100年に一度の変革に挑むSUBARUとDX

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左からキャディ株式会社八木氏、株式会社SUBARU河井氏、キャディ社最高技術責任者CTOの小橋氏

このほど、品川インターシティホテル&カンファレンスで、モノづくり産業における新たな視点や解決策を探求し、10年後の変革や製造業DXについて考えるビジネスカンファレンス「モノづくり未来会議」が開かれた。第2回は株式会社SUBARUコストイノベーション推進部 執行役員・CCIO(最高コスト改革責任者)の河合功介氏とキャディ株式会社共同創業者で、最高技術責任者CTOの小橋昭文氏が「非連続でハイスピードな変革への挑戦を語る」をテーマに、100年に一度の変革期にあるといわれる自動車業界における取り組みなどについて対談した。進行役は同社ドロワー事業本部エンタープライズ事業部、カスタマーサクセス本部本部長の八木雅広氏。

株式会社SUBARUコストイノベーション推進部 執行役員・CCIO 河合功介氏
キャディ株式会社 最高技術責任者CTO 小橋昭文氏

【目次】

     

    新興企業の参入から経営環境も変化

    ー 河合氏
    当社は航空機メーカーとして始まり、現在は自動車や航空宇宙関連など輸送事業を中心に展開している。今、自動車業界はカーボンニュートラルと電動化に向けた大変革期を迎えているが、昨年8月、当社はバッテリーEVに舵を切るとともに「モノづくり革新」と「価値づくり」で世界最先端を狙うといった新体制方針を発表した。私は、元々は材料のエンジニアだったが、今は最高コスト改革責任者としてモノづくり革新を実現してコスト構造を変える取り組みを進めている。

    ー 小橋氏
    当社の創業は2017年。「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」をミッションに事業を進め、現在、世界4カ国に展開している。事業は「製造業AIデータプラットフォームCADDi」という、製造業のエンジニアリングチェーン・サプライチェーン上のあらゆるデータを解析・関連付け、インサイトを抽出することで、人間の生産活動をより高度化するサービスを提供している。私は元々、航空宇宙や電気製品の設計といった製造業に従事していたが現在は、IT技術を中心に統括している。

    ー 八木氏
    企業組織変革の必要性について、両社の状況を含め、お二人からその理由や背景をうかがいたい。

    ー 河合氏
    ご存知の通り自動車業界はカーボンニュートラルに向けた取り組みをはじめ、最近ではテスラやBYDといった新興企業の台頭などから経営環境が大きく変化してきており、変化に対応できなければ生き残りは難しい。今まで、自動車業界は他業界と比べて比較的変化が小さい業界であったと思うが、ガソリンエンジンからバッテリーEVへの移行によって、参入障壁が低くなり大きな変革が必要となってきた。

    ー 八木氏
    グローバルな競争環境や変化の激しさから、変革の必要性が生まれたということだが、変化を進めるに当たっての難しさとは。

    ー 河合氏
    変化といっても実際には感じにくい。長期間でみると指数関数的(飛躍的)に変化していることが分かるが、短期間だと直線的な比例のように感じてしまう。このために危機感が醸成されにくい。私が社内で話した例として、エコシステムの話がある。これは、自然界では変化に対応して進化してきた生物だけが生き残っており、ビ...

    左からキャディ株式会社八木氏、株式会社SUBARU河井氏、キャディ社最高技術責任者CTOの小橋氏

    このほど、品川インターシティホテル&カンファレンスで、モノづくり産業における新たな視点や解決策を探求し、10年後の変革や製造業DXについて考えるビジネスカンファレンス「モノづくり未来会議」が開かれた。第2回は株式会社SUBARUコストイノベーション推進部 執行役員・CCIO(最高コスト改革責任者)の河合功介氏とキャディ株式会社共同創業者で、最高技術責任者CTOの小橋昭文氏が「非連続でハイスピードな変革への挑戦を語る」をテーマに、100年に一度の変革期にあるといわれる自動車業界における取り組みなどについて対談した。進行役は同社ドロワー事業本部エンタープライズ事業部、カスタマーサクセス本部本部長の八木雅広氏。

    株式会社SUBARUコストイノベーション推進部 執行役員・CCIO 河合功介氏
    キャディ株式会社 最高技術責任者CTO 小橋昭文氏

    【目次】

       

