【SDGs取り組み事例】DEIを軸に事業を推進、地域から選ばれる企業に 株式会社ササキ(山梨県韮崎市)

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株式会社ササキ

株式会社ササキ(代表取締役 佐々木啓二氏)の創業は1995年。半導体製造装置や工作機械など、産業機器メーカーをはじめ、宇宙航空・防衛産業や自動車産業向けワイヤーハーネスの製造を行っています。2020年からは「ササキ・サステナビリティ推進チーム」を立ち上げ、DEI[1](ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)を進めます。一方、メイン事業では配線のリサイクルにおいて、2014年からリサイクル業者や障害者施設と提携し、90%以上のリサイクルに成功しています。同社のさまざまな取り組みを紹介します。

【目次】

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    社内全体を巻き込み、CSRとSDGs活動を推進

    ワイヤーハーネスのサプライヤーとして来年、30周年を迎える株式会社ササキですが近年、メーカー側の選定基準にCSR(企業の社会的責任)やサステナビリティに関する要望が増えてきたことを受け、2020年9月、CSRに特化した社内チームを設け、活動を開始。加えて2022年4月からは、サステナビリティ推進部を立ち上げています。当初はサステナビリティの分野は大企業が担うといったイメージが強かったそうですが、SDGs(持続可能な開発目標)が世界的に大きな流れとして注目される中、社会的責任の遂行を事業の基本に位置づけ、社内全体を巻き込んだ活動を進めています。

    株式会社ササキのみなさん(同社提供)

    写真説明】株式会社ササキのみなさん(同社提供)

     

    同社製品の一つの半田角型コネクタ(左)と、今年に3月に出展した「YAMANASHI SDGs FORUM」の様子(同社提供)

    写真説明】同社製品の一つ(左)と、今年3月に出展した「YAMANASHI SDGs FORUM」の様子(同社提供)


    サステナビリティ推進部の主な活動は、社内外に向けた活動内容の周知や取引先対応になります。具体的には女性活躍の推進をはじめ、若者や高齢者、障害者が活躍できる職場づくりの確立、工場見学実施といった多岐にわたる取り組み内容を広く発信し、認知度や企業価値の向上に努めます。CSRやSDGsについて、取引先からの要望増加に加え、就活生も仕事を通じた社会貢献を重視する傾向が高くなってきていることから同社も「活動をしっかり行っていかないと、選ばれなくなってしまうと感じる中小企業は多いのではないか」とみています。

     

    ”Win-Win-Win”の関係もたらす協働銅線事業

    2014年から同社が産業廃棄物処理業者からの呼びかけで進める取り組みに、協働銅線事業があります。これまで、ケーブル製造時に発生する端尺(ゴムと銅)は、産業廃棄物として処分されていましたが、端尺の分別を県内の障害者支援施設に発注することで、支援施設の収入源となったほか、リサイクル率も90%まで上昇しています。
    分別されたゴムは壁紙や玩具の材料に使われ、銅は資源としてリサイクルされ、佐々木社長も「非常に良いプランを提案してもらえた」と話しています。また、2006年からは半導体製造装置生産にあたり、鉛フリー化にも努めています。
    このほか、地域貢献活動の一つとして、県立甲府工業高校専攻科に社員3人を非常勤講師に従業員を派遣しています。内容は、シーケンス制御を行うためのプラグラム作成や、実際にプログラムを使い制御するための機器を作るなど、多岐にわたったカリキュラムが毎週組まれているほか、2年時からは工場実習も行われています。

    写真説明】工場実習(左)と外国人研修の様子(同社提供)

    従業員にも好評、負担軽減に宅配サービス導入

    同社のユニークな取り組みに地元スーパーと提携した「ササキde宅配」があります。これは、2021年に「社員満足委員会(従業員の中から選任)」の社内アンケートを基に、山梨本部から始まったもので、残業や子どもの送迎などで忙しい従業員の負担軽減を目的としたものです。事前にスマートフォンで食材などを注文しておくと、会社まで届けてくれるシステムで、配送料金は会社が負担。システムの内容について、県内企業からも問い合わせがあるなど注目を集めています。

