計を行っています(少なくとも、私の知っている限りでは……)。要するに、予測値に幅を持たせている、ということです。

 

データ分析

図1.総人口の推移:出生3仮定・死亡3仮定の比較

【出典】https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/priority/k_1/19html/sn_1_1_3.html

 

ちなみに、よく目にする人口推計の結果は、出生中位・死亡中位の結果です。

 

2.ポジもネガも3つのシナリオで予測しよう

先ほど、「ビジネスであれば、顧客数を推計するのに、新規顧客数と離反顧客数を推計する、という感じになる」というお話しをしました。

この場合ですと……

  • 新規顧客数で高位・中位・低位の予測をする
  • 離反顧客数で高位・中位・低位の予測をする

……ということです。そうすると、9つの顧客数の予測結果が手に入ります。

 

データ分析

 

要するに、人口推計と同様、予測対象の要因を3つのシナリオ(高位・中位・低位)で予測し、それらを組み合わせ、幅を持たせて予測しようということです。

 

(1)どこまで要因を分解するのか?

今、顧客数を推計するのに、新規顧客数と離反顧客数を推計する例をお話ししました。このとき、売上を予測したい場合どうすればいいのでしょうか。

例えば、「売上=客単価×顧客数」で考えたとき……

  • 客単価で高位・中位・低位の予測をする
  • 顧客数で高位・中位・低位の予測をする

……ということになるでしょう。

この顧客数は……

  • 新規顧客数で高位・中位・低位の予測をする
  • 離反顧客数で高位・中位・低位の予測をする

……ということでしたので、27シナリオ(客単価3シナリオ×新規顧客3シナリオ×離反顧客3シナリオ)の売上予測の結果が手に入ります。

まとめると……

  • 売上=客単価×顧客数
  • 顧客数=前期顧客数+新規顧客数-離反顧客数

……となります。

 

どこまで要因を分解するのか? という問題が起こりますが、出来るだけ粒度が細かい方がいいですが、無意味に細かくしても仕方がないので、現場の人がコントロールし易い粒度がいいでしょう。現実的には、データの粒度の壁が立ちはだかります。データの粒度の壁とは、手元にあるデータの粒度が粗いという壁です。そのときは、その壁の範囲内で考えていきます。

 

(2)移動推計

人口推計では、国際人口移動のシナリオを考え組み合わせることあります、というお話しをしました。ビジネスであれば、商品やサービスのラインナップやグレード間の移動が相当することでしょう。一昔前、「いつかはクラウン。」というキャッチフレーズがありました。始まりはカローラで、そしてコロナを経て、いつかはクラウンという感じです。ずーっとカローラを買い替え続ける人もいるでしょうが、上に位置付けられるクラウンに買い替える人もいることでしょう。どのくらい移動するのかを推計するのが、移動推計です。

 

商品やサービス...

データ分析

 

【この連載の前回:データ分析講座(その222)「相関」は曲がったことが大っ嫌いへのリンク】

ビジネスの現場で売上などの数値を予測することは多いでしょう。例えば、予測モデルを構築し予測したり、例年踏襲型で数値を予測したりします。例年踏襲型とは、昨年と同額もしくは昨対比10%UPみたいな感じの予測というものです。予測対象域は未来のため、何かしら想定と言うかシナリオを考える必要もでてきます。今回は、「売上などの数値予測は少なくとも9つのシナリオで実施する」というお話しです。

 

【目次】
1.点予測は100発0中が当たり前
(1)人口推計
(2)3×3の9つのシナリオ
2.ポジもネガも3つのシナリオで予測しよう
(1)どこまで要因を分解するのか?
(2)移動推計
(3)3つもシナリオ作れないよぉー

 

1.点予測は100発0中が当たり前

数理モデルなどを活用し、来年度の売上予測は「152億3,2987万1,827円」などと言う感じの、点予測の値を出すことは可能です。恐らく、その年の売上が「152億3,2987万1,827円」になることは、ほとんどありません。1つの値だけを予測する点予測の結果は、100発0中が当たり前なのです。

 

しかし、点予測の結果が独り歩きすることがあります。可能であれば、幅を持った区間予測がいいでしょう。

 

(1)人口推計

日本国政府は、日本の人口推計を実施しています。

 

人口統計学の手法である生命表(死亡表)などを活用し推計しています。詳細は、厚生労働省や国立社会保障・人口問題研究所のHP(http://www.ipss.go.jp/)などを参考にして頂ければと思います。人口推計は、大災害など極端なことが起きない限り、比較的精度よく予測できます。このような人口推計ですが、3×3の9つのシナリオから成り立っています。

