デジタルツインを基盤とした日本の反転戦略

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【目次】

    製造業に変革をもたらすサイバーフジィカルシステム(CPS)とは

    東京科学大学教授 デジタルツイン研究ユニット ユニット長 藤澤 克樹 氏

     サイバーフジィカルシステムとその仕組み

    デジタルツインというのは、物理空間にデジタルコピーした仮想空間を再現することでシミュレーションや相互の空間にフィードバックを可能にする仕組みをいう。一方、よく似た概念でメタバースがあるが、これは物理空間と同じように人々(アバター)が集まり、人間活動を行う、いわゆる仮想の人間空間プラットフォームだ。さらに、今回はサイバーフィジカルシステム(以下CPS)についても触れていきたい。CPSは、現実世界(フィジカル空間)にあるセンサーネットワークから得た膨大なデータをサイバー空間において、大規模データ処理技術などを駆使して分析・知識化し、そこで創出された情報や価値を現実世界にフィードバックする。産業の活性化や生産性向上、社会問題の解決を図っていくことを目的に、以下の4つのコンポーネントを回転させながら進める。

    図説明】サイバーフジィカルシステムとその仕組み(藤澤氏提供)

    CPSの基本として①現実世界でのデータ収集②サイバー空間でのデータ蓄積③サイバー世界でのデータ分析④データ分析の結果を現実世界にフィードバックすることが必要となるが、この回転を実現することは難しい。現場で集められたデジタルデータをサイバー空間に移動させ、そこで溜めたデータを分析・可視化するところまでは実現できており、これを「CPS1.0」と呼んでいる。

    図説明】CPS1.0の範囲(同氏提供)

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     CPSを実装したスマート工場とその目的

    現在、我々は国内外の企業とCPSを活...

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    【目次】

      製造業に変革をもたらすサイバーフジィカルシステム(CPS)とは

      東京科学大学教授 デジタルツイン研究ユニット ユニット長 藤澤 克樹 氏

       サイバーフジィカルシステムとその仕組み

      デジタルツインというのは、物理空間にデジタルコピーした仮想空間を再現することでシミュレーションや相互の空間にフィードバックを可能にする仕組みをいう。一方、よく似た概念でメタバースがあるが、これは物理空間と同じように人々(アバター)が集まり、人間活動を行う、いわゆる仮想の人間空間プラットフォームだ。さらに、今回はサイバーフィジカルシステム(以下CPS)についても触れていきたい。CPSは、現実世界(フィジカル空間)にあるセンサーネットワークから得た膨大なデータをサイバー空間において、大規模データ処理技術などを駆使して分析・知識化し、そこで創出された情報や価値を現実世界にフィードバックする。産業の活性化や生産性向上、社会問題の解決を図っていくことを目的に、以下の4つのコンポーネントを回転させながら進める。

      図説明】サイバーフジィカルシステムとその仕組み(藤澤氏提供)

      CPSの基本として①現実世界でのデータ収集②サイバー空間でのデータ蓄積③サイバー世界でのデータ分析④データ分析の結果を現実世界にフィードバックすることが必要となるが、この回転を実現することは難しい。現場で集められたデジタルデータをサイバー空間に移動させ、そこで溜めたデータを分析・可視化するところまでは実現できており、これを「CPS1.0」と呼んでいる。

      図説明】CPS1.0の範囲(同氏提供)

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       CPSを実装したスマート工場とその目的

      現在、我々は国内外の企業とCPSを活用したスマート工場稼働に向けた取り組みを進めている。ロート製薬の例を挙げると、デジタルデータの収集は、カメラを使った撮影やセンサー類で動きを録画する方法が取られている。そのほか、LLM(大規模言語モデル)で処理されたデータを蓄積し、可視化したものを分析している。このように、ダッシュボードベースで活用するケースは多くの工場でみられるようになった。海外では、シーメンスとNVIDIAが連携し、ライブデジタルツインを実現している。これは、現実世界で集めたデータを基にサイバー空間上に工場を設け、フィードバックが行われている。そういった意味では、ほぼ、人間のいない完全自動化のCPSが実現されている。今日の主題である「CPS2.0」は、前述した4つのコンポーネントに対し、操業を通じて高速かつ正確に、さらに安全に回転させることを目指したもの。大きな投資に対して回収できるのかといった質問が寄せられるが、この動きはサプライチェーン全体に波及するほか、研究開発やマーケティング分野でも活用されている。

      図説明】CPS2.0の範囲(同氏提供)


      スマート工場のデータを持続的に収集・解析し、生産活動を常時最適化し、これをベースにサプライチェーン全体に拡大していくことがCPS2.0の目標となるが、サイバー空間で分析・最適化された改善案をいかに最適で正確、安全に現実世界で実現できるかが重要で、日本の強みにもなると考えている。現状、日本はサイバー空間、とりわけAI関連について、世界トップと比べると少し距離を離されているが、前述のサイバー・現実空間の部分で産学連携と社会実装を加速し、CPS2.0を実現したいと考えている。

       CPS2.0の現状と今後の方針

      では、スマート工場を通じた今後の方針について話したい。まず、一つ目のアプリケーションドリブンだがこれは、あらかじめスマート工場内の場所やエリアを決めたうえでKPIを作成し、データ収集を行いながら改善を進める手法だ。
      ロート製薬とは2019年ごろからスマート工場の構築を進めており、2022年に新工場の竣工と同時にCPS1.0の稼働を始め、現在は2.0実装に取り組んでいる。同社は多品種大量生産で、生産する物が高速で流れるといった現場となる。一方、このようなラインとは異なり、米・ボーイング社のB787の組み立て現場のように、一つひとつの製品が大きく、人と物が集まって作業を進める現場でもCPSの適用は可能だ。現在、同社では、生産数を月産5機から10機に上げるための検討が行われている。現場では、常にツールや部品の位置、個数および状態を把握するAI系の「Tool account abillity」、さらに次工程の作業が始まるまでに、必要なツールや部品を効率よく移動させる「Mobility optimization」といった2つのシステムが整備されている。

      図説明】CPSを実装する次世代スマート工場をグループ全体に適用したロート製薬(同氏提供)

      図説明】ボーイング社で検討されている生産性向上オペレーション(同氏提供)


      2つ目の方針は、アプリケーションドリブンによって工場で起きている8割程度の現象は再現や改善が可能だが、どうしてもデータの中から想定していないことが起きてしまうため、映像やセンサーを通じて出てくる様々なデータに自然言語処理を加え、データドリブンの形でアプローチし、突発的事態などの発生時に原因を探るといった対策をシステムで実現する仕組みがとられている。
      冒頭で述べたCPSにおける4つのコンポーネントの回転時間は1周あたり、15分程度が望ましいと考える。回転時間が遅いと、サイバー空間で計算された想定結果と現場の状態が離れ過ぎてしまい意味がなくなってしまう。また、1周を1分で実現したとしても、CPSには電子的な動きの部分と現場の機械的な動きの部分が混在するため、早ければ早いほど良いというわけではない。
      現在、サイバー空間において日本は苦戦しているが、CPSアプリケーションで世界に冠たるものを作っていきたいと考えている。そのためには、できるところからではなく、困難かつ先進的な課題から挑戦したい。また、実際の工場を対象に新技術など、検証可能な環境が構築できれば圧倒的に有利になるとみているほか、量子や光技術といった強みを結集し、次世代のCPSを作ることが重要だ。

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