◆ データ分析のビジネス貢献を阻害する7つの問題
何のためにデータ分析をするのでしょうか。ビジネスの世界で考えた場合は、ビジネスに貢献する必要があります。多くの場合、収益やコスト、利益、生産性、品質といったものに対し、良いインパクトをもたらすことが貢献といえるでしょう。
そもそも、ビジネスの世界ではデータ分析は必須ではありませんが、あえてデータ分析するからには何か違いを見せる必要があります。例えば、上手くデータ分析を活用することで、無駄が減り効率的になります。ストレートにいうと、利益率が向上します。データ分析の得意分野です。最近、データの蓄積コストや分析コストが減り、多くの企業でデータ分析を安価に活用することができるようになりましたが、多くの企業はあまり上手く出来ていません。
今回は「データ分析のビジネス貢献を阻害する7つの問題」というお話をします。
1. データ分析:IT化の目的
IT化の多くは、恐らく効率化を目的にしていることが多いでしょう。IT化で不効率になったら目も当てられません。世界的にIT化は進みましたが、日本のGDPは約20年間ほぼ同じで、日本生産性本部が出している日本の生産性統計値もほぼ20年間変化がありません。国全体でみたら、IT化で効率的になったとは思えません。一体何が起こっているのでしょうか。実際、あなたの業務はどうでしょうか。
私の知っている範囲ではIT化することで、ある業務の時間が余計に増え、今まで以上に時間がかかることも、少なくないようです。もしかしたら、IT化によって不効率になっている面があるのかもしれません。
2. データ分析:2つの効率化
そもそも効率化とは何でしょうか。色々な定義があるでしょう。私は、ざっくり2種類で考えています。一つはコスト面の効率、もう一つはスピードの効率です。コスト面の効率化とは、費用対効果(コストパフォーマンス)の向上のことです。スピード面の効率化とは、時間が短縮されることです。人的な業務の工数の場合、この両面が含まれます。
例えば、工数が短縮されれば、その短縮された工数分だけコストが減り、スピードが速くなったことになります。逆に、工数が増えれば、その増えた工数分だけコストが増え、スピードが遅くなったことになります。
3. データ分析:ITコスト
多くの人がITコストとしてイメージするのは、主にシステムの導入と運用コストでしょう。しかし重要なのは、そのIT化により影響を受ける人の工数です。IT化で何かしら工数が増えたなら、業務スピードは阻害され、余計なコストとして企業にのしかかってきます。そして多くの人は、IT化によって「何やら余計な業務が増えたかも?」と感じることでしょう。
このような、IT化が進むほど不効率になる現象とは効率化を目指したIT化が、不効率の元凶になり、余計なコスト増を産み出しているケースです。これはビッグデータブーム以後起きた現象で、データ分析の世界で最近目の当たりにします。もちろん、このような不効率化は、ビッグデータブーム以前からありました。私は、ビッグデータブーム時に耳に心地良いカタカナ用語とともに、拍車が掛かったのではないかと感じています。悔しいことに、データで効率化を実現するデータ分析の世界で起こってしまったと感じています。
4. データ分析活用の視点
◆ BI(ビジネスインテリジェンス)ツール
BIツールは非常に素晴らしいデータ分析の活用ツールです。誰もが簡単にデータを色々な切り口で集計し分析できます。しかし残念なことに、導入さえすればデータを使って色々な問題が解決するかのような錯覚を、いくつかの企業にもたらしました。魔法の箱のような扱いをする企業さえありました。DMP(データマネジメントプラットホーム)やデータレイク、プラットフォームなども同様です。
魔法の箱ではないことは、導入して使ってみればすぐに分かります。何も嬉しいことは起こりません。ただ蓄積したデータが見えるだけです。当然ですが、データを見ただけでは何も起こりません。何が足りないのでしょか。それは、データ分析「活用の視点」です。
5. 活用の視点が欠落しているデータ分析者
以下は、活用の視点が欠落しているデータ分析者の典型的なケースです。
- (1). はやりの分析手法にこだわる
- (2). ほんのわずかな精度向上にこだわる
- (3). 現場のことを知らなすぎる