 

(2)3×3の9つのシナリオ

人口推計するには、出生し増える人口と、死亡し減る人口を推計する必要があります。

 

ビジネスであれば、顧客数を推計するのに、新規顧客数と離反顧客数を推計する、という感じになります。人口推計するときに、3つのシナリオに沿って出生を推計します。

  • 高位
  • 中位
  • 低位


死亡に関しても同様に、3つのシナリオに沿って推計します。

  • 高位
  • 中位
  • 低位

 

要するに、出生と死亡についてそれぞれ高位・中位・低位の3仮定を設け、それらの組み合せにより9通りの推計を行っています。

 

データ分析

 

これは日本国だけでなく、海外の国でも同様です(すべてかどうかは分かりません。シナリオの数も国によって変わります)。さらに、国際人口移動のシナリオを考え組み合わせることあります。英国の政府保険数理局(GAD)では、国際人口移動のシナリオも高位・中位・低位の3仮定を設け、27シナリオで人口推計を行っています(少なくとも、私の知っている限りでは……)。要するに、予測値に幅を持たせている、ということです。

 

データ分析

図1.総人口の推移:出生3仮定・死亡3仮定の比較

【出典】https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/priority/k_1/19html/sn_1_1_3.html

 

ちなみに、よく目にする人口推計の結果は、出生中位・死亡中位の結果です。

 

2.ポジもネガも3つのシナリオで予測しよう

先ほど、「ビジネスであれば、顧客数を推計するのに、新規顧客数と離反顧客数を推計する、という感じになる」というお話しをしました。

この場合ですと……

  • 新規顧客数で高位・中位・低位の予測をする
  • 離反顧客数で高位・中位・低位の予測をする

……ということです。そうすると、9つの顧客数の予測結果が手に入ります。

 

データ分析

 

要するに、人口推計と同様、予測対象の要因を3つのシナリオ(高位・中位・低位)で予測し、それらを組み合わせ、幅を持たせて予測しようということです。

 

(1)どこまで要因を分解するのか?

今、顧客数を推計するのに、新規顧客数と離反顧客数を推計する例をお話ししました。このとき、売上を予測したい場合どうすればいいのでしょうか。

例えば、「売上=客単価×顧客数」で考えたとき……

  • 客単価で高位・中位・低位の予測をする
  • 顧客数で高位・中位・低位の予測をする

……ということになるでしょう。

この顧客数は……

  • 新規顧客数で高位・中位・低位の予測をする
  • 離反顧客数で高位・中位・低位の予測をする

……ということでしたので、27シナリオ(客単価3シナリオ×新規顧客3シナリオ×離反顧客3シナリオ)の売上予測の結果が手に入ります。

まとめると……

  • 売上=客単価×顧客数
  • 顧客数=前期顧客数+新規顧客数-離反顧客数

……となります。

 

どこまで要因を分解するのか? という問題が起こりますが、出来るだけ粒度が細かい方がいいですが、無意味に細かくしても仕方がないので、現場の人がコントロールし易い粒度がいいでしょう。現実的には、データの粒度の壁が立ちはだかります。データの粒度の壁とは、手元にあるデータの粒度が粗いという壁です。そのときは、その壁の範囲内で考えていきます。

 

(2)移動推計

人口推計では、国際人口移動のシナリオを考え組み合わせることあります、というお話しをしました。ビジネスであれば、商品やサービスのラインナップやグレード間の移動が相当することでしょう。一昔前、「いつかはクラウン。」というキャッチフレーズがありました。始まりはカローラで、そしてコロナを経て、いつかはクラウンという感じです。ずーっとカローラを買い替え続ける人もいるでしょうが、上に位置付けられるクラウンに買い替える人もいることでしょう。どのくらい移動するのかを推計するのが、移動推計です。

 

商品やサービスのラインナップやグレード間の移動を考慮すると、シナリオの数はどんどん増えて行きます。

 

(3)3つもシナリオ作れないよぉー

3つもシナリオ作れないよぉー、という方もいるかもしれません。ご安心ください。統計学系のモデル(回帰モデルなど)は、予測区間(信頼区間とは別物)を推計することができます。

 

予測区間には幅がありますので……

  • 高位:区間の上限(もしくは75パーセンタイル)
  • 中位:区間の平均(もしくは50パーセンタイル、別名では中央値)
  • 低位:区間の下限(もしくは25パーセンタイル)

……などとすることで、簡単に手にすることはできます。

 

次回に続きます。

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この記事の著者

高橋 威知郎

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)

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