【SDGs取組み事例】知識ゼロから出発。計400トンのCO2削減に成功 来ハトメ工業株式会社

2010(平成22)年にエコアクション21認証を取得し、ゼロの状態から脱炭素化に向けた取り組みを始めた来ハトメ工業株式会社(埼玉県八潮市)。電力使用量の見える化から始まり、機器の見直しやグリーンエネルギーの導入など、全社一丸となった活動を進めた結果、計400トン以上のCO2削減を達成し、2022年の「脱炭素チャレンジカップ」では見事グランプリ(環境大臣賞)を受賞した同社の取り組みを紹介します。

【目次】

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    1. SDGsを取り入れ、中小企業のパイオニアに

    来ハトメ工業株式会社(代表取締役社長・来 昌伸氏)は戦後まもなくの1946(昭和21年)に「来商店」として創業。当初はハトメや時計バンドなどの仕入れを営んでいましたが現在は、アルミ電解コンデンサ用アルミケースの生産を主力に事業を進め、同アルミケースは売上の98%を占めています。社名に使用されている「ハトメ」は当時の名残です。

    写真説明】同社主力製品のアルミ電解コンデンサ用ケース(同社提供)

    写真説明】リベット㊧と香水用のボタン(同社提供)

    同社がSDGs(持続可能な開発目標)という言葉に出合ったのは2017(平成29)年。元々、2010(同22)年にエコアクション21[1]の認証を取得し「5年で環境コミュニケーション大賞[2]受賞」の目標を掲げ、取り組みを進めていましたが、2017(同29)年2月に「第20回環境コミュニケーション大賞環境活動レポート部門」において、環境大臣賞を受賞した際、審査委員講評の席上で初めてSDGsの存在を知りました。その時「大企業が活動し、注目を集める施策であれば、われわれが取り組めば、中小企業のパイオニアとなるチャンスになるかもしれない」と一念発起。SDGs活動が始まりました。
    当時はインターネット検索でも、中小企業でSDGs活動を進めている企業は皆無だったといいます。また、いざ始めてみるとなかなか難しい面もあり、実施開始は8月まで先送りとなりましたが同月、転機となる出来事が起こります。環境省から環境コミュニケーション大賞の冊子を作成するに当たり、取材依頼があり、今後の目標について聞かれた際「SDGsに取り組みたい」と答えたところ、同省から中小企業を対象としたモデル企業としての参加要請があり同年10月、本格的に同社の活動が始まりました。

    写真説明】「環境 人づくり企業大賞2014」大賞(環境大臣賞)受賞時㊧と「脱炭素チャレンジカップ」(環境大臣賞)グランプリ受賞など数々の賞を受賞(同社提供)

     

    2.貢献可能な目標を従業員個々が設定

    「いずれ、取り組まなければならないのだから、今のうちに始めてしまおう」とスタートを切ったSDGs活動ですが企業目標を立てる前に、まずは従業員への周知から始めました。しかし、いざ英文の翻訳を読んでも独特な言い回しなどが多い内容だったため、誰が見ても簡単に理解でき、取り組みが進められるように一度、内容を精査し、落とし込む作業から始めたそうです。
    作業を進めるうち「SDGsは環境と経済、社会の大枠に分けられることに気付いた」と話す同社環境管理責任者の石原隆雅さん。同月に開いたキックオフミーティングでは、SDGs活動の具体的内容には一切触れず、まずは従業員に対し、3枠の中から個人で貢献可能な目標を一つ以上立てて実行し、期末の3月に自己採点を付け提出するよう呼び掛けたといいます。当初はどのような回答が返ってくるか予想もつかなかったそうですが、半年後に提出された回答とSDGs目標の内容を対比すると、そのほとんどが目標と合致し、真剣に取り組んでいた姿勢も伺えたことから、新年度以降はこれらタスクを繰り返し、現在も続けているということです。

    写真説明】SDGs活動スタート時から続けられている社内教育(同社提供)

     

