デザインによる知的資産経営:「知的資産」を活用する経営(その4)
2016-09-27
前回のその3に続いて解説します。
自社の「知的資産」を見える化し、デザインの手法によって仮説を用意します。そのうえで、「企業理念」を揺るぎのない物差しとして「仮説」に向けて「知的資産」を活用した経営を行います。そのなかで、仮説に基づいた開発を行い、開発成果を「ブランド」として最大限活用してイノベーションが持続する経営を行うということです。このような経営手法をとるとき、知的財産権を活用することと、その限界を知ることが重要です。
経営の手法や企業理念が保護されないことはご存じのとおりです。見える化された情報や仮説も「営業秘密」として保護される可能性はありますが、これは「盗むな」というレベルの保護であり、他社においても同じような情報や仮説を保有していることは十分に考えられ、それに対してクレームをつけることはできません。
これに対応する備品についてもさまざまな技術的工夫が提案されています。そこには特許のタネもあります。しかしながら、提案者は「これが特許になるかもしれない」ということをほとんど考えていないのです。筆者がコメントすると「え、そうなんですか?」と……。
このようなことは企業の中でもたくさんあるのではないでしょうか。開発会議で出された提案が、知財担当者に回らずに権利化の機会を逸してしまうのです。これを防ぐには、「技術的工夫」という「特許の芽」を見つけて育てる仕組みが必要です。開発会議での提案をすべて知財部または顧問弁理士に投げ込むのが、一番簡単な解決策だと思います。
意匠権では、アイデアや商品のデザインコンセプトを保護することはできません。意匠権で保護されるのは「ものの形」です。意匠法では「全体意匠」「部分意匠」、そして「関連意匠」という保護のタイプが用意されています。これらを駆使して開発を保護する方針を検討し、出願・登録する必要があります。
「意匠権でデザインを保護しよう」と考えたときに大切なのは、他社が「似て非なるもの」を創ろうとするときに「商品の形をどうするだろうか?」と考えることです。意匠権は「登録意匠に類似する意匠」まで効力が及びますが、商品コンセプトが同じでも、形態が「類似しない」商品には対応できません。そのような商品が出てしまうと、自社のイノベーションの基礎とするはずのブランド構築も難しくなります。
そこで、「権利を逃れて同じようなものを創りたい!」という第三者の立場に立って別の形を考え、それも意匠登録しておくことが望まれます。
「ブランド」は信頼関係ですから「商標権」だけでは保護できませんが、ブランドの保護に商標権は不可欠です。商標法が改正され、「色」「音」なども商標登録の対象になります。ブランドの保護を強化するためなどと説明されていますが、これらが保護対象に加わっても、商標法は「マーク(色や音を含む)」を保護するだけであって、自社が築いた顧客との信頼関係そのものを保護するものではありません。「ブランド」の保護は企業の不断の努力と活動に頼るしかありません。
企業が「デザインによる知的資産経営」を進める...
に際し、知財担当者は、先に述べた「知的財産の使い方」に対応する仕事をすることが必要です。
知財部員が開発の現場に入り、「発明の発掘」を行うことは普通になっていますが、その目的は「出願のテーマ探し」である場合が多いのではないでしょうか。「デザインによる知的資産経営」をベースに置くと、その開発を企業経営の方向性との関係で把握し、理解しなければなりません。技術や意匠などの開発成果を見て、権利化という視点だけでなく、企業戦略との関係で開発成果を評価し、権利化の地図を描く必要があります。大企業では知財部の職務が細分化されていることを考えると、むしろ中小企業のほうに利がある視点ではないかと思います。