汎用3次元CAMの活用 伸びる金型メーカーの秘訣 (その17)

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 今回、紹介する機械加工メーカーは、株式会社W精密です。同社は創業して11年目の比較的若い企業であり、主な事業内容は、産業機械・専用機などで用いられる金属部品の機械加工です。筆者が住む愛知県を含む、ここ中部地方では、同社のような機械加工メーカーが、多くはないが生まれてきています。その創業は、例えば次の2つのようなパターンがあります。
 
・昔からある王道パターン。技術を対価に換えたいというやる気のある経営者によるもの。
 
・加工商社が製造機能まで保有するパターン。家族経営の機械加工業者の営業機能を加工商社が担う形は、中部地方に多いサプライチェーンの形ですが、加工商社に発注するエンドユーザーにおいても、複数の調達先への煩雑な発注業務から開放されるというメリットがあります。
 
 しかし、こうした加工商社を取り巻く環境においては、昨今ますます品質基準が上がっており、また厳しい短納期対応のため、全てを外注業者に依存するのではなく、重要な管理を要する部品については、自社管理のうえで加工した方がよいということで、自社で製造機能を持ち、徐々に内製率を高めていき、自ら加工メーカーとして受注活動を行なっているようです。
 
 取引している顧客は、工具や部品の商社が多く、前述したように、昨今の厳しい品質管理と短納期対応のため、同社のような小回りの効く加工メーカーの存在が欠かせないのです。
 
 また、この中部地域のサプライチェーンにおいては、鋼材の販売業者が商社機能を行うことも多いようです。材料の受注と共に、加工まで請け負うパターンです。これは、一般の加工業者が材料を購入し加工する単価よりも、鋼材販売業者の方が単価・納期面で有利に材料を調達できます。そうした商流から加工メーカーに機械加工が依頼されるケースもあるのです。まさにこうしたサプライチェーンの中に、同社は産声をあげたのです。
 
 3D 
 

1. 商社がキーになっているサプライチェーンでの同社の強み

 
 同社は、マシニングセンターも設備していますが、むしろ汎用フライスを使いこなした一品物の部品加工において、加工よりも段取りの方が多く時間のかかるやっかいで手離れの悪い切削加工をむしろ得意としています。そのため、そうした加工品の発注先の選定に困る加工商社にとっては、同社はありがたい存在です。また、経営者であるO社長は、商社出身で営業経験があり、顧客だけでなく協力会社へのネットワークも広く、切削加工のみならず、研削加工や表面処理など、部品加工全般について一括対応できる点も強みです。
 

2. 3D加工

 
 ある意味、機械加工の業界においては、ソフト及びハードウェアの進化によって、新規参入がしやすくなった面もあります。例えば、工作機械の進化においては、ユーザーインターフェースの進化によって、工具のカタログ条件などを見ながら対話機能を使うことで、習熟度の浅い作業者でも、ある程度の加工ができる時代になりました。
 
 また、その切削工具においても、カタログの中の情報はかなり洗練されており、被削材に対する送り条件や工具の回転速さ、切り込み深さなどが、親切でわかりやすく書かれています。CAMソフトについても、いかにクリック回数を減らして加工データを作ることができるか、といった利便性を追求したものが販売されており、今から切削加工をはじめるといった事業者や作業者にとっては、かなり便利な時代になりました。こうした背景から、プレス加工やプラスチック成形における量産メーカーが、自社で金型製作するといった参入事例も増加しています。
 
 このように、厳しい環境ながら、その反面ツールの進化が進んでいる機械加工業界の中で、同社は受注対応できる間口を広げるため、3Dデータ加工に挑戦することにしました。そこで筆者がCAM選定から技術対応までサポートを行ないました。
 

3. 汎用3次元CAM

 
 同社が購入を決めた3次元CAMは、筆者もライセンス保有し業務に使っているhyperMILLです。hyperMILLは、同時5軸加工の分野でよく知られており、金型専用というよりは、部品加工など汎用的に使える3次元CAMです。同ソフトは、3次元の自由曲面加工に交えて、2D加工や穴加工なども混在した加工についても、簡単に定義でき使いやすいのです。筆者は金型メーカーのみならず、単一工程としての機械加工業の技術コンサルも行うため、さまざまな加工の用途で使える汎用的な3次元CAMを使っています。
 
