モノづくりは感性を磨くこと

更新日

投稿日

1. 現役で長続きする秘訣

 小林弘美さんという方は、日本アマチュア女子ゴルフで、30回以上出場されています。新聞記者がインタビューで、現役で長続きできる秘訣を聞きました。その答えは、「感性を磨くこと」だそうです。例えば、テレビで見る他のスポーツからヒントを得たり、雑巾がけなどの日常雑務の一つひとつをゴルフに結び付けたりして、問題意識をもちながら思考しているそうです。また、普段から、意識を指先に集中させて、指先の感覚を鋭くしていることでパッティングの感覚を訓練していると言っていました。
 

2. モノづくり感性とは

 
 広辞苑で、感性とは、①外界の刺激に応じて感覚・知覚を生ずる感覚器官の感受性、②感覚によって呼び起こされ、それに支配される体験内容などと定義されています。筆者は、「美しさ、生命の大切さ、悲しみ、人情など心的な価値を素早く感じとれること」を言うのだと理解しています。感性は、人間にとって、感動や生きることの源泉として、欠かせない特性なのです。いままで、それは曖昧で、工学に結びつけられていませんでした。感性をモノづくりに取り入れる感性工学が、多くの大学で教えられるようになってきました。これは、おもてなし文化をもつ日本の強みです。「○○のようなモノが欲しい」というお客様ニーズに、どう感動させられるかになります。図1 は、感性工学の「浴び心地」をテーマにしたTOTOのシャワーの事例です。デザインだけでなく、約35%節水するという機能も向上させています。
 
                              kisage1
図1.浴び心地をテーマに開発されたシャワー
 

3. モノづくり教育の事例

 
 筆者が入社した企業では、2年間の自律性を重視したモノづくり実習がありました。内容は、機械系の基礎技術を中心に、ヤスリ掛け、熱処理、キサゲ加工(図1)、板金、精密測定、旋削、フライス、研削、仕上げ、NC加工など。教えられたのは、安全教育、機械の操作方法、加工の基本だけでした。自身で気づき、そこから何かをつかまなければならないように仕向けられました。知識やスキル習得が目的ではないのです。実務を経験して分かったことですが、技術者の感性そのものを鍛えていたのです。
 

4. モノづくり感性の磨き方

 
 これまでのハードウェア商品開発企業は、機能競争か価格競争で熾烈な下克上を戦っています。これに対して、デザイン重視で消費者に感動を与えようとしている企業も増えてきました。お客様に感動を与えられるモノづくりこそ時代の要請なのだと思います。筆者が10年前から教鞭をとる大学のものづくり講座では、マーケティング、QFD(品質機能展開)、TRIZ(発明的問題解決法)などのスキルだけでなく、製品開発を実践しながら、造形的デザイン性も含め、魅力的仕様を追求します。モノゴトに好奇心を持ち、どうしてそうなるのかを考え抜き、造形することで感性を体得します。 本当の感性は、ものごとに対し好奇心をもって接し、なぜだろ...

1. 現役で長続きする秘訣

 小林弘美さんという方は、日本アマチュア女子ゴルフで、30回以上出場されています。新聞記者がインタビューで、現役で長続きできる秘訣を聞きました。その答えは、「感性を磨くこと」だそうです。例えば、テレビで見る他のスポーツからヒントを得たり、雑巾がけなどの日常雑務の一つひとつをゴルフに結び付けたりして、問題意識をもちながら思考しているそうです。また、普段から、意識を指先に集中させて、指先の感覚を鋭くしていることでパッティングの感覚を訓練していると言っていました。
 

2. モノづくり感性とは

 
 広辞苑で、感性とは、①外界の刺激に応じて感覚・知覚を生ずる感覚器官の感受性、②感覚によって呼び起こされ、それに支配される体験内容などと定義されています。筆者は、「美しさ、生命の大切さ、悲しみ、人情など心的な価値を素早く感じとれること」を言うのだと理解しています。感性は、人間にとって、感動や生きることの源泉として、欠かせない特性なのです。いままで、それは曖昧で、工学に結びつけられていませんでした。感性をモノづくりに取り入れる感性工学が、多くの大学で教えられるようになってきました。これは、おもてなし文化をもつ日本の強みです。「○○のようなモノが欲しい」というお客様ニーズに、どう感動させられるかになります。図1 は、感性工学の「浴び心地」をテーマにしたTOTOのシャワーの事例です。デザインだけでなく、約35%節水するという機能も向上させています。
 