    従業員にも好評な「ササキde宅配」(同社提供)

    写真説明】従業員にも好評な「ササキde宅配」(同社提供)


    自身の目で確認しなくても、しっかりとした商品が届くうえ、利便性も高いことから従業員からの評判も高く、宅配サービスは宮城本部でも導入されています。同社も「コロナ禍で、皆がレジの整列や商品に触れることに不安があった。また、残業で疲れて帰宅し、家で調理するより、早い時間に惣菜や特売品を注文し購入できるといった主婦目線のニーズを取り入れたかった。結果的にリピーターも多く、宮城本部にも広げることができたため、今後も続けていきたい」と話します。佐々木社長も「中抜けできる制度もあるが、職場にいながら中抜けの目的が達成できるこのような仕組みができたことは従業員にとっても良かった」と評価しています。

     

    多様性受け入れ、従業員が意欲を持って働ける環境づくり

    自社の立ち位置を確認、計画と実行繰り返す

    女性活躍の推進については「えるぼし認定」[2]など、行政からの指針を基にサステナビリティ推進部が達成・未達成の部分を洗い出し、山梨・宮城両県の年齢層や環境に合わせた取り組みを行っています。結果、2020年に「えるぼし(二つ星)」を取得したほか、両県から「山梨クリスタルえるみん」[3]、「女性のチカラを活かす企業(ゴールド)」[4]など数々の認定を取得しています。さらに「もにす認定制度」[5]においては、山梨県内で初の認定企業に選ばれました(2021年)。現在、法定雇用率(2.3%)を上回る2.9%を達成していますが、管理職らが地元ハローワークを講師にノウハウを学ぶ中で「もにす認定」を知り、同社の立ち位置から計画と実行を繰り返してきたといいます。このような背景と取り組みの積み重ねが、同社のさまざまな認定取得や高い数値(法定雇用率)となって現れています。
    佐々木社長も「各認定制度は定期的に更新があり、その都度、自社の立ち位置を確認することができるため、中小企業はぜひ、活用してほしい。また、取り組むことでメディアから取り上げられるといった副産物も出てくる。面接の際も、当社のホームページや記事を見て『子育てしながら働きやすい環境だと感じた』という志望動機がとても多く、必ず採用につながってくる」と話します。

    女性トイレに棚や姿見鏡を設置

    「新工場のキーワードは『若者と女性』」と話す佐々木社長。女性更衣室にパウダールームを設けたほか、トイレにはポーチなど物を置く棚や全身が映る姿見鏡を設置しています。このような気遣いは、工場見学に訪れた女性からの評判も良かったそうです。「地域の母親たちはスキルも高く、優秀です。『自宅のそばに短時間で働くところがない』、『子育てのため休みがちになる』といった母親たちにとってネックとなる要素があっても、働く場所を提供することで、しっかり戦力になってくれて、育児休業が終われば戻ってきてもらえる。そのためにも“女性が働きやすい職場です”と、しっかり外にアピールすることはとても大事」と、女性従業員や求職者たちが働きやすい環境づくりを積極的に進めています。