 同社においては、主力事業である機械部品の切削加工においてCAMを使っていくことは勿論のこと、現在は外注対応になっている金型部品や複雑形状の部品加工の内製化を図っていきます。このように色々な加工で使っていくCAMとしては、まさしくhyperMILLのような汎用的な3次元CAMが効果を発揮します。
 
 早期に費用対効果を出すためのコツは、利便性を高めるために作られているCAM内の機能を、できるだけ多く使っていくことです。筆者のコンサル先企業の改善前は、CAMの便利機能をあまり使えていないことが多いようです。例えば、加工プロセスや工具情報の登録、フィーチャー機能などがそれです。
 
 特に、フィーチャー機能においては、3次元の金型設計に着手している金型メーカーにとって大きなメリットがあります。例えば、hyperMILLのフィーチャー機能を使う場合では、次のような手順を踏みます。
 
(1) 金型をソリッドモデリングで設計する。
(2) 金型設計時、各プレートの穴やポケット部に色属性情報を与える。
(3) プレートごとにCAMにかける際、フィーチャー認識を行い、色属性に基づく加工内容の分類を自動で行う。
(4) 分類された加工内容に、穴加工やポケット切削加工の定義をし、CLデータをつくる。
 
 上記(1)の手順については、hyperMILL以外の3次元CADでモデリングしたプレート部品であっても、例えばParasolidなどのファイル形式を使い、ソリッドモデルで受け渡しすることで、色属性をそのまま移行することもできます。
 
 また...
 今回、紹介する機械加工メーカーは、株式会社W精密です。同社は創業して11年目の比較的若い企業であり、主な事業内容は、産業機械・専用機などで用いられる金属部品の機械加工です。筆者が住む愛知県を含む、ここ中部地方では、同社のような機械加工メーカーが、多くはないが生まれてきています。その創業は、例えば次の2つのようなパターンがあります。
 
・昔からある王道パターン。技術を対価に換えたいというやる気のある経営者によるもの。
 
・加工商社が製造機能まで保有するパターン。家族経営の機械加工業者の営業機能を加工商社が担う形は、中部地方に多いサプライチェーンの形ですが、加工商社に発注するエンドユーザーにおいても、複数の調達先への煩雑な発注業務から開放されるというメリットがあります。
 
 しかし、こうした加工商社を取り巻く環境においては、昨今ますます品質基準が上がっており、また厳しい短納期対応のため、全てを外注業者に依存するのではなく、重要な管理を要する部品については、自社管理のうえで加工した方がよいということで、自社で製造機能を持ち、徐々に内製率を高めていき、自ら加工メーカーとして受注活動を行なっているようです。
 
 取引している顧客は、工具や部品の商社が多く、前述したように、昨今の厳しい品質管理と短納期対応のため、同社のような小回りの効く加工メーカーの存在が欠かせないのです。
 
 また、この中部地域のサプライチェーンにおいては、鋼材の販売業者が商社機能を行うことも多いようです。材料の受注と共に、加工まで請け負うパターンです。これは、一般の加工業者が材料を購入し加工する単価よりも、鋼材販売業者の方が単価・納期面で有利に材料を調達できます。そうした商流から加工メーカーに機械加工が依頼されるケースもあるのです。まさにこうしたサプライチェーンの中に、同社は産声をあげたのです。
 
 3D 
 

1. 商社がキーになっているサプライチェーンでの同社の強み

 
 同社は、マシニングセンターも設備していますが、むしろ汎用フライスを使いこなした一品物の部品加工において、加工よりも段取りの方が多く時間のかかるやっかいで手離れの悪い切削加工をむしろ得意としています。そのため、そうした加工品の発注先の選定に困る加工商社にとっては、同社はありがたい存在です。また、経営者であるO社長は、商社出身で営業経験があり、顧客だけでなく協力会社へのネットワークも広く、切削加工のみならず、研削加工や表面処理など、部品加工全般について一括対応できる点も強みです。
 

