サービスマネジメント 製造業における4つの指針

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 前回の記事で、全ての産業においてサービスが競争優位そのものになってきているというお話しをいたしました。そこで今回は「製造業のサービス」に焦点を当てて、サービスがどのように製造業の事業に貢献できるのか、その可能性を4つの方向性で考えてみたいと思います。

1.製造業におけるサービス

 近年、製造業において注目されているキーワードを見てみると、製造業においてもサービスの重要性が高まっていることが分かります。「モノからコトへ」「モノ売りからソリューション売りへ」「製造業のサービス化」これらのキーワードには様々な解釈があると思いますが、ただ単にモノを作って販売するのではなく、お客様の期待に応える経験・解決策・サービスに仕立てて提供する必要があるということを指していると思われます。製造業において「サービス」というキーワードは、もはや無視できない存在になってきているのです。

 確かに製造業において、従来からサービスに注力している組織があります。それは、製品販売後の「保守サービス部門」や、製品販売前の「営業部門」、更には定常的に発生するお客様からの問合せに対応する「コンタクトセンター部門」などです。これらの部門では、お客様に満足して頂き、受注やリピート購入をして頂くためのサービス設計に早くから取り組んできています。しかし会社全体やビジネスモデル全体から見ると、まだまだ部分的な取り組みであり、事業に大きく貢献するという視点での取り組みができている企業は少ないようです。 

 そこで製造業において、「サービス」を事業に貢献させるための、4つの指針をご紹介します。

 

2.サービスが製造業に貢献する4つの指針

2.1 サービスで事業を収益化する

 製造業においては、例えば保守・メンテナンスといったアフターサービスは、「無料」や「おまけ」「面倒な業務」としか捉えていない企業が多いようです。お客様は、製品を購入した後にはある程度の期間、製品を使い続けてくれます。このお客様に対しては、保守・メンテナンスサービスの提供機会は定期的かつ安定的にあると言えます。これは、変化の激しい経済環境下でいつも製品を新規のお客様に販売し続けることと比べれば、極めて安定したビジネスになります。更には、追加の営業もほとんどかけることなくアフターサービスを購入して頂けるため、利益率が製品販売に比べて高いという魅力もあります。

 このように、サービスを収益化することで、事業をストックビジネス化している企業が増えています。

 

2.2 サービスで製品を差別化する

 近年、製品のライフサイクルがますます短くなっており、新製品をいち早く市場投入しても、あっという間に競合企業にキャッチアップされて、同様の製品が市場に溢れてしまいます。このようなコモディティー製品においては、もはや「機能で差別化」はできなくなってしまい、過当な価格競争に巻き込まれてしまいます。そこで注目されているのが、「サービスでの差別化」です。

 よく挙げられる例ですが、アップルのi-podが爆発的に売れたのは、製品自体の機能性にも増して、音楽をダウンロードしたりプレイリストを編集することができるi-Tunesのサービスに価値があったからです。これはまさに、i-Podという製品をi-Tunesというサービスで差別化した良い事例です。

 また、例えば産業機械メーカーの場合、装置の性能を向上させることも重要ですが、装置の故障に365日24時間いつでも即座に対応するアフターサービスを整えて、営業時間内しか対応ができない他社に対して「サービスで差別化」をするということも可能です。

 製造業の競争の選択肢の1つとして、サービスで勝つということを考える価値は大いにあるでしょう。

 

2.3 サービスを通して製品の魅力を伝える

 製品とサービスの大きな違いの一つが、購入前に試すことができるかどうかという点にあります。つまり製品は購入前に店頭で見たり触ったり他社品と比べたりということが簡単にできます。しかし、お客様のニーズがただ単に「モノが欲しい」というものから経験や価値にシフトするにつれて、店頭で製品を並べるだけでは価値を感じて頂けないということが見られるようになってきました。そこでサービスでの経験を通して、製品の価値を感じてもらうという取り組みが活発になってきています。

