研究開発マネジメントの目的は、研究所の生産性を上げることです。研究開発の要である研究所のエンジニアリングについて、解説します。
1.R&Dの課題はテーマ創発・企画
R&Dマネジメントの悩みは研究開発の生産性が上がらないことです。R&Dの生産性は、インプットに対するアウトプットです。インプットは金額的に把握できますが、アウトプットは金額的には把握できず、成果となる事業や技術でしか把握出来ません。中間生成物がテーマです。テーマの質や量が経営者の目から見てどう写るかが成果ととられます。また、結果としては事業の役に立つか立たないかがその評価です。どうすれば、R&DマネジメントによってR&Dの生産性を上げることができるでしょうか。次のような課題はないでしょうか。
・顧客の見えた、短期の開発テーマばかり
・中長期の筋の良いテーマがでない
・いいアイデアがでない(ヒットやホームランがでない)
(1)R&Dマネジメントの方向性はテーマ創発
これからのR&Dは、再度、中長期の視点を取り入れる方向になると考えています。ならざるを得ないといえるかも知れません。とは言え、従来の技術主導に戻るわけではありません。将来の社会や顧客を洞察する時代になるだろうと考えています。そして、高度化のキーワードは、異分野との連携と未来予想です。
(2)R&Dの目的は顧客価値の創造
ドラッカーは「事業の唯一の目的は利潤ではなく、顧客(価値)創造にこそ求められ、そのための事業の機能はマーケティングとイノベーション」であると述べています。
マーケティングは、「すでにある顧客」に対するマーケティングで良かったかも知れません。しかし事業開発者は「将来の顧客」を予想する必要に迫られています。研究所主導のイノベーションも枯渇しつつあり、未来の社会や顧客を予想し、それに合致しそうな提案を予め考える必要があります。すなわち、研究開発マネジメントのコンセプトは、顧客価値の創造です。
2.R&Dマネジメントのアクションアイテム
(1)R&D幹部へのマネジメント
R&Dマネジメントの中核は幹部が変わることです。研究所は自治組織であるべきだと考えています。企業もそうです。企業では、株主や送り込まれた人によって企業が変えられる時があります。しかし、その時には、もう遅いのです。短期的な視点でしか経営出来ないことになります。研究所に必要なのは中長期視点です。
中長期視点での成長を経営から求められた時に論理的な説明ができる事が必要ではないでしょうか。そのために、研究所幹部の膝詰めで、経営からの要求を果たすパフォーマンスを出すための、自治組織をつくり上げるべきではないでしょうか。
(2)モチベーションマネジメント
R&Dの生産性を向上させるためには、「やりたいことをやる」のが最も適切です。研究者・エンジニアのモチベーションは、どこから来るのでしょうか。研究者(エンジニア)のやる気は、自由度からくるものだと思っています。
研究者・エンジニアは、自由になると自分のやりたいことをします。研究者・エンジニアのモチベーションの源泉は、「やりたいこと」、「やりたいように」、「やれること」の環境です。
(3)スター研究者の意図的な創造
スター研究者は情報によって作られると確信しています。それは、多くの「困ったな」という人々の声(一次情報)に触れることが、研究者・エンジニアに使命を与えると考えるからです。人間として、困った人を助けたいと思うのは当たり前です。そして、困った人を助けたいという動機がテーマに結びつきます。経営者・研究所長としては、研究者に「困った人を助けたい」という動機を得てもらうために、どうすれば良いのかを考えることが必要です。
3.テーマ企画方法教育マネジメント
研究開発の生産性を向上させるには、テーマを量産する組織になることが必要です。その要は、テーマ企画の方法を教育することです。テーマ企画の方法には、大きく分けて次の2つの方法があります。
(1)フォーキャスト型:研究者のやりたいテーマを立案する場合
高速化・微細化・高精度化などの技術の延長線を追求していくタイプです。半導体の微細化が分かりやすい例だといえます。このタイプのロードマップでは、技術進化に紙幅が割かれることが多いといえます。フォーキャスト型の会社で起こっていたのは、テーマが小粒であるという課題です。
(2)バックキャスト型:マクロトレンドに沿った研究テーマを立案する場合
「将来市場ではこういうニーズが出るから、こういう技術を開発しておこう」というものです。自動車会社が省エネなどのニーズに対応してFCVやハイブリッドなどの基盤技術を開発しておくと説明すればイメージしやすいと思います。顧客の変化に影響を与えるマクロトレンド分析に紙幅が割かれ、技術トレンドについての大まかな方向性を示されていました。バックキャスト型の会社では、他所と同じ研究開発をしているのではないかという課題です。
4.R&Dオフィスのマネジメント
研究所はイノベイティブな場所であるべきなのに、統制的な本社の雰囲気を引きずっている研究所が多いようです。モノトーン、セピア、そんな研究所です。本当にイノベイティブなことが起こるような環境でしょうか。オフィスを変えることは、研究開発マネジメントのルールを公式化することです。モノトーン・白黒は、「決まりきったことを決まったようにする」という心理になりがちです。原色を中心とした派手な色もたくさん使われた環境にすると、「何でもできそう」という雰囲気になります。
5.R&D20%ルールのマネジメント
研究開発のルールは自由です。自由な発想と試行錯誤が、新しいモノを生み出します。自由を確保するための代表的な制度が20%ルールです。20%ルールが、企画、規定化、アナウンスされるだけでなく、運用段階まで持っていく必要があります。◯%ルールとは、業務時間の◯%を、研究者の自由な研究に当てていいしていいという制度です。東レや3Mが事例として挙げられます。多くの研究所でも導入されているルールです。
(1)10%、15%、20%ルール導入のメリットとは
◯%ルール導入のメリットには、テーマ創出につながる事が挙げられます。テーマ創出につながるロジックは、以下の様なものです。
【研究者が自由に出来る】→【アングラ研究ができる、棄...
却されたテーマを続けられる、外出してテーマ発掘出来る】→【【新たなテーマ創出につながる】】
(2)10%、15%、20%ルール導入の落とし穴
「100%の業務があった所、20%ルールを導入したら、業務時間が120%ルールになってしまい、全然運用されていない」という笑い話もあります。制度導入すれば済む話ではありません。本質的には、研究所がどうあるべきなのかに関する明確なビジョンがあり、それを実現する手段としての◯%ルールであることに留意する必要があります。
(3)10%、15%、20%ルール導入の勘所
ルール導入には、業務の可視化や棚卸しが必要不可欠です。もちろん、可視化のための可視化はNGです。あくまでも、高付加価値業務に集中するための業務の可視化や棚卸しです。研究所にとって、研究者にとって、高付加価値業務とは何なのか、この根本的な疑問に対する回答が必要となります。それがあっての◯%ルールであることを忘れてはなりません。