イノベーション成功のカギ 自動車、半導体と液晶の事例

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 筆者が海外・国内の長年に亘るものづくりの改善・革新を指導してきた経験から編み出した戦略的かつ実践的な方法を、IPI(Integrated Process Innovationインテグレイテッド・プロセス・イノベーションと名付けました。「イノベーションは “利益が上がり、社会に貢献する”ものになってはじめて成功した」といえ、そのためには「市場で勝てる“指標”がカギである」と別稿で書きました。今回は、筆者の知見をもとに簡単化した事例でその要点を紹介することにします。

 筆者が1969年アメリカに最初の一歩を踏み入れた頃、アメリカはGMやフォードの大型車が悠然と走る自動車王国でした。それがいつの間にか日本車に市場を奪われ、大苦戦を強いられるようになってしまったのはなぜでしょうか?・・・それは、かつては大型で「長距離を快適に走れる」ことが最大の魅力だった自動車が、オイルショック以降のガソリン価格の高騰で、「燃費のいい経済的な車」がより魅力的になった結果、ガソリン価格が高い日本で開発された「燃費のいい車」がシェアを伸ばすことになったからです。

 さらに、地球温暖化問題に対応して厳しい環境基準をいち早くクリアした日本車に、一層人気が集まるようになりました。アメリカの自動車会社は、この市場環境の変化に苦戦しながらも何とか対応して、「燃費のいい経済的な車」、そして「環境にやさしい車」の開発に舵を切り(新車開発の“指標”を「長距離を快適に走れる」から「燃費がよく経済的」で「環境にやさしい」に切り替えた戦略で)持ち直して、最近では年々日本車と同じように小型で燃費がよく環境にもやさしいアメリカ車が増えてきていることを訪米の度に実感しています。

半導体の事業戦略 半導体業界では市場環境の変化が激しく、勝者と敗者がめまぐるしく交代しました。インテルはメモリ(DRAM)開発会社として「処理速度」を追求していましたが、1980年代に大型コンピューター時代に入ると日本企業が「更に処理速度が高い」製品を安価に製造することで急成長し、インテルはこれに対抗できずに全面敗北し撤退しました。その後インテルは、コンピューターが大型からパーソナル化(PC化)する市場の流れをとらえて、追いかける“指標”を「処理速度」から「使いやすさ」に切り替えた戦略でマイクロプロセッサー(MPU)の開発に成功し、「インテル、入ってる」というキャッチフレーズとともにMPUで世界シェアーの8割を抑えて、他社を圧倒するに至っりました。一方、「処理速度が高く、安価」という“指標”でDRAMの世界市場を席巻した日本企業は、デジタル技術の‘技術面で後発企業が容易に追いつける’という特質と、円高が極度に進む環境の中で、相変わらず同じ“指標”を追い続けた結果、あっという間にインテルのみならず韓国企業にも追い越されてしまったのです。そして、残念ながら未だに明るい見通しが立っていない状況にあります。 
                 (鈴木博毅著の「「超」入門 失敗の本質」より)

 液晶業界でも、大変なドラマが展開されてきました。「独創的な技術の開発」を社是とするシャープは、選択と集中の戦略により、ブラウン管に対抗できる高性能でより安い液晶製造技術を開発しました。これを元に、三重県の熱心な企業誘致に合せて亀山市に、関連企業を一箇所に統合し、高度な‘すり合わせ’技術で「世界の亀山モデル」を完成させたのです。市場へは13~20インチの液晶テレビを1インチ1万円の設定で投入し、その結果、亀山モデルAQUOSの液晶テレビは急速に普及しました。この成功に自信を得たシャープは、次なる壮大なビジョンのもとに堺工場の建設を計画しました。当時のシャープは、明確なビジョンを示し、それを達成していく「ビジョナリー・カンパニー」として一世を風靡していたのです。

 しかしながらこの頃、(ある国の有力企業の戦略ともいわれますが)世界市場では「5万円テレビ」を生み出す方向に動いていました。これまで「すり合わせ」で高級化し差別化していた液晶パネルが、デジタル化により汎用製品となってモジュール化し、ある程度きれいに写る液晶テレビが「モジュール」の組合せで誰にでも安く作れるようになったのです。「すり合わせ」から「モジュール」への産業構造の変換でした。

 このような状況下でシャープは、亀山モデルの成功が技術信仰になって、良いものは売れるハズという信念で、相変わらず「高画質」を“指標”として堺工場の超大型投資を決行しました。しかしながら大型液晶テレビでは、高画質なハイエンド商品の顧客数より、ある程度きれいに写れば安い方がいいボリュームゾーン商品の顧客数の方が圧倒的に多く、しかも顧客はハイエンド商品(シャー...

