システムトラブル、誰に相談したら良いか

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 最近は、以下のように情報システム開発にかかわるトラブルに悩まされる企業が急増しています。ところが、トラブルが起きた時に誰に相談したらいいかわからなくて困っているようです。相談相手がみつからないままに対策立案を現場任せにしてしまい、トラブルが泥沼化してしまうこともあります。今回の解説では、「システムトラブルに巻き込まれたときに企業関係者は誰に何を相談したらいいか」を紹介します。
 
「システム開発が大幅に遅れている」
「法外な追加費用を請求された」
「高い金を費やしたのに効果が出ていない」
「利用部門が新システムに反発している」
「エラーやトラブルが多発して仕事にならない」
「ベンダが一方的にサポート停止を宣言してきた」
 

1. システムトラブルの特徴

 本題に入る前に、情報システム開発トラブルの特徴を整理します。
 

(1) プロジェクトの当事者が多い

 企業の情報システム、とくに基幹業務システムの構築プロジェクトは、情報システム部だけでは構築することはできません。仕様検討、マスタデータの設定、システムテスト、本番運用などの構築工程全体にわたって現業部門の利用者の関与が必要になります。またシステム開発の全部もしくは一部を外部業者(ベンダ)に委託して開発することも多くあります。必然的に他のプロジェクトに比べて関与する人員の数が増えてしまいがちです。
 
 またシステム開発は何年かに1回しか行われないのが普通なので、大半のメンバをシステム構築経験のない素人が占めるプロジェクトもあります。
 

(2) トラブル原因は輻輳しやすい

 システムトラブルは、誰か一人の過失や一つの要因だけが原因となって発生することは稀で、様々な原因が輻輳して起こるのが普通です。そのため、システムトラブルの解決策を検討する上では、様々な視点からの原因分析が必要になります。この作業は簡単ではありません。トラブル案件の多くはベンダ側だけでなくユーザ企業側にも問題があるのが一般的で、どちらか一方だけに責任を負わせることは困難です。
 

(3)SIベンダはトラブル責任を取らない

 日本の大手システム業者はSI(システムインテグレータ)を名乗っています。インテグレータ(統合)という言葉から、SIベンダがシステム構築プロジェクト一切を仕切ってくれるとイメージする人がほとんどでしょう。しかし、実際にはSIベンダが構築責任の発生するシステム構築作業の一括請負受託までを行うケースは稀です。一括受託は開発予算が膨れ上がって赤字になってしまうリスクがあるため、SIベンダが請け負うのはソフトウェア開発のみで、開発工程以外の工程は受託責任が発生しないように支援業務だけを行うのが一般的になっています。中にはシステムトラブルが発生した際も傍観者に徹するベンダさえいます。
 

(4)パッケージに業務をあわせても大丈夫か

 「最新のERPパッケージシステムの仕様に業務をあわせる。」近年システムトラブルが増えている要因の一つに、このことばがあります。このことばは90年代に海外製ERPパッケージベンダがいいだしました。企業がこのことばを信じてERPパッケージを導入しようして混乱が生じるケースが頻発しています。企業にはそれぞれ発展してきた強みと歴史があり、システムに業務をあわせるとそれが損なわれる可能性があるからです、しかも日本企業の大半は取引先の要望にあわせて仕事をする受注生産型企業のため、ERPパッケージの仕様に業務をあわせると取引先からの要望に対応できずに仕事を失う可能性も心配されます。
 
 業務を合わせることを断念した多くの企業はSIベンダの勧めにしたがってパッケージソフトを改造(カスタマイズ)して業務にあわせようとしました。ところが、現在のパッケージは自社でもベンダでも簡単に改造することはできません。改造には一からシステムを開発するよりも多額な費用がかかります。さらにいったん改造してしまうとメンテナンスも難しくなってしまいます。この問題が原因となってパッケージシステムのトラブルに発展している企業が増えています。
 
 生産マネジメント
 

2. システムトラブルと相談先

 上記のような特長を持っているシステムトラブルですが、トラブルが発生した際に誰に相談したらいいでしょうか。具体的な相談相手には次のような立場の人がいます。それぞれの人たちに期待できる相談内容と留意点を整理します。

(1)弁護士に相談する

 ベンダ側の対応がリスク回避に終始し、昔のようなパートナー的な運命共同体関係が築けなくなったことから、弁護士に相談したり、裁判に持ち込むトラブル案件が増えています。とくにベンダとユーザの関係が悪化し両者の調停(和解交渉)が必要になった場合は、弁護士でないと調停はできません(弁護士法72条)。
 
 しかし、システム開発トラブルは専門性が高いうえに、裁判で争うために大量の証拠資料を用意しなければなりません。口約束がトラブルの原因となっていることも多く、文書記録をそろえるだけで莫大な工数と時間がかかりますので、弁護士が関与したからと言ってすぐにトラブルが解決できるわけではありません。
 
