人的資源マネジメント:モチベーションに対する取り組み(その2)

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3. 報酬を約束することも困難な時代

 
 今は、いろいろと問題はあるものの成果主義は確実に仕組みとして組み込まれていて、勤続年数によって給料が上がるわけでもなく、年功序列で肩書きがレベルアップするわけでもありません。マイホームや海外旅行やクルマなどの豊かな生活を夢見て、最初に入社した企業でとにかくがんばって働くことができた高度成長期のようなこともあり得ません。定型業務はどんどんアウトソーシングされて社内からなくなり、高度ではないプログラミングや加工などは海外に移っていき、ずっと今の仕事を続けられるかどうかさえもわからない時代です。
 
 中国などの成長は著しく、グローバル化は避けて通れず、厳しい競争の中で製品やサービスへのさらなる付加価値が要求されており、技術者はもちろんのこと、会社全体が創造性や独創性で他との差別化をはかっていかなければ生き残れないといっていいでしょう。このような状況の下では、たとえこれまでモチベーション 2.0 が機能していたとしても、今後も会社としてそのための報酬を約束できる余裕はないでしょう。そして、先ほど紹介したように、生き残りのために重要となる創造性や独創性を必要とする高度な仕事には、モチベーション2.0 を前提としたやる気を引き出す仕組みは反対に弊害を生むだけなのです。今の時代に必要なのは、技術者やマネジャーの一人ひとりがモチベーション3.0 という内発的動機づけにもとづいた仕事ができる状況を作り出すことです。これが、これからの厳しい競争を生き抜くことができるかどうかのカギなのだと思います。もし、やる気になる環境は与えられるものだと考えていたり、指示がないと動けないという受け身の考え方が蔓延しているのであれば、一人ひとりの考え方や意識を変えなくてはいけません。ここで私が驚いたデータを紹介しましょう。大手製造業のある事業部のアンケート結果です。

 

 
人的資源マネジメント
図18. モチベーションに関するアンケート結果
 
 モチベーションが高くなったというのは20%にすぎず、しかも、70%の人が指示がないと動けない、動かなくていいと思っているのです。この他の回答でも、安定を求める傾向や今のままでいいという傾向が目立っていました。会社やそこで働く個人の置かれている環境は大きく変化しているのに、肝心の一人ひとりは変化を拒んでいるのです。そして、モチベーションは高くならないと不満を持っているのです。これはこの事業部に限ったことではなく、程度の差はあるものの多くの組織で共通の課題ではないでしょうか。モチベーション 3.0 のための仕組みは経営課題とするべき状況だと思います。
 

4. 個人の意識改革

 
 モチベーション3.0の重要性に気づき、何らかの取り組みをするときに気をつけなければならないのが、一人ひとりの意識(マインド)に働きかける仕組みにするということです。これまでのような集合教育や組織レベルの画一的な仕組みでは、一人ひとりの意識に働きかけるのは無理です。人によってその価値観や夢が違うように、やる気の素(もと)は一人ひとり違うという前提で施策を考えなくてはいけません。では、実際にどのような施策を考えているのかを紹介しましょう。次のように、大きく3つの取り組みが必要だと考えています。
 
(1) コーチングでやる気を引き出す
(2) フロー脳を作る
(3) 自律性を重視する仕組みを整備する
 
 まず最初に取り組むのが、眠っているやる気や忘れてしまった志(こころざし)を引き出すことです。やる気の素は、誰もが本来持っているものなのに、いつの間にか忘れてしまっているだけなのです。やる気の素というのは、人それぞれの「自分らしさ」と言っても良いかもしれません。だからまず必要となるのは、一人ひとりに「自分らしさ」に気づいてもらうことです。自分らしさに気づくことが、自分のやる気のトビラを開けるためのカギなのです。
 
 自分らしさを引き出すための手法として最適なのがコーチングです。ただ、コーチングと言っても様々なスタイルがあるので、今、技術者向けのコーチング手法を開発しているところです。たとえば、コーチは設計プロセスや技術についての基礎知識が必要ですし、アドバイスに関しても柔軟な姿勢が効果的だと考えています。
 
