中小ものづくり企業が自前のヒット商品を開発し、販売まで行うのは容易なことではありません。しかし、だからと言って下請け仕事を続けていて、利益を上げることは難しくなっています。政府による成長戦略の号令のもとで各種の補助金も多く繰り出されているこの時に、新商品開発に乗り出す企業も多いのですが、開発のプロセスでの成功のポイントをしっかりつかんで進めないと、中小企業は販売に至るどころか、試作が思うようにいかず死の谷を迎えてしまいかねません。ここでは新商品・新事業開発と販売の成功の勘どころについて、ある町工場の指導事例をご報告します。
1.開発成功の可否は事業化プロセスの初めにあり
ところがM製作所は、それを記念レリーフや各種の銘板など、デザイン製品の加工機に変えてしまいました。ちょっと思いつかない発想の転換でした。
社長は海外のコイン収集が趣味で、気に入ったコインの珍しいものなどを自社で作ってみたいと思っていました。また、ゴルフ仲間との会話の中でも、ホールインワンの記念にそろそろトロフィーに代るものが欲しいよねとも話していましたが、瓢箪から駒で優勝記念レリーフの製作依頼を受けることになりました。お金になったのです。
これはビジネスとしてもヒットするのではないか。もっともっと調査してアイデアを創出し、開発成功へのロジックをしっかりと固めて行けば、これは新規事業として独自の市場が開けるかもしれない。そして思い出に残すこと、記念に残すことは、高齢化が進むこれからの大きな市場になるのではないかと思いはじめました。
親しい仲間内から注文はもらったものの、本当にビジネスになるのだろうか?難しい調査をするよりもまずは知人たちに聞いてみることとし、さっそく息子との二人三脚で、人は記念の品や思い出に、何をしたくてお金を払うのか、ゴルフ場、ホテルから学校の恩師にまで必死に聞きまわり進めました。それが良かったのでしょう。社長の人脈から注文の輪が広がり、次に息子のWeb戦略や役所の若手との景観銘板企画の輪も広がっていったのです。
2.事業化を企画する手順と検証
着想からこうなるという仮説を立て、検証するという作業をどんどんやってみることは、新規事業の鉄則ですが、社長はまさに肝心のこの初動が素早かったわけです。
事業化する初期の段階では、アクションを手早くしなければなりません。すなわち、気付きを大切にし、そこから自社の技術の強みが生きるかどうか、技術から商品にしていくプロセスが...
新事業開発には、次のように大きく3つのステップがあります。
(1)コンセプトを固める段階
(2)試作やビジネスモデルを創る段階
(3)量産し市場投入に入る段階
それぞれの着手に大切なポイントはありますが、何といっても最初のコンセプト段階ですべてのプロジェクト全体を見渡して、事業発想、仮説検証、そして内部資源の使い方、不足する資源をどう補うかについて、うまくプロデュースする立場に立つことが肝要なのです。