2. 3D加工

 
 ある意味、機械加工の業界においては、ソフト及びハードウェアの進化によって、新規参入がしやすくなった面もあります。例えば、工作機械の進化においては、ユーザーインターフェースの進化によって、工具のカタログ条件などを見ながら対話機能を使うことで、習熟度の浅い作業者でも、ある程度の加工ができる時代になりました。
 
 また、その切削工具においても、カタログの中の情報はかなり洗練されており、被削材に対する送り条件や工具の回転速さ、切り込み深さなどが、親切でわかりやすく書かれています。CAMソフトについても、いかにクリック回数を減らして加工データを作ることができるか、といった利便性を追求したものが販売されており、今から切削加工をはじめるといった事業者や作業者にとっては、かなり便利な時代になりました。こうした背景から、プレス加工やプラスチック成形における量産メーカーが、自社で金型製作するといった参入事例も増加しています。
 
 このように、厳しい環境ながら、その反面ツールの進化が進んでいる機械加工業界の中で、同社は受注対応できる間口を広げるため、3Dデータ加工に挑戦することにしました。そこで筆者がCAM選定から技術対応までサポートを行ないました。
 

3. 汎用3次元CAM

 
 同社が購入を決めた3次元CAMは、筆者もライセンス保有し業務に使っているhyperMILLです。hyperMILLは、同時5軸加工の分野でよく知られており、金型専用というよりは、部品加工など汎用的に使える3次元CAMです。同ソフトは、3次元の自由曲面加工に交えて、2D加工や穴加工なども混在した加工についても、簡単に定義でき使いやすいのです。筆者は金型メーカーのみならず、単一工程としての機械加工業の技術コンサルも行うため、さまざまな加工の用途で使える汎用的な3次元CAMを使っています。
 
 同社においては、主力事業である機械部品の切削加工においてCAMを使っていくことは勿論のこと、現在は外注対応になっている金型部品や複雑形状の部品加工の内製化を図っていきます。このように色々な加工で使っていくCAMとしては、まさしくhyperMILLのような汎用的な3次元CAMが効果を発揮します。
 
 早期に費用対効果を出すためのコツは、利便性を高めるために作られているCAM内の機能を、できるだけ多く使っていくことです。筆者のコンサル先企業の改善前は、CAMの便利機能をあまり使えていないことが多いようです。例えば、加工プロセスや工具情報の登録、フィーチャー機能などがそれです。
 
 特に、フィーチャー機能においては、3次元の金型設計に着手している金型メーカーにとって大きなメリットがあります。例えば、hyperMILLのフィーチャー機能を使う場合では、次のような手順を踏みます。
 
(1) 金型をソリッドモデリングで設計する。
(2) 金型設計時、各プレートの穴やポケット部に色属性情報を与える。
(3) プレートごとにCAMにかける際、フィーチャー認識を行い、色属性に基づく加工内容の分類を自動で行う。
(4) 分類された加工内容に、穴加工やポケット切削加工の定義をし、CLデータをつくる。
 
 上記(1)の手順については、hyperMILL以外の3次元CADでモデリングしたプレート部品であっても、例えばParasolidなどのファイル形式を使い、ソリッドモデルで受け渡しすることで、色属性をそのまま移行することもできます。
 
 また、上記(4)のプロセスで定義する穴加工やポケット加工について、マクロ機能を使うこともできます。これにより、上記(2)のプロセスの金型設計の段階で加工データまで作る、という手順を踏んでいることになり、設計からCAM作業の工数削減が可能になります。もちろんこうした機能は、同社のような機械加工メーカーにおいても、自社でモデリングする場合、また顧客からモデルを支給される場合のいずれにおいても、効果が期待できます。
 

4. 5軸加工

 
 O社長は今後10年計画で、設備増強と共に、増員も図ることで、事業拡大を図っていく計画です。前述したように同社がある愛知県の市場は、仕事量に恵まれているとよく言われる半面、同業他社も多いため、厳しい競争の中で生き抜いていかなければいけないのです。そうした環境の中、例えば今後、hyperMILLが得意とする5軸加工も取り入れていくこともあるでしょう。ソフト・ハード・人の面から、競争力の高い独自の企業に育てていこうとしている同社に、筆者は大きな期待をしています。
 
この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。 

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この記事の著者

村上 英樹

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント

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