本質的なニーズ、顧客は際限なくより高い水準を求める!

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1.本質的ニーズは市場の将来を読む指標

 市場は様々な変化促進要因により、変化しています。しかし、どのような市場要因にも影響されない顧客のニーズというものもあります。例えば自動車で言えば、短時間に、安全に、快適に移動するというニーズは、どのような時代が来ようが、変化しません。また、これらの本質的ニーズについては、顧客は際限なくより高い水準を求める傾向が強いようです。

 

2.本質的ニーズは理解されにくい

 自動車メーカーの例で考えると、これら本質的ニーズは当たり前に理解されていると思われそうですが、多くの企業において、この本質的ニーズは適正に理解されていないように思えます。私のクライアントである通信設備メーカーは、これまで客先から提示された仕様どおり、できるだけ低コストで生産することに注力してきました。この顧客仕様には、既に本質的ニーズが翻訳され具体的に示されています。これまでこの企業は、この理由から本質的ニーズを理解する必要性がありませんでした。

 しかし近年同社を取り巻く環境は大きく変化し、客先から仕様書が出てきた段階で対応していては受注が困難という状況になり、事前に本質的ニーズに対応する提案を行うことが極めて重要になってきています。この企業が新たに認識したニーズの一つは、据付の容易さです。従来、この設備は顧客側が別途据付工事業者を手配し、別契約で据付作業を行っていました。しかし、顧客にとっては、この工事が容易になれば、工期も短縮し、コストも低減できるのです。

 同社が受注形の企業だからこそ、環境変化の中で新たに本質的ニーズを理解するメリットが出てきたという言えるかもしれません。しかし、標準品を自ら企画・開発・生産する企業でも、本当に顧客の本質的ニーズに基づいて企業活動を行っているかは大いに疑問です。

 別の例として私の自宅のガスレンジは、3つ口の従来のタイプなのですが、ふきこぼれを拭く時に大変不便なのです。大きな五徳を外さなければならず、またその置き場もこまります。またバーナーの回りには別のスカートがついており、この汚れがなかなかとれません。近年、ガスレンジの大きな脅威であるIHレンジは上面が平面で、大変拭きやすい設計になっています。それに対し危機感をもったガスレンジメーカーは、やっと拭きやすいタイプを出すようになりました。それまでは長い間旧態依然としたデザインの製品を販売し続けてきたのです。料理をしていれば吹きこぼれはどうしても起こることで、これを拭きやすいデザインは、顧客の本質的ニーズのはずです。ガスレンジメーカーは、この本質的ニーズを放置してきたと言わざるをえません。

 このように、本質的ニーズをきちんと認識するという活動は、多くの企業において実施されていないようです。

 

3.本質的ニーズに対応して成功した例

 以上の例に対し、本質的ニーズに敏感な企業は成功してきています。

(1)シマノの自転車部品

 シマノの商品企画において重視しているのが、顧客が本質的に求める「機能」に基づく商品企画です。その本質的な「機能」を充足するにはどんな商品が必要か、から考えるわけです。例えば、速く、快適にそして安全に自転車に乗れるということです。「速く」や「快適性」という機能の追求から生まれ、大きな成功をおさめたのが、変速操作を簡単にできるSISやSTIといった自転車部品なのです。

(2)ホンダのエアバック

 ホンダのエアバックは開発に10年以上の長い期間を費やしました。その過程で、開発の中止の動きもありましたが、「安全性」を自動車の本質的ニーズと捉え研究開発を続け、最終的にご存知のように実用化に成功しました。今ではエアバックは、ほとんど全ての自動車に搭載されています。

 

4.本質的ニーズが理解されない理由

 本質的ニーズは、通常は見つけるのが難しく顧客も気が付いていないような潜在ニーズではありません。本質的ニーズという、少し創造力を働かせれば見つけることができるこの部分に目を向けない理由は、そもそも企業が顧客ニーズ起点の経営になっていないからだと思っています。

 企業は、顧客のなんらかのニーズを満たすことで実現できる顧客提供価値の対価を収益源としています。しかし、この点を理解していない企業が非常に多いという実感です。過去の製品に搭載されてきたという理由だけで従来の機能を盛り込むが、新たなニーズを探すという姿勢が弱いのです。もっぱら自社は、「製品」を惰性で出し続けているだけで、顧客のニーズを充足することで顧客提供価値を拡大...