      新興企業の参入から経営環境も変化

      ー 河合氏
      当社は航空機メーカーとして始まり、現在は自動車や航空宇宙関連など輸送事業を中心に展開している。今、自動車業界はカーボンニュートラルと電動化に向けた大変革期を迎えているが、昨年8月、当社はバッテリーEVに舵を切るとともに「モノづくり革新」と「価値づくり」で世界最先端を狙うといった新体制方針を発表した。私は、元々は材料のエンジニアだったが、今は最高コスト改革責任者としてモノづくり革新を実現してコスト構造を変える取り組みを進めている。

      ー 小橋氏
      当社の創業は2017年。「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」をミッションに事業を進め、現在、世界4カ国に展開している。事業は「製造業AIデータプラットフォームCADDi」という、製造業のエンジニアリングチェーン・サプライチェーン上のあらゆるデータを解析・関連付け、インサイトを抽出することで、人間の生産活動をより高度化するサービスを提供している。私は元々、航空宇宙や電気製品の設計といった製造業に従事していたが現在は、IT技術を中心に統括している。

      ー 八木氏
      企業組織変革の必要性について、両社の状況を含め、お二人からその理由や背景をうかがいたい。

      ー 河合氏
      ご存知の通り自動車業界はカーボンニュートラルに向けた取り組みをはじめ、最近ではテスラやBYDといった新興企業の台頭などから経営環境が大きく変化してきており、変化に対応できなければ生き残りは難しい。今まで、自動車業界は他業界と比べて比較的変化が小さい業界であったと思うが、ガソリンエンジンからバッテリーEVへの移行によって、参入障壁が低くなり大きな変革が必要となってきた。

      ー 八木氏
      グローバルな競争環境や変化の激しさから、変革の必要性が生まれたということだが、変化を進めるに当たっての難しさとは。

      ー 河合氏
      変化といっても実際には感じにくい。長期間でみると指数関数的(飛躍的)に変化していることが分かるが、短期間だと直線的な比例のように感じてしまう。このために危機感が醸成されにくい。私が社内で話した例として、エコシステムの話がある。これは、自然界では変化に対応して進化してきた生物だけが生き残っており、ビジネス界のエコシステムに置き換えると企業や組織が自然界における生物にあたるというもの。普段の仕事においては急激な変化を感じにくい一方、その変化を敏感に感じ取って意思を持って変えていかなければ生き残ることはできない。

      ー 小橋氏
      ここ5年ほどだが、身近なところで変化の激しさを感じている。たとえば、コロナウイルスのパンデミックによるサプライチェーンの課題が浮き彫りとなったほか、鉄価格の急変など、我々が日々、社内でコントロールできない状況が多かった。また、AI技術の進化が飛躍的な動きをみせる中、どう向き合っていくかが求められている。自動車業界におけるCASEを例に挙げると、ITや電子テクノロジーは非常にレバレッジが掛かるため、変化も激しい。少し変えただけでも激しく変わるため、事業の進め方や産業としての在り方を考えた場合、いかに変化を吸収し、それに応じて適切な対策を講じるかが強く求められていると考えている。我々が日々コントロールできないところを含め、事業を経済的に回していく難しさというものを感じている。

      認知不可下げ、それぞれの能力が発揮できる組織づくりを

      ー 八木氏
      変革を進める中、いくつかのハードルがあると考えるが、その中でも部分最適・局所最適など、組織変革を進めるうえでどのように向き合っているか。

      ー 河合氏
      部分最適になってしまう原因は、実務メンバーがそれぞれの守備範囲において自分が良いと思っていること、良かれと感じていることに取り組むためだと考えている。では、なぜ全体最適で考えられないのかと考えてみると、全体像が見えていないということが分かった。例えば、企画・開発部門のメンバーで言うと、自分たちが企画・開発した製品がどのように製造されてお客様に届けられるのか、バリューチェーン全体を把握できていないことが少なくない。つまり、バリューチェーンの一部である自分の守備範囲しか見えていないため、部分最適になりがちだと考えている。そこで、私は実務メンバーがバリューチェーンの全体を理解することができるだけの情報をしっかりと提供し、考える機会を与えなければならないと思っている。私自身、コストイノベーションに取り組んだ結果、バリューチェーン全体を理解して取り組むことの大切さに改めて気付くことができたからだ。

      100年に一度の変革期にあるといわれる自動車業界における取り組みなどについて話す河合氏

      写真説明】100年に一度の変革期にあるといわれる自動車業界における取り組みなどについて話す河合氏

      ー 八木氏
      今、話をうかがい、難しいと感じたことは、マネージャー層がすべてのことに全体像を持ってしまうと、それは経営者と同じになってしまう。では、その時にどのようなカットで全体像をみせていくのかが、経営者の腕の見せ所と考えるが、行動に移すポイントについてうかがいたい。