- (4). 分析結果を現場に丸投げする
- (5). データが絡まない課題は自分の仕事ではないと考える
- (6). 成果を数字で示せない
- (7). 信頼を得る努力を怠る
他にもありますが、私が見ている限りこの7つが非常に多い気がします。これは個人だけの問題だけではありません。組織的な問題でもあります。ここ10年、データ分析やデータサイエンス、ビジネスアナリティクスなどの専門組織が、大企業を中心に設置されました。思うようにビジネス貢献できていない、これらの専門組織に共通する問題でもあります。これが「データ分析が企業内で機能しなくなる7つの問題」です。要するに、データ蓄積・分析基盤など、ハード面の問題ではなく、データ分析側の姿勢や意識の問題です。
(1). はやりの分析手法にこだわる
特に若手のデータ分析従事者に多いのが、現在はやっているのデータ分析手法で進めたがることです。私自身にも身に覚えがあります。正直ろくな目に遭いません。苦労した割に成果が出ないのです。重要なのはビジネス成果を出すことです。スゴイ分析よりも成果の出るデータ分析を行わなければなりません。多くの場合、従来の分析手法で十分です。
(2). ほんのわずかな精度向上にこだわる
データ分析の精度にこだわる人も少なくありません。予測精度や判別精度などです。その精度がビジネス上大きな意味を持つなら問題ないのですが、多くの場合ビジネスを左右するほどではありません。データ分析系のコンテストでは、よく精度を競いますが、ビジネスの現場では精度よりも費用対効果です。0.1%の精度を実現するのに、コストが1桁多くなったことがありましたが恐ろしいことです。それ以来、私は無意味に精度を追わなくなりました。
(3). 現場のことを知らなすぎる
多くのデータ分析者にいえることで、大企業に多くみられます。機能分化しているからです。
中小企業などでは、現場の担当者がデータ分析も担当するというオーバーワークの現象が起こり、十分な分析ができずデータ分析が生かされないことも少なくありません。しかし、現場の担当者とデータ分析担当者が分かれている場合、これはこれで問題となり、データ分析担当者が現場を知らずに分析し、とても使いにくい分析結果を量産してしまうのです。
現場で起きていることの多くはデータ化されていません。つまり、データ分析でいえることも活用できることも限られています。さらに、現場の知らないデータ分析担当者の出す分析結果は、微妙に的を外すことが多く、現場で活用してもらえません。そして、現場からの信頼を失います。
(4). 分析結果を現場に丸投げする
データ分析担当者の中にはデータ分析結果を出してお仕舞い、と考える人も少なくなりません。分析した結果をどう使うかは「現場で考えて実行してくれ」というスタンスです。言葉は悪いですが、最悪です。信頼関係が無くなります。丸投げだからです。使える結果ならば良いのですが多くの場合、現場から見たらわけの分からない結果です。データ分析担当者たるもの、分析結果の活用まで責任を持って付き合うべきです。少なくとも、現場で上手く生かせるようになるまでは…。
現場と言っていますが、経営の現場であれば、その現場の担当者は経営者になります。例えば、分析結果を社長に渡し、あとは自分で考えろ!とは言わないはずです。必ず説明をすることでしょう。現場の担当者から、きつい指摘があるかもしれません。反応がないよりましです。より良いデータ分析の活用に向けた一歩です。
(5). データが絡まない課題は自分の仕事ではないと考える
データが絡まない部分は自分の仕事でないと考える人もいます。課題解決のためのデータ分析をしているのであれば、目的は課題解決です。意思決定のためのデータ分析を行っているのであれば、目的は意思決定です。つまり、データを使うか使わないに限らず、課題解決や意思決定に役立つ何かをすれば良いわけで、データに縛られる必要はないでしょう。そもそも、多くの課題解決や意思決定は、データ以外の要素も少なくなく、データ以外の要素も考えないと、データ分析そのものも生きてきません。
(6). 成果を数字で示せない
データ分析の一つの利点として「数字でズバッと客観的に示す」というの手があります。本当に客観的かという見方もありますが、少なくとも数字で...