1.本質的ニーズは市場の将来を読む指標

 市場は様々な変化促進要因により、変化しています。しかし、どのような市場要因にも影響されない顧客のニーズというものもあります。例えば自動車で言えば、短時間に、安全に、快適に移動するというニーズは、どのような時代が来ようが、変化しません。また、これらの本質的ニーズについては、顧客は際限なくより高い水準を求める傾向が強いようです。

 

2.本質的ニーズは理解されにくい

 自動車メーカーの例で考えると、これら本質的ニーズは当たり前に理解されていると思われそうですが、多くの企業において、この本質的ニーズは適正に理解されていないように思えます。私のクライアントである通信設備メーカーは、これまで客先から提示された仕様どおり、できるだけ低コストで生産することに注力してきました。この顧客仕様には、既に本質的ニーズが翻訳され具体的に示されています。これまでこの企業は、この理由から本質的ニーズを理解する必要性がありませんでした。

 しかし近年同社を取り巻く環境は大きく変化し、客先から仕様書が出てきた段階で対応していては受注が困難という状況になり、事前に本質的ニーズに対応する提案を行うことが極めて重要になってきています。この企業が新たに認識したニーズの一つは、据付の容易さです。従来、この設備は顧客側が別途据付工事業者を手配し、別契約で据付作業を行っていました。しかし、顧客にとっては、この工事が容易になれば、工期も短縮し、コストも低減できるのです。

 同社が受注形の企業だからこそ、環境変化の中で新たに本質的ニーズを理解するメリットが出てきたという言えるかもしれません。しかし、標準品を自ら企画・開発・生産する企業でも、本当に顧客の本質的ニーズに基づいて企業活動を行っているかは大いに疑問です。

 別の例として私の自宅のガスレンジは、3つ口の従来のタイプなのですが、ふきこぼれを拭く時に大変不便なのです。大きな五徳を外さなければならず、またその置き場もこまります。またバーナーの回りには別のスカートがついており、この汚れがなかなかとれません。近年、ガスレンジの大きな脅威であるIHレンジは上面が平面で、大変拭きやすい設計になっています。それに対し危機感をもったガスレンジメーカーは、やっと拭きやすいタイプを出すようになりました。それまでは長い間旧態依然としたデザインの製品を販売し続けてきたのです。料理をしていれば吹きこぼれはどうしても起こることで、これを拭きやすいデザインは、顧客の本質的ニーズのはずです。ガスレンジメーカーは、この本質的ニーズを放置してきたと言わざるをえません。

 このように、本質的ニーズをきちんと認識するという活動は、多くの企業において実施されていないようです。

 

3.本質的ニーズに対応して成功した例

 以上の例に対し、本質的ニーズに敏感な企業は成功してきています。

(1)シマノの自転車部品

 シマノの商品企画において重視しているのが、顧客が本質的に求める「機能」に基づく商品企画です。その本質的な「機能」を充足するにはどんな商品が必要か、から考えるわけです。例えば、速く、快適にそして安全に自転車に乗れるということです。「速く」や「快適性」という機能の追求から生まれ、大きな成功をおさめたのが、変速操作を簡単にできるSISやSTIといった自転車部品なのです。

(2)ホンダのエアバック

 ホンダのエアバックは開発に10年以上の長い期間を費やしました。その過程で、開発の中止の動きもありましたが、「安全性」を自動車の本質的ニーズと捉え研究開発を続け、最終的にご存知のように実用化に成功しました。今ではエアバックは、ほとんど全ての自動車に搭載されています。

 

4.本質的ニーズが理解されない理由

 本質的ニーズは、通常は見つけるのが難しく顧客も気が付いていないような潜在ニーズではありません。本質的ニーズという、少し創造力を働かせれば見つけることができるこの部分に目を向けない理由は、そもそも企業が顧客ニーズ起点の経営になっていないからだと思っています。

 企業は、顧客のなんらかのニーズを満たすことで実現できる顧客提供価値の対価を収益源としています。しかし、この点を理解していない企業が非常に多いという実感です。過去の製品に搭載されてきたという理由だけで従来の機能を盛り込むが、新たなニーズを探すという姿勢が弱いのです。もっぱら自社は、「製品」を惰性で出し続けているだけで、顧客のニーズを充足することで顧客提供価値を拡大しようという姿勢が不在なのです。

 多くの企業の創業時は、ひたすら顧客ニーズに対応しようと努力します。そのために、顧客の視点で製品を必死で考えます。その結果顧客ニーズを強く反映した製品やサービスを出し、それが売れて成功し、これら成功に基づき歴史を重ねていきます。しかし、企業存続の歴史を重ねるにつれ、だんだん顧客ニーズが起点であったことを忘れ、過去に成功した製品の延長線をひたすら走るようになります。過去に成功体験があり、証明済の製品を出すことにはリスクが少ないからです。谷の向こう側の顧客の視点ではなく、谷のこちら側のサプライヤーの視点で市場を見るようになってしまうのです。

 

5.本質的ニーズは経営の中枢

 言い古されてきたことではありますが、本質的ニーズを理解するには、常に谷の向こう側の顧客の視点から市場を見続けようと努力することです。これは企業文化にまで昇華されていなければなりません。経営者は、長期的にこのような企業文化を醸成することを優先させる必要があるのです。

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


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