 例えば、子供用玩具の輸入・開発・販売をしているボーネルンドでは、おもちゃを陳列販売するだけでなく、店舗内にプレイスペースが併設されていて、販売されているおもちゃや狭い室内では遊べない大きな遊具で実際にあそぶことで、製品の良さを体感できるようになっています。また、ヘルスメーターのメーカーのタニタが「タニタ食堂」で健康に良い食事を提供したり、調理器具のルクエの販売企業が「ルクエカフェ」でルクエでの調理と食事を体験してもらったり、サービスを通して製品の価値を体感してもらうことで、ファンを増やそうという取り組みが活発になってきています。

 

2.4 サービスだけを販売する

 最後にご紹介するのは、製造業でありながら「サービスだけを販売」することで成功しているケースです。例えば米国のGEは、航空機のエンジンを製造して航空機メーカーに販売していましたが、最近では航空会社に対して飛行時間に応じて航空機エンジンをリースし、リース料と保守・メンテナンス料でビジネスを成功させています。他にも、空調機器メーカーが企業に対して空調機を販売するのではなく、無料で設置した空調機を遠隔操作で制御して「快適な空調環境を提供するサービス」だけを販売しているケースもあります。

 ここでのポイントは、「サ...

 前回の記事で、全ての産業においてサービスが競争優位そのものになってきているというお話しをいたしました。そこで今回は「製造業のサービス」に焦点を当てて、サービスがどのように製造業の事業に貢献できるのか、その可能性を4つの方向性で考えてみたいと思います。

1.製造業におけるサービス

 近年、製造業において注目されているキーワードを見てみると、製造業においてもサービスの重要性が高まっていることが分かります。「モノからコトへ」「モノ売りからソリューション売りへ」「製造業のサービス化」これらのキーワードには様々な解釈があると思いますが、ただ単にモノを作って販売するのではなく、お客様の期待に応える経験・解決策・サービスに仕立てて提供する必要があるということを指していると思われます。製造業において「サービス」というキーワードは、もはや無視できない存在になってきているのです。

 確かに製造業において、従来からサービスに注力している組織があります。それは、製品販売後の「保守サービス部門」や、製品販売前の「営業部門」、更には定常的に発生するお客様からの問合せに対応する「コンタクトセンター部門」などです。これらの部門では、お客様に満足して頂き、受注やリピート購入をして頂くためのサービス設計に早くから取り組んできています。しかし会社全体やビジネスモデル全体から見ると、まだまだ部分的な取り組みであり、事業に大きく貢献するという視点での取り組みができている企業は少ないようです。 

 そこで製造業において、「サービス」を事業に貢献させるための、4つの指針をご紹介します。

 

2.サービスが製造業に貢献する4つの指針

2.1 サービスで事業を収益化する

 製造業においては、例えば保守・メンテナンスといったアフターサービスは、「無料」や「おまけ」「面倒な業務」としか捉えていない企業が多いようです。お客様は、製品を購入した後にはある程度の期間、製品を使い続けてくれます。このお客様に対しては、保守・メンテナンスサービスの提供機会は定期的かつ安定的にあると言えます。これは、変化の激しい経済環境下でいつも製品を新規のお客様に販売し続けることと比べれば、極めて安定したビジネスになります。更には、追加の営業もほとんどかけることなくアフターサービスを購入して頂けるため、利益率が製品販売に比べて高いという魅力もあります。

 このように、サービスを収益化することで、事業をストックビジネス化している企業が増えています。

 

2.2 サービスで製品を差別化する

 近年、製品のライフサイクルがますます短くなっており、新製品をいち早く市場投入しても、あっという間に競合企業にキャッチアップされて、同様の製品が市場に溢れてしまいます。このようなコモディティー製品においては、もはや「機能で差別化」はできなくなってしまい、過当な価格競争に巻き込まれてしまいます。そこで注目されているのが、「サービスでの差別化」です。

