『価値づくり』の研究開発マネジメント (その2)
2016-05-17
前回は、「研究開発の生産性を上げるには、非生産的な活動を行う」という、刺激的なテーマで議論をしましたが、それではどのような「非生産的な活動」を行ったら良いのでしょうか。今回はこのテーマを解説したいと思います。
「研究開発の生産性を上げるには、非生産的な活動を行う」こととは、研究開発テーマを取り巻く環境は不確実性が高いので、前回のメルマガの中でリアルオプションについての説明で示したように、「今わからないことは、複数の選択肢を設定し、ある程度の投資である程度の段階まで実行するだけで、現状ではその先の結論を出さず、不確実性の高い段階では、様々な選択肢(オプション)を用意して、確実性が高まった状況になったら意思決定をしようという考え方」です。つまり多様な活動を行うということです。しかし、限られた経営資源の中では、やはり「効率的」な「多様」な活動が必要です。この相矛盾するような活動を実現するには、どうしたら良いのでしょうか。
経路依存性という言葉があります。経路依存性とは、「自社の強みや仕組みが、過去の経緯や歴史的な偶然などで規定される」というものです。すなわち、全ての企業にとって、自社の知見や経験は自社特有の経路によって獲得された自社独自のもので、(競合)他社とは異なるということです。
したがって、「効率的」に「多様性」を追求するには、「経路依存」により獲得した既存の知見や経験が活用できる分野の周辺で活動することが、利に適っています。自社に知見や経験が無くても良いということであれば、そこには、競合企業が既に存在し、かつ一方で自社はゼロからスタートしなければなりません。
しかし、これは、単に強みの発揮できる分野で活動しようという、当たり前の事を言っているのとはちょっと違います。ここで重要なことが、既存の知見や経験が活用できる分野を「目いっぱい広げて」設定し、そこで活動するということです。
つまり、知見や経験が「強み」の領域に達していなくても、自社に「多少」の知見や経験があれば、それも最大限に活用していくことを意味します。
「効率的」に「多様性」を求める上で、効果的に活用できる自社の知見・経験とは何でしょうか。企業には、例えば生産や物流、財務など、自社の価値連鎖や有形・無形資産に沿って強みなどを規定する見方があります。
しかし、その中で、「長期に渡り自社に価値を生み出し、大きな広がりを持ち、それにより継続的な成長を可能にする」という意味で、企業にとって市場と技術の知見や経験はダントツに重要です。
日本の製造業の多くがこの点を明確に意識せず、技術に関して言うと、技術が大事と言いながら、「ものづくり」と言う言葉が重要視されているように、現実には生産や品質管理にばかり目を向けてきたこと、また市場に関しては、既存の取引先ばかりに目を向けてきたこと、つまり経営の視野狭窄が、今、決定的に大きな問題となっています。
っぱい広く、遠く見る
自社が持つ市場や技術に立脚しながらも、目いっぱい目を見開き、それらを広く、そして遠くを見て、魅力的な活動分野を見つけ、そしてそこでの継続的な活動を通して、更なる自社の発展の礎となる新たな知見・経験を獲得し、またそこから目いっぱい目を見開き・・・という活動をしていくことが、「効率的」に「多様性」を求める活動ということができます。
次回は、市場と技術で「目いっぱい目を見開き、広く、そして遠く」と言うことは具体的にどういうことなのかを解説したいと思います。