仕事の教え方・教わり方 儲かるメーカー改善の急所101項(その43)

4、作業を改善する基本

◆ 仕事の教え方・教わり方

(1)  50年前のアルバイト経験 

 50年前のことです。私は日本有数の豪華ホテルの厨房で皿洗いのアルバイトをしていました。皿洗いといっても、大きな台車で運ばれてくる大量の使用済みのお皿を大きな自動皿洗い機の投入コンベア上に並べて置くことと、洗浄されて出てきたお皿を取って別の台車に並べて置くだけの仕事です。

 初日にその職場の先輩(と思った)から、仕事のやり方を教わったのですが、実に簡単な内容でした。「乱暴に置いて皿を割らないように気を付けること」「もし何かあったら、そこにいる社員の人に聞くこと」くらいでした。確かに単純作業に見えました。ですからそんなに教えることもなかったのでしょう。私もそのくらいのことは教わらなくてもできるくらいに思って質問もしませんでした。

 ところが、実際に仕事が始まると、とんでもなく大変でした。台車が来るスピードがとてつもなく速いのです。のんびりコンベアにお皿を置いていたらあっという間に台車が溜まってしまう!そして後工程の人から「はやくしろ!」と怒鳴られます。しかし慌てて急いで置くと皿をぶつけてしまい大きな音が出てまた睨(にら)まれる。私は初日で疲れ果ててしまいました。しかし当時、私にはどうしてもチャレンジしたい目標があり、そのための資金作りだったのでやめるわけにはいかないので続けましたが、とても辛い毎日でした。

 ひと月のアルバイト契約があと1週間で終わろうという時、その職場の偉い人(と思った)が、みんなを集めてスピーチをしました。当時は日中国交回復の時で、これからの一週間はとても忙しくなるけれど、日本にとって大切なことをやるのだからみんな頑張ってほしいとのことでした。

 お話が終わり仕事に戻ったのですが、その方は相変わらずモタモタ動いている私のところに来て「アルバイトさん、手伝ってくれてありがとうね」と言った後に、「この仕事のコツだけどね...」と言って私のモタモタを一気に解消する方法を教えてくれました。加えて、もし少しでも汚れが残ったままのお皿がお客様のところに行くとどうなるか、そしてきれいなお皿をいつも供給できるとどうなるか、などを短い時間でしたがしっかり教えてくださり、最後に「頑張ってくださいね!」と私の肩をポーンと叩いて去って行きました。

 それからの1週間は大パーティーが続いたのでしょう、仕事はとてつもなく忙しかったのですが、私はやる気が出て、いろいろ工夫をするようになり見違えるように仕事ができるようになりました。最初にあの偉い人から仕事を教わっていたらこのアルバイトはもっとずっと楽しかったのに残念だったな…、と思いました。当然ですよね。

 最初の雑な教え方が作業を教えること、次の丁寧な教え方が仕事を教えることだと思いますが、いかがでしょうか。

(2) 工夫とモチベーション

 (1)の50年前のアルバイト経験の説明になります。

 仕事を教えているつもりでも、よく見てみると手順や動作、配置といった作業しか教えていない人が多いものです。

 作業手順を教えることは確かに重要ですが何のために作業して、今の作業は最終製品のどの部分を作っていて、どういう品質が求められているのか、そしてその作業を通じて何を考えて行動しなければならないのか...といったことを自ら考えて行動できるように、本当の意味で仕事について教えなければ応用は利きませんし、教わった本人の成長もなければ技能も上がらないでしょう。(1)に書きました私の皿洗い経験はまさにその例にあたると思います。私は作業だけ教わり、仕事を教えてもらえていなかったので、工夫もできずモチベーションも上がらなかったのです。

 OJT(On the Job Tr...

aining)と称して、作業ばかり教えている監督者も見掛けるのですが、その監督者自身をよく見てみると仕事力が低いことが多いと感じています。一方で作業ばかり覚えて一向に仕事を覚えない人もいるようです。「ナゼ?」、「何のために?」の質問がない人は、作業だけを覚えようとしている表れともいえるでしょう。どちらもレベルが低いのです。

 教える側も教わる側も、仕事をしっかりできるように頑張りましょう!その方が成果もずっと大きいのです。そして楽しいですし。これって大切なことだと思います。

今回の言葉   

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 作業を教えるな、仕事を教えよ。
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「儲かるメーカー改善の急所<101項> 」

    日本経営合理化協会出版局 柿内 幸夫

 

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