 次に取り組むのが、自分で心の状態をフローにするスキルを身につけてもらうことです。「フロー」については前回のコラム「フロー状態が最高のパフォーマンスをもたらす」で紹介しました。最高のパフォーマンスを出すときの、やっていることに没頭している心の状態のことです。前回の連載で解説したようなフロー状態を再現する方法もありますが、日常的により大切になるのが、フロー状態を作るための脳の使い方です。これを「フロー脳」と名付けました。
 
 脳の重要な働きのひとつに認知がありますが、連載「ココロの状態は自分で決めることができる」で紹介したように、この認知機能はネガティブな考え方に結びつくことが多いのが問題となります。そのため、フローな心の状態を作るためには、いろいろな出来事や他人の言動に対する認知を意識的にコントロールすることが必要になります。具体的なことはまた別の機会に紹介したいと思いますが、このような機能を持つ「フロー脳」を作ること、そのためのスキルトレーニングを実施します。
 
 そして、このような個人に対する取り組みの後、自律性を重視する仕組みを導入します。このような仕組みは、結果や成果指向で、個人の自主的な判断や強い意志を前提とするものとなりますから、依存性が高く弱い意志の個人では仕組みが機能しません。ですから、組織の仕組み作りは最後のステップになります。
 
 実例として、「モチベーション3.0」の中にあるいくつかの仕組みを紹介しておきましょう。まず ROWE (Results Only Work Environment) と...
 

3. 報酬を約束することも困難な時代

 
 今は、いろいろと問題はあるものの成果主義は確実に仕組みとして組み込まれていて、勤続年数によって給料が上がるわけでもなく、年功序列で肩書きがレベルアップするわけでもありません。マイホームや海外旅行やクルマなどの豊かな生活を夢見て、最初に入社した企業でとにかくがんばって働くことができた高度成長期のようなこともあり得ません。定型業務はどんどんアウトソーシングされて社内からなくなり、高度ではないプログラミングや加工などは海外に移っていき、ずっと今の仕事を続けられるかどうかさえもわからない時代です。
 
 中国などの成長は著しく、グローバル化は避けて通れず、厳しい競争の中で製品やサービスへのさらなる付加価値が要求されており、技術者はもちろんのこと、会社全体が創造性や独創性で他との差別化をはかっていかなければ生き残れないといっていいでしょう。このような状況の下では、たとえこれまでモチベーション 2.0 が機能していたとしても、今後も会社としてそのための報酬を約束できる余裕はないでしょう。そして、先ほど紹介したように、生き残りのために重要となる創造性や独創性を必要とする高度な仕事には、モチベーション2.0 を前提としたやる気を引き出す仕組みは反対に弊害を生むだけなのです。今の時代に必要なのは、技術者やマネジャーの一人ひとりがモチベーション3.0 という内発的動機づけにもとづいた仕事ができる状況を作り出すことです。これが、これからの厳しい競争を生き抜くことができるかどうかのカギなのだと思います。もし、やる気になる環境は与えられるものだと考えていたり、指示がないと動けないという受け身の考え方が蔓延しているのであれば、一人ひとりの考え方や意識を変えなくてはいけません。ここで私が驚いたデータを紹介しましょう。大手製造業のある事業部のアンケート結果です。

 

 
人的資源マネジメント
図18. モチベーションに関するアンケート結果
 
 モチベーションが高くなったというのは20%にすぎず、しかも、70%の人が指示がないと動けない、動かなくていいと思っているのです。この他の回答でも、安定を求める傾向や今のままでいいという傾向が目立っていました。会社やそこで働く個人の置かれている環境は大きく変化しているのに、肝心の一人ひとりは変化を拒んでいるのです。そして、モチベーションは高くならないと不満を持っているのです。これはこの事業部に限ったことではなく、程度の差はあるものの多くの組織で共通の課題ではないでしょうか。モチベーション 3.0 のための仕組みは経営課題とするべき状況だと思います。
 

