プロジェティスタ(多能工リーダー)がものづくりを変革

 最近、日本のものづくり産業で品質問題が多発しています。PC電池の発火事故、ガス湯沸かし器や石油温風ヒーターの発火事故、洗濯機の発火事故、自動車のリコール問題など多くの業種に蔓延しています。多くは、ここ10数年の間に起こっており、ものづくり企業の構造的課題と考えられます。これら問題の原因としては、技術の高度化、複雑化、技術や生産のアウトソーシング化、生産の海外展開などが複雑に絡み合っていると考えられます。 

 ここでは、技術者の仕事の専門化、細分化による全体最適な視点の欠如も大きな根本原因と判断して論を進めます。例えば、家電、機械、自動車メーカーでも、品質問題を検討するときなど、一部の部品の問題点に対して、各専門別に数十人の専門家が集まらなければ議論にもならないことがよくあります。それらを統括的に判断できる技術者も非常に少ないのが現状です。自分の専門以外は、よくわからないと言っている専門家が多いのです。まして、アウトソーシングしてしまっている技術は、なおさら厄介です。 

 イタリアでは、スペシャリストやエキスパートではない「プロジェティスタ」(図1)というキャリアモデルを推進することで、人材や企業の生き残りをかけているということを野田稔氏から聴きました。「プロジェティスタ」とは、マーケティング/企画/デザイン/開発/生産のビジネスプロセスに関与して、クリエイティブ業務を遂行するイタリア版超多能工リーダーのことです。実際には、コンサルタントが依頼企業に常駐し、プレーイングマネージャーとして、プロジェクトを推進する場合もあるようです。日本の場合も、社内プロジェティスタ(多能工リーダー)を育てる教育に目覚める必要があると考えます。自動車メーカーには、車種ごとに、主査と呼ばれるプロジェクトリーダーを任命しているようですが、イタリアのプロジェティスタのレベルまで到達していない場合が多いそうです。

 

 図1 プロジェティスタとは

  トヨタ生産方式もコンベヤーを撤去して、セル生産方式、一人屋台生産方式へと進化しています。具体的に、ソニー、NEC、三洋電機などで実践しています。単純作業から多工程を受け持つ多能工へと変化して、ムダの発見、やりがい、品質保証などの相乗効果を生んでいます。

 これと同様の論拠で、日本の技術者の仕事も多能工化していく必要があると考えます。全員とは言いませんが、せめて、プロジェクトリーダー、チームリーダーとなる技術者は、複数の職種、工程の業務を3年程度のスパンでジョブローテーションすることを必...

須のキャリア目標にしていただきたいものです。実は、筆者が大学で実施している「創成デザイン工学」という実践講座も、プロジェティスタの概念を意識しています。若いうちから、システム思考、フレームワーク思考などを体験させ、社会人になってからのクリエイティブな仕事や決定の選択肢を増やそうとしたわけです。マーケティング、製品コンセプト立案、QFD、TRIZ、デザイン、3DCAD、プレゼンテーション技法などの仕事のプロセスを体系的に経験させるようにカリキュラムを組んでいます。
◆関連解説『人的資源マネジメントとは』

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者