      ー 河合氏
      事例を挙げると、当社ではある外装部品は700種弱あるが、実はこの中で売れ筋になっている品番は1~2割程度で、その他の製品は仕掛在庫として保管されている。しかし、開発や営業のメンバーの多くがこの事実を知らないため、例として示したところ、これまで顧客のためと考えてやってきたことが、必ずしも顧客のためになっていないことがあることに気付いた。

      ー 八木氏
      様々な顧客と接する中、テクノロジーの観点から部分最適・局所最適について、小橋氏にもうかがいたい。

      ー 小橋氏
      航空宇宙のようなとても長いバリューチェーンやサプライチェーンを保有する企業を経験し、今はソフトウエアに携わっているが、モノづくりの難しさであり、価値の源泉でもあるのは、多様な技術の組み合わせにあるとみている。誰にでも真似できるものでなければ、様々な専門性や観点、組織として臨む姿勢が経営の源泉となっていると思う。ただ、個別最適を可能にすることが組織づくりであるならば、ある程度認知負荷を下げないと、人はみな経営者になることができないため、それぞれの能力を発揮して事業成果につなげることで、組織づくり(部分最適)が実現できると考えている。認知負荷を下げつつ、データを使い、周りの状況を見える化することが次の時代に必要だ。

      写真説明】ITや電子テクノロジーの観点から、事業の進め方や産業としての在り方について話す小橋氏

      DXを作る側と使う側、互いのコンセンサスが必要 

      ー 八木氏
      DXと言われる昨今、効果や成果を求めるうえで、デジタルやデータの役割について河合さんにうかがいたい。

      ー 河合氏
      DXを導入する目的は、働き方やプロセスを変えること。DX、デジタルやデータは、働き方やプロセスを変える手段。このため、先ずはありたい働き方やプロセスを描き、それを実現するDXとは何かを考える。この順番で進めないと成功しないのではないかと考えている。したがって、手始めは生産性の向上を念頭に置いてDXの導入計画を立ててほしいと考えている。

      ー 八木氏
      成果が見込める見通しがついた場合、進めていくうえで難しいと感じるポイントがあれば。

      ー 河合氏
      注意点として、DXのシステムを作る人と使う人は違うということ。実は、使う側は必ずしも新しいシステムを望んでいない。今までのやり方が馴染んでいるため、新たなシステムを使うことに対して付帯業務が増えると捉えて抵抗を感じることが少なくない。このため、両者のコンセンサスがないままシステムを作ると失敗につながり、この失敗例が、次の計画のハードルとなってしまう。図面データ活用クラウド『CADDi DRAWER(キャディドロワー)』の導入に当たっては、試験的に導入して「現場から使いたい、仕事が楽になる」と評判を得て本導入に移行した。このような体験からハードルを下げることができると感じている。

      ー 八木氏
      デジタルデータが担う役割のほか、セキュリティ面について、小橋さんからうかがいたい。

      ー 小橋氏
      セキュリティすべてがリスクではあるが、ITよりはるか昔に製造業はISO認証取得などで品質を極めてきた実績もあるので、ITにおいても品質保証と同じく、リスク回避の意思決定とPDCAを回しながら構築してくことが重要と考えている。

      過去の成功体験は変革の足かせとなる

      ー 八木氏
      最後に、変革に必要なポイントをうかがいたい。

      ー 河合氏
      ポイントは3つ。まず、一つ目はバイアス(過去の体験)を取り除くこと。特に成功体験は新たなチェレンジの際、足かせとなるため、取り除かなければならない。例えば現在、バッテリーEV開発チームは、設計や開発、製造、企画など部署や考え方の異なるメンバーを一つのチームとしてまとめているほか、パートナーとなる取引先にも企画段階から入ってもらい、様々な視点から見てもらおうと、多様性を取り入れた取り組みを始めた。2つ目は、非連続的な成長や変革を進める際、必ずチャレンジが必要となるが、失敗をいかに容認できるかが重要と考えている。現在、世界最先端を目指す取り組みにチャレンジしているチームがあり、まだ表立った成果は出ていないが、成功させるために取り組んだ過程で得た学びについて評価するようにしている。最後に、新たなチャレンジを担当するチームには従来の仕事をさせないことが必要だ。非連続な変革を進めるということは、ある意味、過去を否定しなければならないが、従来の仕事を肯定しながら変革に取り組むのは不可能と考える。このため、バッテリーEV開発チームは、ガソリン車開発チームから完全に切り離し、開発の前提条件の是非を議論するなど、従来を否定する形で仕事を進めてもらっている。

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