今回も、その4に引き続き、S製作所を取り上げ(以下、「同社」と言う)、ラベルシール・カードで有名なエーワン合同会社とタイアップして行ったラベル活用5Sコンサルティングの具体的な事例を紹介します。
1. 5S導入の目的
今回のラベル活用5Sコンサルティングのメインテーマは、「粗利益にインパクトのある5S改善」です。粗利益とは売上-製造原価であり、今回は特に製造原価と5Sとの関係に着眼します。製造原価は主に材料費+労務費+購入品+外注費などですが、これらの費用と5Sとの関係性は次のようなものがあります。
(1) 材料費と購入品
これらの費用は変動費として概ね受注数量に比例しますが、製造コストを増加させない管理として、欠品と過剰在庫を発生させないことが5S導入のポイントになります。
(2) 労務費と外注費
労務費を売り上げに比例しない固定費と考えますと、外注費が社内製造現場の稼働率の影響を受けます。つまり、社内の生産能力をオーバーした分が外注対応になり、もし稼働率が低下するとその分の外注費が増加し粗利益を圧迫します。そのため、製造現場の5S導入は稼働率を高めることがポイントになります。
2. 5S導入の際の留意点
一般的に5Sは、まず「整理」として不要品の廃棄から始めるとされています。今回、エーワン社と取り組んだ方法は課題抽出を入り口としたことです。「何が稼働率低下の障害になっているか」に着眼し検討を進めました。この切り口で同社の技術者の方々にヒアリングを行い、そこでどのような問題が発生し、どのような改善を行うことで、探す・待つ・歩くなどのムダを減らせるのかを一緒に検討しました。
このように、5S導入にあたっては教科書どおりに進めることも間違いではないのですが、特に中小企業については、道具が見つけやすい、仕事が楽になる、疲れなくなるといった従業員が自らやりたくなるような目的がなければ、そもそも定着が難しいのです。
3. 具体的な導入事例の紹介
以下は、エーワン社と取り組んだ事例です。
【事例1】作業エリア:測定具置場
(1) 発生していた問題点
同社の強みとして、精密で小型な金型から大型の金型まで幅広く扱っているという点があります。そのため、測定具の種類が多くなり、特に大型ノギスやマイクロメーター等は共用工具であるため本数が限られており、誰かが使用中になると、それを探し回ったり、空くのを待つ等のロスが発生していました。
改善策(写真1)
a.棚の名称とその責任者を明示し、整頓状態を維持するための管理責任者を明確にしました。
b.測定具と棚板それぞれに測定具名を記載したラベルを貼り、置くものと置く場所を一対一で明確にし、使用中かどうか・どこに戻すかをわかりやすくしました。
c.作業者ごとの氏名ラベル(マグネット仕様)を用意し、測定具を持ち出す際に持ち出す測定具のあった棚板に貼ることで誰が使用中かをわかるようにしました。
屋外でも使えるサインラベルシール(油面にも貼れるハイグレードタイプとマグネットセット)を使用。測定具に貼るラベルは、マシニング等の機械油や放電加工機の水・油などの汚れにも強いラベルを使用。棚板にはマグネットタイプを使用し、変更や移動が簡単にできるようにしました。
【事例2】作業エリア:各種金型置場
(1) 発生していた問題点
同社の強みとして金型製造だけでなく、量産成形も隣接する工場で行っているため、保全がしやすく稼働率の高いプラスチック製品の量産成形を行うことができる点があります。ところが、扱う製品種類が多いためメンテナンスを行う金型も多くなり、新規の金型もあることから同社の金型置場は大混雑していました。このため作業に入る際に着手する金型を探す手間があったり、入荷してきた金型に気づきにくいといったロスも発生していました。
改善策(写真2)
用途・処理段階に応じた金型置場の区分けと明示を行いました。具体的には、入荷してきた金型、出荷できる金型、まとめて分けて置いておきたい大型の金型などが一目で見分けがつくよう、金型置場の種類が記載されたプレートを掲示しました。
屋外でも使えるサインプレートセットを使用。耐水・耐光性に優れたフィルムラベルとプラスチック板のセットで構成...