 最近のベンダはトラブル発生に備えて契約書の条文もスキのない文面にしていますのでベンダ優位の契約書を取り交わしてしまっていては弁護士が活躍する場も限られます。さらに忘れてはならないことはたとえ裁判に勝訴しても金銭的な問題の解決までで、システム自体が完成するわけではないことです。弁護士に相談するのは契約前が最善です。また弁護士に相談するからと言ってすぐに法律的に白黒をつける交渉に持ち込むことも得策ではありません。弁護士への相談に並行して次のシステムトラブルコンサルタントへの相談も考えるようにしましょう。
 

(2)トラブルコンサルタントに相談する

 システムトラブルの相談役として注目されているのが、システムトラブル解決を専門とするコンサルタントです。トラブルが起きた時に経営者が具体策を相談する相手として期待されています。ただし、ITコンサルタントを標榜しているからといって誰でもトラブル解決ができるわけではないことには気を付けましょう。とくにSE出身のコンサルタントは初期段階の要件定義が不十分だから要件定義からやり直せといった理想論をいいだしがちのため、現場と対立する危険性があります。
 
 トラブルコンサルタントの役割は理想のシステムを作ることではなく、最低限の対策でトラブルを抑えるように助言することです。このことは数々の修羅場を経験してきた人間でないと難しく、情報システムの専門家だからといってできるとは限りません。コンサルタントの人選にはくれぐれも注意しましょう。
 

(3)システム活用コンサルタントに相談する

 システ...
 最近は、以下のように情報システム開発にかかわるトラブルに悩まされる企業が急増しています。ところが、トラブルが起きた時に誰に相談したらいいかわからなくて困っているようです。相談相手がみつからないままに対策立案を現場任せにしてしまい、トラブルが泥沼化してしまうこともあります。今回の解説では、「システムトラブルに巻き込まれたときに企業関係者は誰に何を相談したらいいか」を紹介します。
 
「システム開発が大幅に遅れている」
「法外な追加費用を請求された」
「高い金を費やしたのに効果が出ていない」
「利用部門が新システムに反発している」
「エラーやトラブルが多発して仕事にならない」
「ベンダが一方的にサポート停止を宣言してきた」
 

1. システムトラブルの特徴

 本題に入る前に、情報システム開発トラブルの特徴を整理します。
 

(1) プロジェクトの当事者が多い

 企業の情報システム、とくに基幹業務システムの構築プロジェクトは、情報システム部だけでは構築することはできません。仕様検討、マスタデータの設定、システムテスト、本番運用などの構築工程全体にわたって現業部門の利用者の関与が必要になります。またシステム開発の全部もしくは一部を外部業者(ベンダ)に委託して開発することも多くあります。必然的に他のプロジェクトに比べて関与する人員の数が増えてしまいがちです。
 
 またシステム開発は何年かに1回しか行われないのが普通なので、大半のメンバをシステム構築経験のない素人が占めるプロジェクトもあります。
 

(2) トラブル原因は輻輳しやすい

 システムトラブルは、誰か一人の過失や一つの要因だけが原因となって発生することは稀で、様々な原因が輻輳して起こるのが普通です。そのため、システムトラブルの解決策を検討する上では、様々な視点からの原因分析が必要になります。この作業は簡単ではありません。トラブル案件の多くはベンダ側だけでなくユーザ企業側にも問題があるのが一般的で、どちらか一方だけに責任を負わせることは困難です。
 

(3)SIベンダはトラブル責任を取らない

 日本の大手システム業者はSI(システムインテグレータ)を名乗っています。インテグレータ(統合)という言葉から、SIベンダがシステム構築プロジェクト一切を仕切ってくれるとイメージする人がほとんどでしょう。しかし、実際にはSIベンダが構築責任の発生するシステム構築作業の一括請負受託までを行うケースは稀です。一括受託は開発予算が膨れ上がって赤字になってしまうリスクがあるため、SIベンダが請け負うのはソフトウェア開発のみで、開発工程以外の工程は受託責任が発生しないように支援業務だけを行うのが一般的になっています。中にはシステムトラブルが発生した際も傍観者に徹するベンダさえいます。
 

(4)パッケージに業務をあわせても大丈夫か

 「最新のERPパッケージシステムの仕様に業務をあわせる。」近年システムトラブルが増えている要因の一つに、このことばがあります。このことばは90年代に海外製ERPパッケージベンダがいいだしました。企業がこのことばを信じてERPパッケージを導入しようして混乱が生じるケースが頻発しています。企業にはそれぞれ発展してきた強みと歴史があり、システムに業務をあわせるとそれが損なわれる可能性があるからです、しかも日本企業の大半は取引先の要望にあわせて仕事をする受注生産型企業のため、ERPパッケージの仕様に業務をあわせると取引先からの要望に対応できずに仕事を失う可能性も心配されます。
 
