時々、私が行なっているステージゲート法のセミナーで参加者の皆さんから出される質問に、テーマの選定には「技術の目利き」が必要かというものがあります。今回は、ステージゲート法における「技術の目利き」について考えてみます。
1.技術の目利きとは
技術の目利きとは、何を意味するのでしょうか?一般に意味するところは、テーマの筋を見極める能力を持つ人のことです。その能力は様々な学びから獲得されたというよりも、むしろそのような技術の筋を見極めるセンスを元々持った人材が存在し、通常そのような特殊能力を持つ人材は、社内には1人もしくは数人しかいないというように理解されているようです。まさにカリスマ的な存在です。
技術の目利きが果すことが求められる役割には2つあります。一つは、その技術がまだ研究開発の途上にある段階で、ある機能を実現する上で適切な技術なのか?他により優れた技術はないのか?という技術面での的確性を見極める能力を持つことです。もう一つが、その機能は最終的にどのような分野で利用され、魅力的なリターンを期待できるのか?という市場面を見極める能力です。 つまり、「技術の目利き」は、技術と市場の両者について鋭い洞察力を持ち、そのテーマの筋を見極める能力を持っている人です。
2.「技術の目利き」で思考停止
このような技術の目利きが社内にいると良いでしょう。確かに世の中にはそのような人たちがいます。例えば、ソニーの森田さん、井深さん、大賀さんといった人たちは、技術にも市場にもある種、動物的な勘を持ち、実際にそれら技術を魅力的な製品に結実させることに成功している人たちです。 しかし、世の中の議論では、「技術の目利きが必要である」で、思考が止まっており、どう技術の目利きを獲得するのか、もしくは育成できるのか、育成できるとしたらどのようにするのかという議論がありません。短に「テーマの筋を的確に評価できる特殊な能力を持つ人材が必要である」という主張と何ら変わることはありません。
3.「技術の目利き」を実現する方法
経営の実際として、一人のカリスマ的な技術の目利きに頼るということは、企業はゴーイング・コンサーンであるという存在からして望ましくありません。技術の目利きの機能が常に社内にあることが、経営として目指すべき方向です。そして、私はそれは2つの組織的な展開によって実現することができると考えています。
上で述べた一つ目の技術面での的確性については、自社がより広い技術の知識や経験を持ち、それを組織的に共有・強化する仕組みにより実現することができます(自社が予め決めた技術のドメインの範囲内でという前提付きです)。一人の研究者や技術者が広い技術の経験を持つということではなく、組織内に様々な関連する技術を持つ人材を揃え、必要に応じて組織としてそのような対応をするということです。3Mのテクノロジープラットフォームに基づく展開はその例です。
そしてもう1つの方向性が、ステージゲート法の活用です。ステージゲート法によって2つの点から、技術の目利きを実現することができます。
4.カリスマの「技術の目利き」の代替としてのステージゲート法
ステージゲート法のゲートでは、テーマの評価項目が決められています。これは「技術の目利き」が持つべき視点そのものです。ステージゲートでは、その評価項目は明示されていて、各ゲートの前のステージでは、その評価に向けてプロジェクトチームのメンバーは技術および市場に関する様々な活動を通して自分達でその点の見極めを行います。つまり通常であれば、技術の目利きがその評価の場で指摘をしなければならない点について、予め必要な準備期間と予算、そして人材を投入して調査、検討をすることができるのです。
例えば、その技術が本当に目的とする機能を実現する上で、最も適切が技術なのか?という点については、その機能を実現するとその段階で考えられるすべての技術を遡上に上げ、検討をします。このような活動は簡単とは言いませんが、社内には組織として関連する技術の知見も活用できることもあり(上の3M例参照)、必ずしもカリスマが持つような特別な能力やセンスを必要とするものではありません。
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