◆ この事例連載のコンセプト
中国に工場進出したものの工場運営がうまくいっていない企業は多くあります。また、仕入先中国工場の品質問題などが改善されずに困っている日本企業も同じように多くあります。この連載では、中国工場の運営管理で押えるべきポイントをお伝えします。
中国工場の運営についてあるべき姿を部門ごとに考えていきますが「あるべき論」をただ書くのではなく、中国工場で実際に起きた問題を事例として取り上げ、その問題を通してどのように対処していくのが良いのか、どのように工場運営をするのが良いのかを考えていただければと願っています。
【目次】(今後の連載を含みます)
- 中国工場の良し悪しはトップの方針・考え方で決まる
- 赴任者のための現地(中国人)社員のマネジメント1
-赴任直後にすべきこと- - 赴任者のための現地(中国人)社員のマネジメント2
-労務管理・リスクマネジメント- - 品質管理 -中国工場の品質が良くないのはなぜか1-
生産の3要素を切り口として考察する - 品質管理 -中国工場の品質が良くないのはなぜか2-
生産の3要素を切り口として考察する - 品質管理 -中国工場の品質が良くないのはなぜか3-
生産の3要素を切り口として考察する - 中国工場の品質管理の進め方1
-品質管理3つの歯車- - 中国工場の品質管理の進め方2
-不良品を流出させない仕組みを作る- - 生産管理 -生産管理に関する中国工場の問題事例-
- 購買業務について回る不正行為 -中国工場の不正行為事例-
- 購買業務 -外注先の品質改善指導-
- 設備管理 -中国人が苦手な予防保全-
- 中国工場における従業員の定着及び従業員教育の進め方
1、中国工場の良し悪しはトップの方針・考え方で決まる(その1)
中国の工場運営において、そのトップの方針や考え方は非常に重要です。
日本の中小企業をみてみると、社長の方針や考え方がそのまま会社の方針や考え方となっています。実は中国の工場というのは、日本の中小企業の形態と類似している点が非常に多く、工場の規模に関わらず中小企業そのものといっても過言ではありません。
中国工場の方針や考え方は、トップのそれと一致するのです。中国工場でトップというのは、総経理や工場長といわれる人たちが該当します。中国工場の総経理が品質重視、品質第一の姿勢を打ち出せば、従業員もそれに沿った行動をするようになってきますが、別の方針、例えば利益を重視したとすれば、従業員もそれに沿った行動をします。
特にどちらかといえばボトムアップに馴染んでいる日本人とは違って、中国人はトップダウンに馴染んでいますからトップの言うことは、そのまま受け入れることになります。
どこの会社や工場にも、その会社や工場が持っている文化とか風習、雰囲気というものが存在しています。実は、中国工場運営においては、その工場の持っている文化や雰囲気が大切になります。それは、後から入った従業員は、その会社や工場の持っている文化や雰囲気に倣ってくるからです。
例えば、ある工場では規律を守ることに対して全体的に緩い雰囲気があったとします。朝、始業のベルが鳴ったにも関わらず従業員がまだ更衣室にいたり通路を歩いていたりしています。入社した従業員は、しっかり仕事をしようと思っていますが、既存の従業員がこうした行動をしていると、この工場はそれでいいんだと思い段々と自分もそうした行動、つまり始業のベルが鳴ってもすぐに作業を開始しないとか、通路を歩いているような行動を取るようになります。
逆に、別の工場では始業のベルが鳴ると作業者全員が作業を開始している。このような雰囲気を持っていれば、後から入った従業員もこうした規律を守ることが当たり前と考え、それに倣(なら)うようになります。
こうした会社や工場が持つ文化や雰囲気というのは、トップ(総経理、工場長)の考え方や想いが反映されると考えてください。トップの思いを従業員に浸透させるのは、最初の刷り込みが大事です。ですから、工場を立ち上げた時に、トップがどのような方針を打ち出し、どのような考えを持っているのかなど、その思いを伝えることがとても大事になります。
逆の言い方をすると、一度出来上がってしまった文化や雰囲気を途中で変えるのは非常に難しいと言わざるを得ません。それでも変えなければならない場合、トップが交代した時がひとつのチャンスでしょう。ただし、繰り返しますが簡単なことではありません。トップの本気度、覚悟、そしてパワーが必要となります。
次回に続きます。