『価値づくり』の研究開発マネジメント (その14)
2016-11-14
今回も、前回から引き続きオープンイノベーションの経済学の5つ目、「オープンイノベーションによる研究開発に関わる固定費の変動費化」です。
固定費の変動費化というのは、一般的にも経営効率を向上させる手段として良く取り上げられる言葉ですが、研究開発活動にも関係することで、オープンイノベーションによって次の3つの効果を実現することができます。
「『価値づくり』の研究開発マネジメント」は、市場には顧客にとっての価値の創造の機会があふれているので、顧客にとっての『価値づくり』を大きな目標として掲げて研究開発活動を行おうという考え方です。これを実践しようとする場合の大きな制約が、自社の研究開発に関わる固定費の存在です。
市場ではそのための活動により価値提供機会が次々と見つけられるわけですが、ここでの『価値づくり』の難しさの一つが、その価値実現に必要な技術を予め予測し自社で用意しておくことができないことです。
したがって、新たな技術の必要性が出てきた時点で、その技術をできるだけ短時間で手に入れられるようにしておかなければなりません。また、一度取り組んだテーマも、研究開発途上での環境の変化や、当初目標の達成が困難になるといったことは当然起こりますので、そのような場合、テーマは中止、もしくは方向転換をしなければなりません。
しかし、社内にそのテーマに取り組んでいる研究者がいる。すなわち、社内に固定費が存在すれば、そのテーマの中止には難しい判断が伴います。特にそのテーマだけではなく、その研究者の専門分野から撤退するといった場合には、その判断はより難しくなります。
以上の課題を、オープンイノベーションを積極的に活用し、現状の研究開発費の一部を変動費として機動的に使えるようにすることで、解決することができます。
企業活動においては、望むと望まざるにかかわらず売上の変動は避けられません。売上が減少した場合、費用が固定化されていると、固定化された固定費用が全額そのまま費用として掛かり、利益の確保は困難となります。
しかし、固定費を持たず、売上の変動に応じて費用を変動させることができれば、売上減少に対して、変動費を減少させれば良いので、利益の確保がより容易になります。
一方で、そもそも研究開発は将来への投資であるので、売上が減少しても簡単に減らすべきではないという議論はあり、それは正しい議論であると思います。しかし、それが長期的な傾向であれば、話は異なります。そのためにも、研究開発にオープンイノベーションを積極的に活用し、研究開発費の一部を変動費化しておくことで、研究開発費をフレキシブルに運用する体制を作ることができます。
企業の経営効率を表す指標にROAがあります。ROAは以下の式で計算されます。
ROA = その期に生み出された現金 ÷「資産」
(「資産」は、負債と資本の合計で、企業経営に必要な現金)
企業活動は、突き詰めると高い経営効率を実現することであり、その経営効率を示す指標がROAです。固定的な人員や設備を持つと、そのための資金が必要となるので、ROAの分母の「資産」が増加し、ROAが悪化するという問題があります。
研究開発費の多くが実質的に固定費であり、オープンイノベーションを積極的に活用するこ...
とで、従来社内で抱えていた固定費の一部を変動費化することで、ROAを向上させることができます。