4. 個人の意識改革

 
 モチベーション3.0の重要性に気づき、何らかの取り組みをするときに気をつけなければならないのが、一人ひとりの意識(マインド)に働きかける仕組みにするということです。これまでのような集合教育や組織レベルの画一的な仕組みでは、一人ひとりの意識に働きかけるのは無理です。人によってその価値観や夢が違うように、やる気の素(もと)は一人ひとり違うという前提で施策を考えなくてはいけません。では、実際にどのような施策を考えているのかを紹介しましょう。次のように、大きく3つの取り組みが必要だと考えています。
 
(1) コーチングでやる気を引き出す
(2) フロー脳を作る
(3) 自律性を重視する仕組みを整備する
 
 まず最初に取り組むのが、眠っているやる気や忘れてしまった志(こころざし)を引き出すことです。やる気の素は、誰もが本来持っているものなのに、いつの間にか忘れてしまっているだけなのです。やる気の素というのは、人それぞれの「自分らしさ」と言っても良いかもしれません。だからまず必要となるのは、一人ひとりに「自分らしさ」に気づいてもらうことです。自分らしさに気づくことが、自分のやる気のトビラを開けるためのカギなのです。
 
 自分らしさを引き出すための手法として最適なのがコーチングです。ただ、コーチングと言っても様々なスタイルがあるので、今、技術者向けのコーチング手法を開発しているところです。たとえば、コーチは設計プロセスや技術についての基礎知識が必要ですし、アドバイスに関しても柔軟な姿勢が効果的だと考えています。
 
 次に取り組むのが、自分で心の状態をフローにするスキルを身につけてもらうことです。「フロー」については前回のコラム「フロー状態が最高のパフォーマンスをもたらす」で紹介しました。最高のパフォーマンスを出すときの、やっていることに没頭している心の状態のことです。前回の連載で解説したようなフロー状態を再現する方法もありますが、日常的により大切になるのが、フロー状態を作るための脳の使い方です。これを「フロー脳」と名付けました。
 
 脳の重要な働きのひとつに認知がありますが、連載「ココロの状態は自分で決めることができる」で紹介したように、この認知機能はネガティブな考え方に結びつくことが多いのが問題となります。そのため、フローな心の状態を作るためには、いろいろな出来事や他人の言動に対する認知を意識的にコントロールすることが必要になります。具体的なことはまた別の機会に紹介したいと思いますが、このような機能を持つ「フロー脳」を作ること、そのためのスキルトレーニングを実施します。
 
 そして、このような個人に対する取り組みの後、自律性を重視する仕組みを導入します。このような仕組みは、結果や成果指向で、個人の自主的な判断や強い意志を前提とするものとなりますから、依存性が高く弱い意志の個人では仕組みが機能しません。ですから、組織の仕組み作りは最後のステップになります。
 
 実例として、「モチベーション3.0」の中にあるいくつかの仕組みを紹介しておきましょう。まず ROWE (Results Only Work Environment) という仕組みがあります。これは、「決められた勤務スケジュールがなく、社員は好きな時間に出社する。決まった時間帯にオフィスにいる必要はなく、オフィスに来る必要もない。ただ、自分の仕事をやり遂げ結果を出せばよい。どのように仕事するのか、いつ、どこでするのかについては、社員自身が決められる」というものです。まさに、自律した個人が前提となっている仕組みです。グーグルが採用している「20%ルール」というのも有名です。勤務時間の20%を自分の好きな新しいことに使うことができるという仕組みです。
 
 また、「権限委譲」「柔軟性」「フレックスタイム」などは自律性ではないと言っていることが印象的です。これらは自律の反対であるコントロール(管理)のための仕組みの域を出ていないのです。自律性を重視する仕組みはまだまだ参考になる事例が少なく、外国での事例も含めて、今後情報収集したいと思います。
 
 さて、今回は新しいモチベーションの考え方とそのための取り組みについて紹介しました。まだ、このような取り組みははじまったばかりで、トライアルも含めて今後様々な取り組みをしていくことが大切だと思っています。
 
  

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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