 よく挙げられる例ですが、アップルのi-podが爆発的に売れたのは、製品自体の機能性にも増して、音楽をダウンロードしたりプレイリストを編集することができるi-Tunesのサービスに価値があったからです。これはまさに、i-Podという製品をi-Tunesというサービスで差別化した良い事例です。

 また、例えば産業機械メーカーの場合、装置の性能を向上させることも重要ですが、装置の故障に365日24時間いつでも即座に対応するアフターサービスを整えて、営業時間内しか対応ができない他社に対して「サービスで差別化」をするということも可能です。

 製造業の競争の選択肢の1つとして、サービスで勝つということを考える価値は大いにあるでしょう。

 

2.3 サービスを通して製品の魅力を伝える

 製品とサービスの大きな違いの一つが、購入前に試すことができるかどうかという点にあります。つまり製品は購入前に店頭で見たり触ったり他社品と比べたりということが簡単にできます。しかし、お客様のニーズがただ単に「モノが欲しい」というものから経験や価値にシフトするにつれて、店頭で製品を並べるだけでは価値を感じて頂けないということが見られるようになってきました。そこでサービスでの経験を通して、製品の価値を感じてもらうという取り組みが活発になってきています。

 例えば、子供用玩具の輸入・開発・販売をしているボーネルンドでは、おもちゃを陳列販売するだけでなく、店舗内にプレイスペースが併設されていて、販売されているおもちゃや狭い室内では遊べない大きな遊具で実際にあそぶことで、製品の良さを体感できるようになっています。また、ヘルスメーターのメーカーのタニタが「タニタ食堂」で健康に良い食事を提供したり、調理器具のルクエの販売企業が「ルクエカフェ」でルクエでの調理と食事を体験してもらったり、サービスを通して製品の価値を体感してもらうことで、ファンを増やそうという取り組みが活発になってきています。

 

2.4 サービスだけを販売する

 最後にご紹介するのは、製造業でありながら「サービスだけを販売」することで成功しているケースです。例えば米国のGEは、航空機のエンジンを製造して航空機メーカーに販売していましたが、最近では航空会社に対して飛行時間に応じて航空機エンジンをリースし、リース料と保守・メンテナンス料でビジネスを成功させています。他にも、空調機器メーカーが企業に対して空調機を販売するのではなく、無料で設置した空調機を遠隔操作で制御して「快適な空調環境を提供するサービス」だけを販売しているケースもあります。

 ここでのポイントは、「サービスも提供できる製造業」ではなくて、「製品製造もできるサービス業」になれるかどうかです。つまり、自社のサービスの価値を最大限発揮するために製品を作るということです。この視点に立つと、「製造ができる」ということは、他のサービス会社に比べて極めて価値のある強みを持つことができると言えます。

 

 以上4つの指針を考慮して、サービスを製造業の中心に据えて収益向上や競争優位性の向上を実現することで事業に大きく貢献させることが、製造業における「サービス化」成功のポイントになります。

 

3. 製造業のサービス化を成功させるための第一歩

 最初に取り組むべきことは「意識をサービス化」することです。サービスの本質的な理論や定義を理解すると、例えばこれまでの製造業におけるサービス提供が、いかに「製造業的価値観」でドライブされてきたかに気付きます。つまり「良いサービスは喜ばれる」という価値観で勝手に作ったサービスを提供してしまっているということです。これではサービスでお客様に満足して頂くことは出来ません。「お客様の事前期待」を知らずして、サービスの提供はできないのです。

 サービスの本質を理解して身に付けることで、こういったことに気付けるようになることが第一歩なのです。その意味でも「サービスサイエンス」は製造業のサービス化に貢献できる価値ある理論の1つとなるでしょう。

 

 

 

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この記事の著者

松井 拓己

数少ないサービスサイエンスの専門家として、業界を問わずいろんな企業・団体の方々に面白がっていただいております。

数少ないサービスサイエンスの専門家として、業界を問わずいろんな企業・団体の方々に面白がっていただいております。


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