【この連載の前回:データ分析講座(その221)誰かが困っているところで、循環経済を起こせ!へのリンク】
データ分析では、よく数理統計学の手法が使われます。その中で、比較的高頻度で登場するのが「相関分析」です。2つの変量の間の関係性を見るものです。今回は、「『相関』は曲がったことが大っ嫌い」というお話しをします。
【目次】
1.相関とは?
(1)肥満が増えると、長生きも増える???
2.線形回帰式
3.直線関係を表現したものに過ぎない
4.相関は因果ではない
(1)簡易実験(コンピュータ・シミュレーション)
(2)最後にモノを言うのは「ドメイン知識」
1.相関とは?
2つの変量の間の関係性で、一方が増えたときに他方が増えたり、逆に減ったりする関係性です。相関係数は -1から +1の間の数値をとります。
- +1に近いほど「正の相関関係がある」(一方が増加すると他方が増加する傾向にある場合)
- -1に近いほど「負の相関関係がある」(一方が増加すると他方が減少する傾向にある場合)
- 0は無相関(正の相関関係も負の相関関係もない)
(1)肥満が増えると、長生きも増える???
以下は、男性の肥満者(BMI≧25)の割合の推移です。
出典:厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
以下は、男性の平均寿命の推移です。
出典:厚生労働省「生命表」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/seimei/list54-57-02.html
ヨコ軸を「男性の肥満者の割合」とし、タテ軸を「男性の平均寿命」とした場合の散布図を描きます。
相関係数を計算すると、相関係数:0.953で、相関係数がプラスですから、太った人が多いほど寿命が延びる傾向が読み取れます。本当でしょうか?
2.線形回帰式
先ほどのプロットに、近似直線を引いてみます。
この近似曲線は線形回帰式(単回帰式)と呼ばれるもので、「X:男性の肥満者の割合」をインプットすると、「Y:男性の平均寿命」を計算することができます。
y = 0.236x + 73.671
このような線形回帰式を予測モデルとして利用したりすることは、少なくありません。データや数式のレベルでは問題なさそうですが、「実務で活用するにはどうかな?」と違和感を思った方もいたと思います。この例は分かりやすいですが、ドメイン知識(データ活用をする現場の知識)が欠落していると、このようなことに違和感を持つことなく突き進むことがあります。
3.直線関係を表現したものに過ぎない
相関は、データ間の直線関係を表現したものに過ぎません。データ間に曲線関係がある場合には、そのままでは有効に機能しません。線形回帰式も同様で、曲線関係がある場合には、有効な式を表現できません。何かしら、元のデータを変換して直線関係に近づくようにするか、幾つかの区間に分けて、それぞれの区間で直線関係を作ったりします。相関は曲がったことが大っ嫌いなのです。
4.相関は因果ではない
当然ですが、相関は因果ではなく、単なるデータ間の直線関係を表現したものに過ぎません。直線的な関係性のある因果であれば、正の相関や負の相関として現れます。しかし、正の相関や負の相関であるからと言って、直線的な関係性のある因果であるとまでは言えません。ましてや、曲線的な関係性のある因果の場合、かなり見極めるのが困難です。
そもそも、データを利用しようがしまいが、明確な因果関係を知ることは非常に難しいと思います。物事や事象などに蓋然性があるからこそ、データなどを活用するのでしょう。データで偶然から脱却し、可能な限り必然に近づけることができても、必然にはなりえない、ということなのだと思います。
例えば、離反分析で「離反するも八卦、継続するも八卦」(事前には予期しえない状態)から、データを活用することで、ある程度の離反を予測できる状態にすることは出来ます。ただ、完璧に予測することはできません。顧客がある行動をとったときの離反確率が90%と予測することはできても、100%の予測はできないということです。
(1)簡易実験(コンピュータ・シミュレーション)
Excelなどで乱数を発生させ、YとXの2つのでたらめなデータを作ります。でたらめなデータ間の関係は、通常はありません。
この例では、相関係数は「-0.014」でした。ほぼ「0」です。この作業を500回実施し、500個の相関係数を算出します。500個の相関係数の基礎統計量は次のようになりました。
- 相関係数の平均:0.006
- 相関係数の最大:0.840
- 相関係数の最小:-0.867
何を言いたいかと言うと、でたらめに作ったデータでも、たまにそれなりの相関係数の値になる(例では、相関係数 0.8ぐらい)ということです。相関係数の大小や、線形回帰式の係数や精度などに惑わされないことが重要です。
(2)最後にモノを言うのは「ドメイン知識」
先ほど、ドメイン知識(データ活用をする現場の知識)が欠落していると、結果に違和感を持つことなく突き進む危険性について触れました。データは、所詮過去の事象を記録したモノに過ぎません。し...