【物流人財育成 連載目次】
1.効率の良い物流を設計出来るスタッフの育成
前回のその3に続いて解説します。「物流は生まれで決まる」と言われます。その理由は、物流は設計段階でその効率のほとんどが決まってしまい、後からの大きな変更は容易ではないからです。その意味でも「生まれの良い物流」を設計できる物流技術スタッフを育成することはとても重要です。
物流技術スタッフは保管設備や運搬機器などの物流設備に関する固有技術と物流全体のフローの効率を考える知識の両方が必要となります。取り扱う製品そのものや、扱い量によって必要となる設備は大体決まってきます。しかし、全体フローの効率は物流技術者のセンスにより左右されます。従って、物流技術スタッフを育成する際には特にそのセンスを磨くことがポイントになるのです。
製品の入出庫を行う倉庫を設計することを例にとって考えてみましょう。ある物流技術スタッフは北側に入庫と出庫の両方の機能を持たせることを提案し、別のスタッフは北側から入庫し南側から出庫する提案をしたとします。この提案の違いはどこから来るのでしょうか。前者はオペレーターが入庫と出庫の作業を掛け持ちできるように、という思想を持っていましたが、後者にはそれがなかったということが考えられます。一方、前者の考え方で実施するとトラックと荷が集中することで効率の低下が推測されるので後者は別の提案をしたとも考えられます。
この例のように倉庫の設計一つをとってみても、いくつかの案が出てきて当然です。そこで物流技術スタッフを育成する際は、「複数案を作ってその得失を提案できる」ことに力点を置いて検討することが必要となってきます。要は従来の考え方や一方的な思考にとらわれずに、柔軟な発想でいくつかの提案ができる人財を育成することが大切なのです。
では、在籍しているスタッフの中から物流技術スタッフを育成してみましょう。「うちにはそんなことができるスタッフはいない」とか「どうやって教育したらいいのかわからない」という声が聞こえてきそうなので、簡単な方法をご紹介しましょう。
2.物流スタッフの育成方法
スタッフを自社の物流現場に連れて行きましょう。そこで彼らにその現場の問題点を見つけさせましょう。まずは小さな問題でも良いので1時間に10個ぐらい現場の問題点を出させましょう。問題点が抽出できたところでその理由を言わせ、自分ならどう改善するかを提案させます。まずはこの訓練を繰り返し実施します。その結果現場を見る目が養われ、徐々に自ら効率の良い物流を提案できるようになってきます。
次に「お手本となりうる」優れた物流現場を見学させましょう。目的はスタッフの頭の中にベンチマークをインプットすることです。そうすることによってスタッフは常にそのベンチマークとの比較ができるようになり、その現場の域に達するように考えるようになるはずです。
最後に柔軟な発想の訓練を行いましょう。たとえばスタッフにこんな質問をしてみます。「3分間でネクタイの使い道を5つ挙げる」と質問すると、「眼鏡ふき」とか「書類を縛る」といった面白...
い答えが返ってくるでしょう。要は柔軟な発想で物流設計を実施するためには「固定観念を捨てさせる」ことが大切だということなのです。そのために遊び感覚でこんなことをやってみるのも一つの方法です。
物流技術スタッフというと設備の能力計算や倉庫面積の計算ができるといったことばかりを重視していないでしょうか。これらはテキストから学べる基本知識です。むしろ重点を置くべきは、柔軟な発想でいろいろな考え方に基づいた提案のできるスタッフを育成していくことなのです。
この文書は、『月刊ロジスティクスIT』の記事を筆者により改変したものです。