                              kisage1
図1.浴び心地をテーマに開発されたシャワー
 

3. モノづくり教育の事例

 
 筆者が入社した企業では、2年間の自律性を重視したモノづくり実習がありました。内容は、機械系の基礎技術を中心に、ヤスリ掛け、熱処理、キサゲ加工(図1)、板金、精密測定、旋削、フライス、研削、仕上げ、NC加工など。教えられたのは、安全教育、機械の操作方法、加工の基本だけでした。自身で気づき、そこから何かをつかまなければならないように仕向けられました。知識やスキル習得が目的ではないのです。実務を経験して分かったことですが、技術者の感性そのものを鍛えていたのです。
 

4. モノづくり感性の磨き方

 
 これまでのハードウェア商品開発企業は、機能競争か価格競争で熾烈な下克上を戦っています。これに対して、デザイン重視で消費者に感動を与えようとしている企業も増えてきました。お客様に感動を与えられるモノづくりこそ時代の要請なのだと思います。筆者が10年前から教鞭をとる大学のものづくり講座では、マーケティング、QFD(品質機能展開)、TRIZ(発明的問題解決法)などのスキルだけでなく、製品開発を実践しながら、造形的デザイン性も含め、魅力的仕様を追求します。モノゴトに好奇心を持ち、どうしてそうなるのかを考え抜き、造形することで感性を体得します。 本当の感性は、ものごとに対し好奇心をもって接し、なぜだろう、どうしてこうなるのかを解明する努力から磨かれるのだと思います。人間の5感を使って挑戦してみることが早道なのです。
 
      この文書は、 2015年4月23日の日刊工業新聞掲載記事を筆者により改変したものです。
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

粕谷 茂

「感動製品=TRIZ*潜在ニーズ*想い」実現のため差別化技術、自律人財を創出。 特に神奈川県中小企業には、企業の未病改善(KIP)活用で4回無料コンサルを実施中。

「感動製品=TRIZ*潜在ニーズ*想い」実現のため差別化技術、自律人財を創出。 特に神奈川県中小企業には、企業の未病改善(KIP)活用で4回無料コンサルを...


「全般」の他のキーワード解説記事

もっと見る
解決策の実施 業務改革を実現する問題解決技法 (その9)

【業務改革を実現する問題解決技法 連載目次】 1. 全体像 2. 事業の概観把握 3. 事業責任者の問題認識 4. 全体業務フロー ...

【業務改革を実現する問題解決技法 連載目次】 1. 全体像 2. 事業の概観把握 3. 事業責任者の問題認識 4. 全体業務フロー ...


アップサイクルとは

アップサイクルの意味とその重要性 アップサイクル(Upcycling,upcycle)は、使われなくなった材料や製品を単に再利用するのではなく、新た...

アップサイクルの意味とその重要性 アップサイクル(Upcycling,upcycle)は、使われなくなった材料や製品を単に再利用するのではなく、新た...


ものづくりの仕事とは?転職を考えている方も必見!専門家が徹底解説

  この記事を読まれている読者の皆様は「ものづくりの仕事」と聞いてどんな内容を想像されるでしょうか?この記事ではものづくりの仕事として主に製造...

  この記事を読まれている読者の皆様は「ものづくりの仕事」と聞いてどんな内容を想像されるでしょうか?この記事ではものづくりの仕事として主に製造...


「全般」の活用事例

もっと見る
[エキスパート会員インタビュー記事]半導体業界の改革者、技術とビジョンの融合(友安 昌幸 氏)

    ●はじめに● 半導体業界は、革新的な技術とその応用が社会の発展を加速している分野です。この分野で輝かしいキャリアを築...

    ●はじめに● 半導体業界は、革新的な技術とその応用が社会の発展を加速している分野です。この分野で輝かしいキャリアを築...


【エキスパート会員インタビュー記事】製造業を変革する力(森内 眞氏)

  製造業界は、常に革新と変革の最前線にあります。その波をリードするのが、経験豊かで多才な技術士、森内眞氏です。彼のキャリアは、技術の力で...

  製造業界は、常に革新と変革の最前線にあります。その波をリードするのが、経験豊かで多才な技術士、森内眞氏です。彼のキャリアは、技術の力で...


【ものづくりの現場から】他産業技術を農業へ転用。研究・実証を重ねる中小企業の発想とは(ラジアント)

  ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづく...

  ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづく...