ヒューマンエラー対策の進め方

 
 

 ヒューマンエラー(ポカミス)とは、人間が機械や工具を使って作業する場合などで、人間が行うべき作業を適切に行わない事により生じるエラーです。この解説では、ヒューマンエラーをゼロにする7つのアプローチ+未然防止の仕組みについて具体的に解説します。

◆関連解説『ヒューマンエラーとは』

 ヒューマンエラーは多くの場合、「意図しないうっかりミス(ポカミス)」で、人間の認知、判断、行動と機械などとのミスマッチで起きていると言われていますが、ミスを再発させないためには、その直接表面化した事象を捉えるだけでなく、ミス誘発を防止できなかった管理プロセスの不備・欠陥に注目し、原因を捉える必要があります。

 最近クローズアップされているのが、システムや組織の中のヒューマンエラーです。クレームや事故の直接の原因は作業ミス、あるいは故意による手抜き、改ざんなどですが、ヒューマンエラーを起こすに至った原因は何か、また、それが市場に流出してしまったのはなぜか、近年、これらをシステム的、組織的な観点でヒューマンファクターを捉えることが重要になっています。手法のVTA(Variation Tree Analysis)/ETA(Event Tree Analysis)は、主にハードウエアを対象としていたFTA手法とは異なり、事故発生における人間行動の背後に潜む人的要因を解明するために使われます。

 同じような不良の再発、うっかりミスの誘発、一つ一つ要因を潰しても次から次と類似の間違いが発生する。工場のヒューマンエラー(ポカミス)対策がうまくいかない理由はこのような状況が改善されないからです。

 だからと言って、不注意、ポカミスの原因を大脳生理学の分野に持ち込むのは大きな間違いです。誤認識や、判断ミスがなぜ起こるのか。これをいくら考えても防止対策は得られません。それよりも、人間はミスを犯すものという前提で、対策を講じることです。

 ミスを犯さないためには「ポカヨケ」「作業手順の教育」「検査工程を追加する」などの対策は、詳細に各種解説書で書かれている内容です。でも待ってください。そんな事は判っていても、「人の入れ替えが激しい」「人が不足している」「多品種少量生産で対策が追いつかない」などが現実の姿です。現場の実態を理解した上で、どうするのか。ここが重要なポイントです。

 従来、工場のヒューマンエラーは、現場の作業ミス、作業モレなどにダブルチェックとポカミス対策、ヒヤリハット対策活用が中心となっていましたが、近年、企業風土や組織、管理の不備、欠陥を背景としたヒューマンエラーがクローズアップされ、単なる工程のポカヨケ対策だけでは、ヒューマンエラー防止は困難となっています。

 製品・サービスの多様化、市場の厳しい品質要求の中で、工場は人手不足の中、短納期、多品種少量生産に対応していかなければなりません。しかし、品質管理のしくみは、大量生産時代に導入された形がそのまま残っており、形骸化が進んでいます。品質管理活動の形骸化は、いずれは市場クレームや事故・災害のリスクにつながり、最近話題となっている様々な市場問題は決して他人事ではありません。

 ヒューマンエラーの再発防止や予防には、人の手で行っていた冗長な作業を分析し、作業手順、判断基準の明確化・容易化・代替化・排除のうちどれをどのようにデジタル技術にゆだねれば有効なのか、あるいは本当に費用対効果のよいAI・IT化なのかどうか、という見極めが大切です。

 ヒューマンエラーを防止するには、工程設計段階で予防対策を講じておく事が重要であり、その時人は本来エラーするものという前提に立ち、それをカバーするシステムを設計して運用していく必要があります。それには次の7つのアプローチ+未然防止の仕組みが基本です。 
 

1. 事実に基づく分析と標準化

 
  ○ :正味(付加価値がある仕事)、→:移動、▽:手待ち、□:検査 の記号を使って行う。この手法は IE(Industr ial En gineering)という作業分析・ 改善手法として有名な手法であり、この手法を用 いて分析すると、作業改善面と同時に、作業上多くのヒヤットが発見されます。ブレーン・ストーミング方式でなく現場、現実の観察が重要と言うことが理解できるのです。
 
 
 

2. ヒューマンエラー予防処置評価シート

 
  起こり得るヒューマンエラーを、各工程ごとに列挙し、発生防止策、流出防止策を講じます。生産が始まる前に実施し、QC工程表に対策を盛り込むのです。起こりうるヒューマンエラーは、過去事例の蓄積 データからピックアップします。
 
 

3. ヒヤリハット報告

 
  作業中ミスを起こしそうになった内容を記録し、関係者で原因究明と対策を講じます。設計変更、工程変更などの初期品に対し実施し、結果をQC工程図へフィードバックします。
 
 

4. 人がミスしにくい工程の設計

 
  作業の対象となる物の形状・色、作業で使用する設備、作業指示票の様式、作業の手順などの作業方法 (作業を構成する人以外の要素)を工夫します。
 

 ① フールプルーフ

 
  作業を飛ばして先に進もうとするとアラームを鳴らすなど、先に進めない仕組みに設備機器を設計する(ポカヨケ)
 

 ② フェールセーフ

 
  設備等故障が生じたとき、操作手順を間違えた時、不良や事故に結びつくことなく安全側に作動して品質や安全が確保できるように設計する。そのためには、工程の5Mについて潜在する不具合を検出するために工程FMEAを実施します。
 

5. 人がミスしないように訓練する

 
 ①「知らないことはしない」「知らないことは聞く」の躾を徹底する
 
 ②「Know How」だけでなく「Know Why」教育で、なぜという原理を教える
 
 ③ 規則型マニュアルと教育型マニュアルを区別して作成する
 
  「規則型」:手順どおりに従わなくてはならない強制的な手順書、規則を説明し、遵守を説得する。そして納得し、遵守の態度で実行していることを確認する
 
  「教育型」:初心者へのガイド、先人の知恵、失敗しないやり方などのノウハウをまとめたマニュアル
 
 

6. 役割の明確化とコミュニケーション

 

 ● 役割の明確化

 
  各部署の役割、部長、課長、係長などの職務権限、責任範囲の明確化、業務分掌・職務分掌を作成し周知する
 

 ● コミュニケーション手段

 
  朝礼:4,5人のグループごとに、前日の結果、今日の予定、注意事項、ヒヤリハット報告
  不良発生時のミーティング:現場に関係者を集め、現場・現物を見ながら再発防止策
 

 ● 情報ルートの明確化

 
  指示通達ルート、報告ルートの明確化を図る。設計変更、納期変更等の情報ルート。異常発生時の報告処理ルート。
 

7. 日常管理の改善サイクルの確立

 
  ヒューマンエラーを防止するためには、「日常管理の改善サイクル」が正しく回っていなければならない。問題を放置したり、正しい管理手法を知らなければ改善サイクルは正しく回らない。
 
 ① 製造工程の管理項目を決める(工程設計)
 ② 日常管理の仕組みを作る(現場の管理者)
 ③ 仕組を守る、守らせる(現場の管理者)
 ④ 目で見る管理(現場小集団、管理者)
 ⑤ 異常発見(現場小集団、管理者)
 ⑥ 問題を放置せず原因究明と対策(現場小集団、管理者)
 ⑦ 日常管理のしくみへフィードバックする(現場小集団、管理者)
 

8. ヒューマンエラー未然防止の仕組みとは

 

 ヒューマンエラー(ポカミス)の再発防止を図るためには、どのような対策を行えばいいでしょうか。

 

 

 手順書をいくら直しても、作業者をいくら再教育しても「次から注意しなさい。」と言っているに過ぎず、ポカミスは無くなりません。

 ヒューマ...

ンエラーを根本からなくすには、しくみの対策が必要です。エラーが発生してから「なぜ発生したんだろうか」という発想から「このエラーはどうして防止できなかったのか」「どうやったら再発しなくなるのか」という発想に切り替え、日常の業務の中で「未然防止」をどうやったら実現できるのか、頭に浮かべる必要があるのです。

 しかし、一般的に「未然防止」とは何でしょうか。「日常業務のしくみ」とは何でしょうか。どのことを指しているのでしょうか。はっきり「これだ!」と理解している管理者は多くないのです。では、「未然防止」をどうやったら実現できるのでしょうか。

 それは、ずばり次の3つのしくみづくりを指します。

 (1) 工程指示のしくみ・・・5Mの管理項目を明記したQC工程表の作成

 (2) 日常管理のしくみ・・・重点管理・先手管理、日常改善活動、教育訓練など

 (3) ルール順守のしくみ・・・自工程検査、自働化・ポカヨケ、第三者検査

 

 つまり、ヒューマンエラーが再発するのは、この(1)~(3)のしくみの不備または欠陥があるからです。例えば、ヒューマンエラーを予防するためQC工程図を作成する時点で「未然防止」の管理項目をあらかじめ組み込んでおきます。

 ヒューマンエラー(ポカミス)の再発防止を図るためには、日常管理のしくみを「もぐらたたき」から「未然防止」の管理の考え方に切り替えて行く必要があるのです。

 

  

 

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