 筆者が海外・国内の長年に亘るものづくりの改善・革新を指導してきた経験から編み出した戦略的かつ実践的な方法を、IPI(Integrated Process Innovationインテグレイテッド・プロセス・イノベーションと名付けました。「イノベーションは “利益が上がり、社会に貢献する”ものになってはじめて成功した」といえ、そのためには「市場で勝てる“指標”がカギである」と別稿で書きました。今回は、筆者の知見をもとに簡単化した事例でその要点を紹介することにします。

 筆者が1969年アメリカに最初の一歩を踏み入れた頃、アメリカはGMやフォードの大型車が悠然と走る自動車王国でした。それがいつの間にか日本車に市場を奪われ、大苦戦を強いられるようになってしまったのはなぜでしょうか?・・・それは、かつては大型で「長距離を快適に走れる」ことが最大の魅力だった自動車が、オイルショック以降のガソリン価格の高騰で、「燃費のいい経済的な車」がより魅力的になった結果、ガソリン価格が高い日本で開発された「燃費のいい車」がシェアを伸ばすことになったからです。

 さらに、地球温暖化問題に対応して厳しい環境基準をいち早くクリアした日本車に、一層人気が集まるようになりました。アメリカの自動車会社は、この市場環境の変化に苦戦しながらも何とか対応して、「燃費のいい経済的な車」、そして「環境にやさしい車」の開発に舵を切り(新車開発の“指標”を「長距離を快適に走れる」から「燃費がよく経済的」で「環境にやさしい」に切り替えた戦略で)持ち直して、最近では年々日本車と同じように小型で燃費がよく環境にもやさしいアメリカ車が増えてきていることを訪米の度に実感しています。

半導体の事業戦略 半導体業界では市場環境の変化が激しく、勝者と敗者がめまぐるしく交代しました。インテルはメモリ(DRAM)開発会社として「処理速度」を追求していましたが、1980年代に大型コンピューター時代に入ると日本企業が「更に処理速度が高い」製品を安価に製造することで急成長し、インテルはこれに対抗できずに全面敗北し撤退しました。その後インテルは、コンピューターが大型からパーソナル化(PC化)する市場の流れをとらえて、追いかける“指標”を「処理速度」から「使いやすさ」に切り替えた戦略でマイクロプロセッサー(MPU)の開発に成功し、「インテル、入ってる」というキャッチフレーズとともにMPUで世界シェアーの8割を抑えて、他社を圧倒するに至っりました。一方、「処理速度が高く、安価」という“指標”でDRAMの世界市場を席巻した日本企業は、デジタル技術の‘技術面で後発企業が容易に追いつける’という特質と、円高が極度に進む環境の中で、相変わらず同じ“指標”を追い続けた結果、あっという間にインテルのみならず韓国企業にも追い越されてしまったのです。そして、残念ながら未だに明るい見通しが立っていない状況にあります。 
                 (鈴木博毅著の「「超」入門 失敗の本質」より)

 液晶業界でも、大変なドラマが展開されてきました。「独創的な技術の開発」を社是とするシャープは、選択と集中の戦略により、ブラウン管に対抗できる高性能でより安い液晶製造技術を開発しました。これを元に、三重県の熱心な企業誘致に合せて亀山市に、関連企業を一箇所に統合し、高度な‘すり合わせ’技術で「世界の亀山モデル」を完成させたのです。市場へは13~20インチの液晶テレビを1インチ1万円の設定で投入し、その結果、亀山モデルAQUOSの液晶テレビは急速に普及しました。この成功に自信を得たシャープは、次なる壮大なビジョンのもとに堺工場の建設を計画しました。当時のシャープは、明確なビジョンを示し、それを達成していく「ビジョナリー・カンパニー」として一世を風靡していたのです。

 しかしながらこの頃、(ある国の有力企業の戦略ともいわれますが)世界市場では「5万円テレビ」を生み出す方向に動いていました。これまで「すり合わせ」で高級化し差別化していた液晶パネルが、デジタル化により汎用製品となってモジュール化し、ある程度きれいに写る液晶テレビが「モジュール」の組合せで誰にでも安く作れるようになったのです。「すり合わせ」から「モジュール」への産業構造の変換でした。

 このような状況下でシャープは、亀山モデルの成功が技術信仰になって、良いものは売れるハズという信念で、相変わらず「高画質」を“指標”として堺工場の超大型投資を決行しました。しかしながら大型液晶テレビでは、高画質なハイエンド商品の顧客数より、ある程度きれいに写れば安い方がいいボリュームゾーン商品の顧客数の方が圧倒的に多く、しかも顧客はハイエンド商品(シャープは32インチ12万円)とボリュームゾーン商品(5万円)の値差から容易に「ハイエンド」から「ボリュームゾーン」に移っていったのです。

 その結果、残念ながらシャープは商品在庫が山をなして大幅赤字に転落するという惨めな結果になってしまいました。世界の市場では市場の欲する“指標”が変ってきている兆候が見られたにも拘らず、「亀山モデル」の大成功がアダとなって同じ“指標”を追い続けた結果だといえるでしょう。 
                 (中田行彦著「シャープ‘液晶敗戦’の教訓」から)

 かつて日本企業は、イノベーションを成功させ世界に冠たる「ものづくり」王国になりました。しかしながら最近は、技術革新では成功していながら、“利益が上がり、社会に貢献する”というイノベーションでは大苦戦が続いています。

 筆者は、イノベーション成功のための方法として「マクロの目」で見ることを提唱していますが、今回は事例を通して、「勝てる“指標”」として要点を簡単に紹介しました。IPIでは、この指標をより明確にするために“目的指標”と呼んで、「マクロの目」の視点を効果的に活用することを提案しています。

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この記事の著者

鈴木 甫

「生き残る」のは “強いもの” でも “賢いもの”でもなく「変化に対応できるもの」!「ポストコロナ『DX』の激変する環境に対応する企業支援」に真剣に取り組んでいます!            E-mail: h.suzuki@dr-practice.com

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