多くの企業で、成果主義が採用されています。その結果、必然的に年上部下、年下上司の関係が生まれています。まだ年功序列制の企業でも、役職定年制などが導入されていればこのような現象が生じることになります。人間の本音として、いままで部下だった人が突然きょうから上司になることは、頭ではわかっても心では許していない人が多いのではないでしょうか。今回は、その辺をうまくマネジメントするコツをお話します。
このようなケースの悩みを抱える人たちのキャリアカウンセリングを、いくつか経験してきました。中高年の立場から、例えば次のような本音が吐露されました。「自分より能力の高くない部下だった人が上司になることは認められない」 また、年上の部下を持つ若い上司からは、次のような言葉が出てきました。「年上の部下が言うことを聞いてくれない。指示することをどうしても遠慮してしまう」
そこで、問題点の本質を、目的展開およびなぜなぜ分析を活用して考えてみました。その結果、次の2点がクローズアップされたのです。
①役割や能力の評価基準が不透明なこと
②マネジメントの基本を、ケーススタディで学習していないこと
ここで、普遍的な考え方を整理してみましょう。近代的組織論の提唱者C.I.バーナードによれば、組織成立の要件として次の3つをあげています。それぞれの対応例も付加してみました。
①目的達成に向かう貢献意欲(≒コミットメント):そのためには責任と権限の明確化が重要
②共通目的:経営理念、組織目標をキックオフ等で明確化、チームの課題の明確化
③コミュニケーション:組織再編、会議のあり方、報告形態・経路の明確化
確かに、責任と権限を明確化し、共通目的を明確化すれば、建前上組織は動くでしょう。しかし、どうやら、3番目の「コミュニケーション」がやっかいで、ここにコツがありそうです。
ここでは、私や信頼できる先輩から受け継がれた事例を基に、キャリアカウンセリングでアドバイスしてうまくいったコツをいくつか紹介します。図1は、そのコミュニケーションの押さえ所になります。
①年上部下に対して、長年の経験に敬意を表して、短所には目をつぶり、長所のみを伸ばして、自律的に動けるようにしてあげること。
②...
③役職が上位の者は、偉いのではなく、職制は責任を負う役割であることを宣言し、ブレーンストーミングなどで、技術や実務の上では対等であることを意識的に宣言させること。
図1 年上部下・年下上司のコミュニケーションの押さえ所