食品工場にとって最大のリスクは衛生事故であり、これだけは何としてでも避けたいと常々肝に銘じています。
しかし一般論としてリスクを避けるほどコストが上がります。
例えば加熱消毒工程で、設定許容温度の幅が小さいほど、賞味を悪化させずに菌を死滅することが可能になりますが、温度規格外すなわち原料廃棄が増えて製造原価が上がります。幅を拡げればその逆で、決して両立することがありません。
長年の経験から設定値と許容幅を決めているわけですが、本当にベストな規格を決める考え方があればご教授ください。
*注:これは事務局が考えた架空の(しかし、いかにもありそうな)質問です。
現場ですぐ使える品質改善技法の開発と普及活動を行っている高崎ものづくり技術研究所の濱田と申します。
食品の原料、半製品においては加熱(微生物が死滅する温度設定)の工程がない限り、微生物は食品中に存在します。但し
・微生物を減少させるための要素は温度だけでなく、加熱時間等も重要なポイントとなる。
・一般的に75℃で殺菌するが、細菌の中には、120℃以上の加熱が必要なやっかいな微生物も存在する。
・細菌の中には人間を害する毒素を作る種類があり、その毒素は加熱に強い場合が多い。
など、一概に、加熱工程の設定値、許容幅だけ考えれればよいわけではありません。
食品工場の製造工程を考える場合、一般的には、洗浄、加工、包装、ラベル表示などの工程があります。その中で、さまざまなリスク低減策を講じなければならず、最終的に消費者に安全な食品を届けるため、工場としての品質リスクマネジメントのしくみが必要と考えられます。その主な項目は
①工程の信頼性設計・安全性設計とリスク分析
②工程の不具合を想定したリスクアセスメントの実施
③潜在する故障モードを起点とした工程FMEAの実施
④上記の結果顕在化した問題に対する本対策、保護対策の実施
⑤人の教育訓練
⑥賞味期限、保存温度などの設定と消費者への情報提供
以上がリスクマネジメントの概要です。
ご質問の加熱消毒工程で、長年の経験から設定値と許容幅を決めているとのことですが、菌の死滅温度、賞味の悪化温度は実験的に明らかにし、賞味が悪化せずに菌が死滅する温度条件をいかに精度よく保つかは設備のバラツキと、周囲環境の変化などを誤差因子とした、パラメータ設計の実施が有効と思われます。
また加熱消毒工程も含めた全工程でリスク低減策を講ずることが重要と考えられます。
市場のリスクの程度に応じて判断するため、リスクが大きければ、原価は上がっても仕方がない場合もありうるわけで、原料を廃棄しないためにはどのような代替え策を講ずるのかを考えなければなりません。そこで、精度の高い加熱消毒設備に更新するのか、包装方法を工夫するのか、賞味期限を短くするのかは、企業として市場の動向を見ながらの判断となります。
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