    平均年齢38歳、風通し良く、エイジフレンドリーな職場環境に 

    2015年から従業員が50人以上の事業所に対し、年1回の実施が義務化されたストレスチェックですが、これに先がけ同社では2013年から専門講師による管理研修に基づき開始しました。さらに2016年からは外部業者による一層精緻なストレスチェックを実施してきました。また、社内にメンタルヘルスやハラスメントに対する専門窓口のほか、山梨・宮城両本部をつなぐホットラインを設けるなど、適切に対応するために必要な体制を整備しています。
    当初は、従業員の平均年齢が38歳と若いことから「色々とストレスを抱えているのでは」といった心配もありましたが、専門窓口の利用者も少なく、佐々木社長をはじめとした役員や他部署の上長に気軽に相談できるため、解決できてしてしまうケースがほとんどだそうです。また、重度のストレスから退職した事例がないことからも、職場環境の風通しの良さがうかがえます。
    このほか、2020年からは高齢者を含む従業員の安全や健康増進を目的に、厚労省が進める「エイジフレンドリー」[6]な職場づくりを進めています。これはガイドラインの「職場環境の改善」に基づき、安全衛生委員が実際に現場を確認。突起物やケーブルなど、つまずきの危険性がある場所があれば、対策を講じています。
    また、健康増進面では55歳以上を対象に体力テストを毎年実施していますが、初回時に想像を下回る体力水準だったことから、工場周辺のゴミ拾いを兼ねたウォーキングを取り入れています。さらに昨年は工場内にフィットネススタジオを設け、従業員の健康管理をサポートしています。

    55歳以上を対象に実施されている体力テスト(左)と昨年、設けられたフィットネススタジオ(同社提供)

    写真説明】55歳以上を対象に実施されている体力テスト(左)と昨年、設けられたフィットネススタジオ(同社提供)

    耕作放棄地を活用、6次産業化にも注力

    同社では、工場周辺の耕作放棄地を活用した6次産業化にも力を入れています。生まれ育った地域の農耕地が荒れ果ててゆく姿が目立つことから、ワイン用ブドウ畑の土地を引き継ぎ、2020年冬からブドウの収穫に向けた作業を社員の有志が中心となり始めました。経験不足などから初年度の収穫は断念しましたが、紆余曲折を経て2022年に株式会社SASAKI Farmを設立。収穫量も2022年度が300キロ、翌年度は500キロと増え、現在は甲州市勝沼町のワイナリーで醸造されるまでに成長しています。
    このほか、人手不足に悩む農業法人からは、紅はるかを加工した干芋「ほしか」の栽培から製造までを受け継ぎ、従来から親しまれた商品名はそのままに販売されています。「ほしか」は、同社オンラインショップのほか、韮崎市・ふるさと納税の返礼品としても扱われています。

    紅はるかを加工した干芋「ほしか」(左)と、ブドウ収穫の様子(同社提供)

    写真説明】紅はるかを加工した干芋「ほしか」(左)と、ブドウ収穫の様子(同社提供)


    今後について、佐々木社長は「お客様や地域から、企業に対して求められる事が多様化してきている中、企業の社会貢献度は必ず要求項目に盛り込まれているため、サステナビリティ推進部を中心に本業に支障が出ないよう、世の中に役立つことを続けていきたい。これからも『女性が活躍できる会社』、『多様性を持った人たちが働ける会社(DEI)』、『地域に貢献』を軸に事業を続けることで、わが社の発展と社会貢献度の向上につながっていくと考えている」としています。今後の同社の取り組みに注目です。

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    記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂


    【用語解説】

    [1] DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン):「Diversity(多様性)」、「Equity(公平性)」、「Inclusion(包括性)」の頭文字を取ったもの。企業活動において従業員の持つ個性を認め、尊重し、公平に扱うことを目指した取り組み。
    [2] えるぼし認定:女性の活躍推進に関する状況が一定の基準を満たした優良企業に対し、厚生労働大臣が認定する制度。
    [3] 山梨クリスタルえるみん: 山梨県が女性活躍推進に取り組む企業を認定する制度。
    [4] 女性のチカラを活かす企業認証制度:女性の登用・配置状況や仕事と家庭の両立支援などについて、チェックシートに基づいた自己点検を行い、一定基準を満たした場合に宮城県が認証する制度。
    [5] もにす認定制度: 者雇用促進のほか、雇用安定に関する取り組みの実施状況などが優良な中小事業主に対し、厚生労働大臣が認定する制度。
    [6] エイジフレンドリー:高年齢労働者が安心安全に働ける職場環境の実現を支援する制度。


    会社概要

    名称:株式会社ササキ
    所在地:山梨県韮崎市
    HP:https://sasaki-inc.co.jp/


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