感性工学を構成する要素 :新環境経営 (その37)

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 今回は感性工学を構成する要素の「脳が作りだす感性工学の世界」と「感性工学が拓く情報技術」についてです。
 
 「感性工学」で人々の物の考え方を変え、しかも技術の立場から変えていこうとの考えがあります。政治システムや教育システムから変えていくよりも、技術の力の方が現代社会に適しているという考えです。技術の立場から人々の物の考え方を変えていくということは、IT技術の進展や、脳科学の進歩の上に「感性工学」を位置付けることになり、情報技術や脳科学の要素も取り込むことになります。
 

1. 感性工学を構成する要素としての「脳が作りだす感性工学の世界」

 ―以下引用―
 感性は、複雑で多様な環境情報の総体的受容と直感的な運動応答の基盤をなす高次脳機能です。生体にあっては、他の脳機能と同様、構造的・機能的単位としてのニューロンとそれが織りなす精巧なニューラルネットワークをその基盤とします。我々はこれまで感性について深く考えることをしてこなかったでしょう。その原因の一つは、自然科学至上主義がもたらした知性中心の社会機構構築の推進と、急激な工業立国への道を歩んできた戦後の科学技術の発展にあります。この潮流は我々個人のこころの奥底まで染み渡り、国民の多くがそれを精神的支柱として奮闘してきた歴史があります。しかし知性中心の考え方がもたらした今の社会を顧みたとき、知性とは対極にあり我々が置き去りにしてきた高次脳機能としての感性に行き当たります。
 
 我が国では、脳科学を医学に限らないで研究していこうという方針が立てられ、理学、工学をも巻き込んでの脳科学の展開が進められてきました。「脳を知る」「脳を創る」「脳を守る」「脳を育む」の観点で、脳科学の研究が進み、脳と同等の機能を持つロボットを実現することや、認知症の予防や治療薬の開発に繋がってきています。
 
 ここで、「脳を知る」を「感性を知る」に置き換えると、「脳=感性を知る」ために様々な測定手法が試みられてきており、測定方法は官能検査、心拍変動、脳波、fMRIなどです。現在までに多くの治験が得られつつありますが、どのように測るかは感性をどうとらえるかであり、まさに感性を知ることです。「脳=感性を創る」「脳=感性を守る」「脳=感性を育む」についても、研究が進められています。テレビ等でも脳科学の研究成果が報じられており、脳を知ることは、感性を知る事でもある事は良く理解できます。感性工学においては、脳の働きを知ることで、人が精神的に求めているものを見定めて、それを実現することで、経営を持続可能なものに繋げていくことになります。
 

2. 感性工学を構成する要素としての「情報技術」

 ―以下引用―
 ブロードバンド通信網やモバイル通信網は、社会的な情報基盤として完全に定着し、今また、ユビキタス通信網が急速に立ち上がりつつあり、いつでも、誰でも、どこからでも、世界中の人と(あるいは世界中の情報機器・情報化されたモノと)、直接・間接に、相互作用することが可能となりつつあります。このような背景の下で、社会や文化の壁、個人と個人の価値観の壁を超えて、コミュニケーションを成り立たせるための情報基盤の確立が必須です。これには感性情報処理技術が必要で、感性情報処理枝術は、今後のコミュニケーションを支えるだけでなく、感性工学の目指す新たな産業形態である対話型産業を創りだす基礎技術としても位置付けられます。
 
 近年の情報通信網の飛躍的な発展により、コミュニケーションにおける距離、時間、情報の量的な側面におけるギャッブが克服されるようになりました。コミュニケーションとは、いわゆる信号の伝送ではなく、人間と人間、人間と機械がメッセージを伝え合って相互作用することを意味するものです。人工知能技術の進歩にともなって、情報の意味的な側面が注目されるようになりました。大量のメッセージを伝達しても、そのメッセージ集合自身に理論的な矛盾があります。あるいは、前提となる知識集合との間に矛盾があれば、そのメッセージは有効ではありません。又、受け手の側が前提となる知識集合を十分に持たなければ、メッセージの待つ意味を適切に理解することはできません。
 
 知識表現の技術、知識を体系化する技術、知識処理技術により、情報の送り手と受け手の間で知識の内容や量的な違い、メッセージ理解での意味的な違いを克服することが可能となってきています。又、情報の価値的な側面では、多様な背景を...
CSR
 今回は感性工学を構成する要素の「脳が作りだす感性工学の世界」と「感性工学が拓く情報技術」についてです。
 
 「感性工学」で人々の物の考え方を変え、しかも技術の立場から変えていこうとの考えがあります。政治システムや教育システムから変えていくよりも、技術の力の方が現代社会に適しているという考えです。技術の立場から人々の物の考え方を変えていくということは、IT技術の進展や、脳科学の進歩の上に「感性工学」を位置付けることになり、情報技術や脳科学の要素も取り込むことになります。
 