 業務を合わせることを断念した多くの企業はSIベンダの勧めにしたがってパッケージソフトを改造(カスタマイズ)して業務にあわせようとしました。ところが、現在のパッケージは自社でもベンダでも簡単に改造することはできません。改造には一からシステムを開発するよりも多額な費用がかかります。さらにいったん改造してしまうとメンテナンスも難しくなってしまいます。この問題が原因となってパッケージシステムのトラブルに発展している企業が増えています。
 
 生産マネジメント
 

2. システムトラブルと相談先

 上記のような特長を持っているシステムトラブルですが、トラブルが発生した際に誰に相談したらいいでしょうか。具体的な相談相手には次のような立場の人がいます。それぞれの人たちに期待できる相談内容と留意点を整理します。

(1)弁護士に相談する

 ベンダ側の対応がリスク回避に終始し、昔のようなパートナー的な運命共同体関係が築けなくなったことから、弁護士に相談したり、裁判に持ち込むトラブル案件が増えています。とくにベンダとユーザの関係が悪化し両者の調停(和解交渉)が必要になった場合は、弁護士でないと調停はできません(弁護士法72条)。
 
 しかし、システム開発トラブルは専門性が高いうえに、裁判で争うために大量の証拠資料を用意しなければなりません。口約束がトラブルの原因となっていることも多く、文書記録をそろえるだけで莫大な工数と時間がかかりますので、弁護士が関与したからと言ってすぐにトラブルが解決できるわけではありません。
 
 最近のベンダはトラブル発生に備えて契約書の条文もスキのない文面にしていますのでベンダ優位の契約書を取り交わしてしまっていては弁護士が活躍する場も限られます。さらに忘れてはならないことはたとえ裁判に勝訴しても金銭的な問題の解決までで、システム自体が完成するわけではないことです。弁護士に相談するのは契約前が最善です。また弁護士に相談するからと言ってすぐに法律的に白黒をつける交渉に持ち込むことも得策ではありません。弁護士への相談に並行して次のシステムトラブルコンサルタントへの相談も考えるようにしましょう。
 

(2)トラブルコンサルタントに相談する

 システムトラブルの相談役として注目されているのが、システムトラブル解決を専門とするコンサルタントです。トラブルが起きた時に経営者が具体策を相談する相手として期待されています。ただし、ITコンサルタントを標榜しているからといって誰でもトラブル解決ができるわけではないことには気を付けましょう。とくにSE出身のコンサルタントは初期段階の要件定義が不十分だから要件定義からやり直せといった理想論をいいだしがちのため、現場と対立する危険性があります。
 
 トラブルコンサルタントの役割は理想のシステムを作ることではなく、最低限の対策でトラブルを抑えるように助言することです。このことは数々の修羅場を経験してきた人間でないと難しく、情報システムの専門家だからといってできるとは限りません。コンサルタントの人選にはくれぐれも注意しましょう。
 

(3)システム活用コンサルタントに相談する

 システムトラブルというと、本番時期間までに完成しないとか、費用が膨れ上がったといった問題をイメージする人も多いかと思います。ところが実際に経営者や利用者から相談されるのは、トラブル解決策の相談よりも、せっかく導入したのに新システムは伝票を出力するだけで経営効果がほとんどあがっていないといった相談が多くなってきました。
 
 たとえば、最新のパッケージシステムを使ってシステム構築したのに、従来システムよりも入力の手間がかかるうえに、やっていることは従来システムと同等で、経営改善効果には程遠いといった話です。
 
 こうしたケースでは、前述のトラブルコンサルタントではなくシステム活用を支援する経営コンサルタントに相談しましょう。経営者は、最新のERPパッケージや業務パッケージを使えばすぐにでも経営メリットのある情報システムが実現できると期待しがちです。ITコンサルタントの中にもそうした話をする人がいますが、それは空論にすぎません。
 
 生産管理システム活用で経営効果をあげようとすればシステムの機能以前に生産計画の立案方法やマスタデータの設定内容などを検討する必要があります。
 
 エンドユーザに対してこうしたことを助言するのがシステム活用コンサルタントの仕事です。残念ながらSIベンダにはこうしたことができるコンサルタントはほとんどいません。
 
 ただし、システム活用を相談するはずだったのに、最初から解決策としてシステムを作り直すことを推奨するコンサルタントには注意しましょう。作り直しはあくまで最終手段です。まずは現在のシステムで活用していくことを検討するのが活用コンサルタントとしての正しい姿です。
  

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この記事の著者

本間 峰一

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