『価値づくり』の研究開発マネジメント (その19)

 
 
  研究開発担当者のオープンイノベーションへの抵抗の要因として、前回のその18で解説した「組織のホメオスタシス」の他にも、自分の専門外の活動への抵抗があります。今回はこのテーマを解説します。
◆関連解説『技術マネジメントとは』
 

1. 必要性を理解しても抵抗する

 
 仮に研究者がオープンイノベーションの必要性を認識しても、これまでの自分の得意としてきた専門領域や、関心の対象の外での新たな知識の習得が必要とされる活動という認識により、『オープンイノベーションの導入に抵抗』するということがあります。特に研究者の場合、自分の専門領域で実績を挙げることが個人的な目標でもあり、モチベーションの源泉となっています。専門外の領域や、技術開発以外の活動には関心は低く、その結果その抵抗は声高な積極的な抵抗ではないものの、研究者が主体的に取り組まないという静かな抵抗の形をとります。オープンイノベーションを推進する側からすると、積極的な抵抗ではないために、むしろ問題はより厄介かもしれません。
 
 オープンイノベーション推進の活動に対して社員による面従腹背が発生し、その結果その活動は暖簾に腕押し状態に陥る可能性があります。積極的な強い抵抗は、オープンイノベーションの推進側にとって抵抗は明確に認識できますし、場合によっては推進側も抵抗排除に向けて強く出るということもあるでしょう。しかしこのような静かな抵抗においては、推進側がオープンイノベーションの必要性を理解してくれていると思っていても、オープンイノベーションが遅々として進まないという状況になります。
 

2. 研究開発担当者のミッションの再定義

 
 この問題の対処として、会社側はオープンイノベーション推進を強く掲げるだけでなく、この方針を研究者個人のミッションにまで反映させるということが重要です。まさに研究者のミッションを『価値づくり』、すなわち顧客にとっての大きな価値を実現することとすることとする必要があります。
 
 研究者にとって、自分の専門分野を究めるということを一つの重要な目的とすることは決して悪いことではありませんが、その上位に来る究極の目的、自分の存在価値は、あくまで『価値づくり』であり、仮に『価値づくり』と『自分の専門分野を究める』という目的が相反する場合には、より上位の『価値づくり』を優先するという考え方です。その上で、研究者一人一人、オープンイノベーションを『価値づくり』実現の重要な構成要素として位置付けてもらうことが必要となります。
 

3. 経営陣によるオープンイノベーションの必要性の認識

 
 オープンイノベーションを個人のミッションにまで反映させる訳ですから、企業側もオープンイノ...
ベーションを単なる経営の一手段と位置付けるだけでは不十分です。経営陣もオープンイノベーションは今後の企業の存続のため、すなわち『価値づくり』を継続的に実現するために不可欠で本質的な活動であることを認識しなければなりません。加えて、この連載でもオープンイノベーションの経済学という言葉を使って説明してきたように、そもそもオープンイノベーションは企業にとって極めて有効な活動でもありますので、企業にとって本来的に進むべき道である点も同様に理解しなければなりません。
 
 

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