AI、MR、DXの融合が切り拓く、ものづくりの新たな可能性

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ものづくり現場DX Day

 

数年先に実現する未来の外観検査とは

国立九州工業大学 大学院情報工学研究院准教授 理学博士 徳永 旭将氏

【目次】

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    急速に進化するLLM:大規模言語モデル

    現在のディープラーニングの火付け役となったAlexNetというAIモデルが登場し、大三次AIブームが始まった。ディープラーニングの進化を振り返ると、時代の変遷とともにAIモデルは非線型に大規模化していることが分かる。最先端の部分をみてみると、近年は言語モデルがAI開発を非常にリードしており、言語モデルの世界で大きなムーブメントが起きると、他の分野にも次々と波及してくる。最近では、この言語モデルが他の分野と統合し、汎用的なAIに進化を遂げようとしている。

    AIシステムの変遷


    昨年、Chat GPT4が登場したが、言語と画像、言語と音声といった複数のマルチモダル情報を統合するLarge-Scale Multi-Modal Model(LLM:大規模言語モデル)の研究が、短期間で急速に盛んとなった。製造業におけるDXにおいても、DXが大規模なAIの駆動力となり、AIを進化させ、産業AIのフィードバックによってDXもさらに進むといった進化の循環が今後、加速すると考えている。
    では、我々人間がこの進化の循環にどのように適応したら良いのか。今回は、外観検査を例に、数年先に実現するとみられる未来について共有したい。

    Chat GPT4登場以降のLLMの開発動向

     

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    AIを使った外観検査:MR技術

    製造業は日本の基幹産業で多くの人が従事しているが、検査工程をみてみると、多くの人的コストが発生している。そんな中、熟練の作業員が次々と現場を離れるなど、近年の労働者減少に伴う労働人口の不足は喫緊の課題となっていることから、AIを使った外観検査に注目が集まっている。実際、展示会でも国内外の様々なメーカーから、外観検査の自動化や半自動化を目的とした製品が紹介されているが、人とAIとの関わり方を開拓するソリューションはまだ存在していない。
    そこで今回、我々が進めているMR(複合現実)技術を用いた外観検査支援AIを紹介したい。外観検査の多くは長時間にわたり、人の目や感覚を使って正常な商品かどうか見極めを行っているが今、その常識が変わろうとしている。

    人を疲弊させる検査業務


    これまで、人が行う外観検査は検査員の負担増や精度のほか、体調面などから差が出やすいといった課題があったが、MRとAIを活用することで、精度の差を最小限に抑える事が可能になった。従来、AI検査において、正しい検査結果を出すための学習の積み重ねが大きな負担になっていたが、MRを使用することで、学習自体も商品を見ながら調整できるため、感覚的な学習が可能となったほか、視覚の共有も実現した。
    また、外観検査の技術は人に寄与する部分が多く、離れた場所でノウハウを共有することは極めて難しいという課題があったが、制作したAIモデルとともに、検査を行う人の視覚や音声を共有することで、離れた場所でも新しい商品や特殊な商品の検査を迅速に行うことができる。
    構築したAIモデルは、時期や作業者情報を保存することができ、いつ誰がどのような検査を行ったか、いつでも検索することが可能だ。外観検査は経験やノウハウに基づく作業だったが、MRを使うことで、視覚・感覚技術は場所や環境にとらわれず、日本国内のほか、世界中と繋げることもできるようになる。また、MRだからこそ、工場のほか、農業やインフラの現場まで、様々なシーンでの活躍も期待できる。

    人間中心型の外観検査AIとは

    MRやAIを使った現場レベルにおける一連の変革の中で、我々が重点としている考えとして、産業AIがある。こうした産業に貢献するAIを考えるうえで、二通りの方向性があるが、その一つとして自立型AIがある。自立型AIは、あらかじめ、プログラミングを行っておくことで、あとはAI自身が判断して何らかの処理を進めるというもの。どちらかというと、作業員を不要としていくことを前提とした技術だが、我が国の労働力不足の解消を進めるうえでも、喫緊の課題として取り組んでいかなければならないと考えている。

    産業AI、2つの方向性


    次のステップとして、AIが人間を不要にしていくという方向性もあるが、そうではなく、我々は本来、人間の持つポテンシャルや創造性といったものを最大限引き出すため道具、つまりパートナーになるものがAIではないかと考えている。このような「人間中心型への回帰」といった考えが、長期的なスパンで社会に浸透するとみているが、その時に人間とAIの橋渡しをするための方法が大事となる。その部分の技術としてDXやMR、デジタルツインあたりが今後、コアな技術としてますます進歩してくると考えている。
    ひとくちに外観検査といっても、実現するために、作業者は非常に様々な処理を行う必要がある。例えば、検査基準が分からない時は、検査基準のマニュアルやその類似事例を探すといった作業が発生する。また、本社と工場のように、別々の拠点を繋ぎ、情報共有を行うケースもある。このような作業では当然、一旦作業を中断し、別途行う必要が出てくる。さらに、AIを現場に導入する際も、AIに求める推論結果のほか、AIの訓練や再訓練といった処理が発生するため、作業を中断しなければならない。そこで現在、我々はこれら状況を改善するため、一連の作業をMR空間に統合することで、作業員の大幅な負担軽減と、効率性向上の実現を目指した様々な要素技術の研究開発行っている。
    たとえば、AIを訓練する際、不良箇所の画像(正解データ)を多く与えることで、不良品を見つけ出す性能を上げることができるが、このような詳細な情報を、MRデバイスを介して作ることが可能かというと、目の疲労など様々な問題が出てきたことから、指の簡単な操作で訓練データの作成を可能とする仕組みを作っている。また、その時にタイプの異なる複数のAIを上手く相乗効果させながら、同時に訓練する仕組みについても研究を進め、論文や特許申請などを行った。将来的にはこれら技術を通じて、ハンドジェスチャーなどを使い、効果的なAI操作やインタラクション(相互作用)が実現できると考えている。今後、ハンドジェスチャー以外にも言葉を介したAI操作は進歩していくため、たとえば、不良品画像の判別にChat GPTが利用できる日もそう遠くはないとみている。

    ハンドジェスチャーや言語を介したAIのハンドリング


    最後に、最近の試みとして、言葉と視覚を統合した“状況の認識”を可能とするモデルの研究を進めている。これは、作業員が手に持っている物から、今どのような検査を行おうとしているのかをAIが予想し、より円滑にAIが作業員を支援できる仕組みで、近いうちに実現したいと考えている。

     

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