    3.デマンドに注目し、年間90トンのCO2削減に成功

    2010(平成22)年9月にエコアクション21の認証を取得して以降、CO2排出量の削減に取り組んできましたが、当初は工場の節電くらいしか思い浮かばなかったそうです。しかし、翌年の東日本大震災で計画停電などエネルギー供給が制約されたほか、電力需要地から離れた場所に設けられた大規模な発電設備「集中型エネルギーシステム」の脆弱(ぜいじゃく)性が明らかとなり、デマンドレスポンス[3]に注目が集まる中、従業員の「デマンド(最大需要電力)に注目すると節電(CO2削減)につながるのではないか」といった声をきっかけに、工場内の水銀灯(20基)のLED化をはじめ、梱包作業の手動化やエアコン装置の見直しなどといった試行を重ねた結果、1年間(2010年度)で約90トンのCO2排出量削減を達成しました。

    写真説明】1年間(2010年度から11年度)で約90トンのCO2削減を達成(同社提供)

    写真説明】工場内の水銀灯(20基)のLED化㊧のほか、節電など徹底した取り組みが行われた(同社提供)

    次いで、同社が取り組んだ施策は重油使用量の削減です。製品に付着した油を取り除くために使用していた重油熱源式洗浄機に着目。洗浄機の更新に合わせ、電気加熱式洗浄機を導入したところ、2013(同25)年度の重油使用量55,700リットルに対し、翌年は77.5%減の12,500リットルにまで削減。2015年度以降はゼロとなっています。これら成功の裏には機械の更新だけでなく、会社全体で「重油の環境負荷の高さ」に注目し「無駄遣い防止のための啓発教育を定期的に実施する」といった、日々の積み重ねがあります。
    さらに2017(平成29)年からはグリーン電力の導入を開始。翌年には年間CO2排出量を10トン以下にまで下げることに成功しました。しかし、同年は米中貿易摩擦の影響を大きく受け、受注も減少傾向にあったことから、一時はグリーン電力のプラン見直しも検討されたといいます。ただ、CO2排出量が年間で約40倍近くにまで跳ね上がることに加え、企業イメージなどこれまでの実績が水の泡となることから、ここは来社長の「取り組まなければ生き残れない」との大英断で踏みとどまったそうです。これら以外にも廃棄物排出量や化学物質使用量をはじめ、グリーン調達[4]、ガソリン・灯油・水使用量にいたるまで、SDGs17の目標に照らし合わせた細かな目標設定と達成に向けた取り組みが進められています。

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    4.縁がつながり広がる従業員の意識変化

    年度末、従業員に対しSDGs活動の成果について聞き取り調査を行ったところ、大きく分け四つの変化がみられました。
    ①節電や節水、出費(私生活)などの節約に繋(つな)がった。
    ②募金の習慣や人に対しての優しさが芽生えるなど、精神面が向上。
    ③実技取得目標や健康維持のために、学習やトレーニングを始めるきっかけとなった。
    ④ボランティアなど地域活動に参加することで仲間...

    が増え、これら活動を通じ、中小企業診断士といった士業や地域からの注目が集まり、会社としての縁が広がった。
    これら結果に、同社も「活動を始めて6年経つが、個々の目標が年々増えている。個人活動であるが、SDGsに対しての思いや真面目に取り組みを行っている姿がみてとれる」と評価しています。
    「事業自体がBtoBであることから、SDGsをウリにすることはなかなか難しいが、脱炭素は大きく貢献できる」と話す同社。既にCO2排出量の削減量も2013年度比でほぼ、95%減と達成していることから「最低でも2030年までこのラインを維持したい」と気を引き締め、来社長の下、2035年の目標に「カーボンニュートラルの達成」を掲げ、さらなる高みを目指します。

    記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂


    記事中解説

    [1]エコアクション21:中小事業者等の幅広い事業者に対し、自主的に「環境への関わりに気づき、目標を持ち、行動することができる」簡易な方法を提供することを目的に環境省が策定した環境マネジメントシステム。※同省ホームページより引用。
    [2]環境コミュニケーション大賞:環境省などが主催。CSR報告書や統合報告書、環境経営レポートなど、優れた環境報告を表彰することで、事業者の環境コミュニケーションへの取り組みを促進し、その質の向上を図ることを目的とした表彰制度。※同省ホームページより引用。
    [3]デマンドレスポンス:電力不足時、新たな発電は行わず、消費者側の節電協力により不足分を解消する取り組み。
    [4]グリーン調達:企業が製品やサービスを購入する際、事前に必要性を考え、環境負荷ができるだけ小さい原材料や部品などを優先して購入する取り組み。

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