このほど、品川インターシティホール&カンファレンスで、モノづくり産業における新たな視点や解決策を探求し、10年後の変革や製造業DXについて考えるビジネスカンファレンス「ニッポンイノベーション~10年後の産業を考える、ものづくり未来会議~」が開かれた。当日はダイキン工業株式会社、株式会社SUBARU、キャディ株式会社、東洋紡株式会社が事例を交えた各社の取り組みを紹介。3番目に登場したキャディは、共同創業者/最高技術責任者CTO・小橋昭文氏が「テクノロジーで切り拓く 製造業の課題と未来」と題した講演を行った。
キャディ株式会社 共同創業者/最高技術責任者 小橋 昭文氏
AI時代の加速に備えたナレッジマネジメントを
【写真説明】「テクノロジーで切り拓く 製造業の課題と未来」と題し講演する小橋氏(同社提供)
昨今、生成AI界隈ではChatGPTなどのように、私たちが日々、使用している日本語を入力すると、文脈をくみ取った日本語が返ってくるようになってきた。単なる一記録データではなく、その背景・周辺にある文脈も含めて情報を返してくれるという部分は生成AIによる革命だと考えている。そうした利便向上の一方で、いきなり“AI活用を”と言われても難しく、日々、向き合っている業務や企画などにどのように活かすかが、次の論点となってきてもおり、これが経営課題化してきている。
例えば、我々は日々、新入社員や自身の子どもを教育しているが、正しく、良い情報を与えることで、子どもや生徒、社員が正しい方向に成長していく。AIも同じく、インプットした情報で行動する性質を持っていることから、与えるデータの質が重要となる。今後、製造業もAIを本格的に活用できる時代になっていくのを感じる中、変化が今より加速した場合に備えたナレッジマネジメントが必要だ。
また、国別のGDPを製造業のみで切り取って見た時に、中国をはじめ、アメリカやドイツが過去20年間で成長を遂げてきた中、日本のみマイナス6%と下がっている。今後少子高齢化がより進んでいくのが見込まれる中で一人当たりの付加価値を上げていくことが求められる。
図. 国別のGDP※製造業のみ(同社提供)
この手の話が出てくる時、イノベーションやディスラプションといった言葉を耳にするが、日本が取るべき道はこれまで積み重ねてきた数多のモノづくりの経験、学び、ノウハウといった「過去を活用する資産化」であると考えている。資産化できている状態というのは、今日携わった仕事によって得た学びを活かし、明日は学びの延長線上にある新しい課題と向き合えている状態を指す。過去を否定し、すべてをゼロベースで構築するのではなく、過去から学び、その学びを個人ではなく会社組織として誰でも活かしていけるような状態を目指すことで、同じ失敗や作業を繰り返してしまう懸念も小さくしていける。
幸い、日本は永きに渡って多くの知恵と工夫を積み重ねてきたので「AIが学習するための質の良いデータ」を大量に持っているというアドバンテージがある。後はそうした「過去のノウハウデータ」を誰もが扱える状態にしていくことが日本の製造業が取るべき戦略の方向性なのではないだろうか。
図. 資産化とは(同社提供)
資産化には、データの基盤づくりと文化醸成が大切
製造業のデータを資産化するためには、まず、データ活用に向けたデータソースを1カ所に集め、信頼できるデータ基盤を作ると共に、ユースケースを一つずつ作り、データを活用する文化を醸成していくことが必要となる。キャディの提供している「CADDi Drawer」でも、PDM、ERP、過去トラブルなど様々なデータを図面に集約していくだけでなく、集約したことで得られた示唆を次に起こすアクションに活用していくことを大事にしている。
なお、図面に集約しているのは、図面が設計から工程、発注、受注、見積もりなどすべての工程で利用される唯一のデータだからである。これにより、あらゆる部門のデータを無理なく紐づけて集約することができ、また、部門を跨いだ共通の検索キーとしてデータ活用を促進していくことができる。
図. AI時代のデータ基盤としての「CADDi」(同社提供)
機械学習とアルゴリズムで過去情報を瞬時に検索
多くの場合、プロダクトの機能にばかり目が行ってしまうが、データの活用を推進していくことを考える際、そのシステム・データ基盤の機能要件だけでなく、非機能要件も併せて考えていく必要がある。機能要件とは、「検索ができる」、「情報がダウンロードできる」、「関連情報が表示される」などのような「何ができるか」であり、日々の業務に直結した要素がある。一方、非機能要件とは、「どれくらいの速度で情報を引き出せるか」、「どれくらい手間なくデータを抽出できるのか」、「どのようにセキュリティが担保されているのか」などのような「どのように動作するか」に関する要件である。どちらも重要ではあるが、プロダクトを継続的に利用してもらうという観点においては特に後者の非機能要件が重要になってくる。
非機能要件をより高次で満たしていくために、キャディでは機械学習技術とアルゴリズムの双方を使い分けている。機械学習は、写真の解析などに向いており曖昧(あいまい)さを吸収し、良い結果を出すことができるが、厳密な解析は苦手としている。一方、アルゴリズムは、3Dなど構造化されているデータに対する厳密な解析と相性が良い。たとえば、「図面」内の情報データを構造化する際には、設計者毎のバラつきや入力環境の違いによる同一記号(例えば→など)のバラつきは機械学習によって処理をし、一定のルールの下で図面から抽出できるテーブル構造などはアルゴリズムで処理するなどである。こうした組み合わせを用いることで、図面内のキーワード検索や類似する形状の製品検索などを可能にし、ベテランが何年も掛け積み重ねてきた過去の情報を、ストレスなく瞬時に引き出す能力をプロダクトに実装することができた。
図. AIとアルゴリズム(同社提供)
モノづくりは上流で作られたデータ(図面など)を下流にて実物に変換するという一面を持っている。実世界における実作業の改善と共に、データの改善と活用を進めていくということは恩恵が多いと考えている。実際、我々がビジネスを展開する中、データ不備から後工程で手直しが発生するなど、モノづくりにおける情報伝達の難しさを体験してきた。そうした苦い経験などから得た知見を活かしたいという強い思いから「CADDi Drawer( キャディ ドロワー )」は作られた。これからも、モノづくり産業の変革に向け、尽力したい。