1. 感性工学を構成する要素としての「脳が作りだす感性工学の世界」

 ―以下引用―
 感性は、複雑で多様な環境情報の総体的受容と直感的な運動応答の基盤をなす高次脳機能です。生体にあっては、他の脳機能と同様、構造的・機能的単位としてのニューロンとそれが織りなす精巧なニューラルネットワークをその基盤とします。我々はこれまで感性について深く考えることをしてこなかったでしょう。その原因の一つは、自然科学至上主義がもたらした知性中心の社会機構構築の推進と、急激な工業立国への道を歩んできた戦後の科学技術の発展にあります。この潮流は我々個人のこころの奥底まで染み渡り、国民の多くがそれを精神的支柱として奮闘してきた歴史があります。しかし知性中心の考え方がもたらした今の社会を顧みたとき、知性とは対極にあり我々が置き去りにしてきた高次脳機能としての感性に行き当たります。
 
 我が国では、脳科学を医学に限らないで研究していこうという方針が立てられ、理学、工学をも巻き込んでの脳科学の展開が進められてきました。「脳を知る」「脳を創る」「脳を守る」「脳を育む」の観点で、脳科学の研究が進み、脳と同等の機能を持つロボットを実現することや、認知症の予防や治療薬の開発に繋がってきています。
 
 ここで、「脳を知る」を「感性を知る」に置き換えると、「脳=感性を知る」ために様々な測定手法が試みられてきており、測定方法は官能検査、心拍変動、脳波、fMRIなどです。現在までに多くの治験が得られつつありますが、どのように測るかは感性をどうとらえるかであり、まさに感性を知ることです。「脳=感性を創る」「脳=感性を守る」「脳=感性を育む」についても、研究が進められています。テレビ等でも脳科学の研究成果が報じられており、脳を知ることは、感性を知る事でもある事は良く理解できます。感性工学においては、脳の働きを知ることで、人が精神的に求めているものを見定めて、それを実現することで、経営を持続可能なものに繋げていくことになります。
 

2. 感性工学を構成する要素としての「情報技術」

 ―以下引用―
 ブロードバンド通信網やモバイル通信網は、社会的な情報基盤として完全に定着し、今また、ユビキタス通信網が急速に立ち上がりつつあり、いつでも、誰でも、どこからでも、世界中の人と(あるいは世界中の情報機器・情報化されたモノと)、直接・間接に、相互作用することが可能となりつつあります。このような背景の下で、社会や文化の壁、個人と個人の価値観の壁を超えて、コミュニケーションを成り立たせるための情報基盤の確立が必須です。これには感性情報処理技術が必要で、感性情報処理枝術は、今後のコミュニケーションを支えるだけでなく、感性工学の目指す新たな産業形態である対話型産業を創りだす基礎技術としても位置付けられます。
 
 近年の情報通信網の飛躍的な発展により、コミュニケーションにおける距離、時間、情報の量的な側面におけるギャッブが克服されるようになりました。コミュニケーションとは、いわゆる信号の伝送ではなく、人間と人間、人間と機械がメッセージを伝え合って相互作用することを意味するものです。人工知能技術の進歩にともなって、情報の意味的な側面が注目されるようになりました。大量のメッセージを伝達しても、そのメッセージ集合自身に理論的な矛盾があります。あるいは、前提となる知識集合との間に矛盾があれば、そのメッセージは有効ではありません。又、受け手の側が前提となる知識集合を十分に持たなければ、メッセージの待つ意味を適切に理解することはできません。
 
 知識表現の技術、知識を体系化する技術、知識処理技術により、情報の送り手と受け手の間で知識の内容や量的な違い、メッセージ理解での意味的な違いを克服することが可能となってきています。又、情報の価値的な側面では、多様な背景を持つ人々が情報通信機器を身近に利用するようになり、コミュニケーションの相手や形態も多様化が進んできました。これにともない、メッセージ伝達効果や情報の価値的な側面が注目されるようになりました。
 
 大量のメッセージを、高品質でかつ意味的に正確に伝達しても、それが受け手にどのような効果を生じさせるかは、受け手の価値観に依存します。また、送り手と受け手の間で、価値観が大きく異なれば、送り手にとっては価値ある情報も受け手にとっては価値のないものともなりうるでしょう。このようなコミュニケーションギャップの克服のためには、送り手と受け手それぞれの価値観のモデル化技術、相互の価値観にマッチしたメッセージの表出・理解技術などが必要となります。
 
 これが、コミュニケーションの課題において感性工学・感性情報処理が果たすべき中心的な役割といえます。次回は、感性工学を構成する要素の「感性教育」「感性社会学」について紹介します。
 
 【出典】
・日本学術会議、専門委員会、平成17年8月30日「現代社会における感性工学の役割」報告書
 

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この記事の著者

石原 和憲

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