『価値づくり』の研究開発マネジメント (その17)
2016-12-26
前回まで、オープンイノベーションの経済学について解説しました。今回からは、オープンイノベーションの心理学について、解説します。
日本企業は、オープンイノベーションへの取り組みが欧米企業に比べ遅れています。その大きな理由が、これまで自社内の組織力を強みとして一気通貫のビジネスモデルを展開してきた企業にとって、その重要な一部を外部に依存するということについての、経営者サイドの「漠然とした不安や怖さ」ではないかと思います。その「漠然とした不安や怖さ」の原因を考えてみると、次の3点があると思います。
オープンイノベーションを積極的に進めるということは、長年にわたり収益を創出してきた基盤であるビジネスモデルを大きく変えることですので、自社には心理的な大きな抵抗が生まれます。
外部の技術やアイデアを活用して、本当に顧客や市場に受け入れられる新たな価値が創出できるのかについて、確信が持てないということもあると思います。
前回のオープンイノベーションの経済学の中で議論した「取引コスト」が具体的にどのようなもので、またそれへの対象法が分からないということもあるのではないかと思います。
一つ目のコアの活動を手放すことへの心理的抵抗に対しては、これを機会に自社の強みの本質を見極めるということをお勧めします。驚くほど多くの企業が、自社のことでありながら自社が事業を続けられてきたその本質の強みについては理解していないものです。自社の本質の強みを見極めることができれば、その部分は大事にしながらも。他の部分は外部に依存するという判断をすることができます。
新しいこと、すなわち良く知らないことに取り組むことには、当然リスクが付きまといます。しかし、リスクをとることを躊躇していては、新しい果実を得ることはできません。オープンイノベーションはこれまで議論してきたように、「本質的」に正しい経営の道です。正しい道であるので、失敗のリスクをとって前に進めましょう。ただし、最初から大きな失敗を犯しては、その後の活動の継続は望めません。小プロジェクトを重ねることで、成功の実績を作っていくことが必要です。多くの成功している企業は、このようなアプローチをとっています。
GEでオープンイノベーションを担当するディレクターが、「オープンイノベーションは約10年前から米国の産業界に広がりはじめましたが、まだ、GEを含む企業の社内的なプロセスも、十分に洗練されていま...
せん。しかし、今後数年でそうした体制は急速に整備されていくと思います。」(日経ビジネスONLINE「GEはオープンイノベーションで社内外の壁を崩す」2015年5月11日)と述べているように、現状でオープンイノベーションの展開方法が明確に決まっている訳ではありません。したがって、とにかく早く取り組み、そこから失敗を含め学び、自社の中にノウハウを蓄積し、それを自社の強みとするようなオープンイノベーションに対する積極的な姿勢が、企業に求められています。