完全3次元設計 伸びる金型メーカーの秘訣 (その11)

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 生産マネジメント
 今回、紹介する金型メーカーは、株式会社Hの工場、金型課です。同課のスタッフは12名。扱う主要製品は、自動車部品が中心であり、製作している金型の種類としては、中型・小型の射出成形金型からダイカスト金型まで製造しています。
 
 射出成形やダイカスト金型、プレス金型の違いについても興味深いのですが、工程設計や金型構造、機械加工、トライ作業の際の着眼点など、それぞれ共通するところもあれば大きく異なることもあるようです。ただし、トライ作業については、成形作業の知識を持たないといけない点は、どの金型を扱っても同じです。今回はその点について触れてみます。
 

1. 金型課のコアコンピタンス

 
 同課の強みとして、次の点が挙げられます。
 
・完全3次元設計の実現
・機械加工の完全なデータ化
・徹底した5Sの実現
 
 多くの金型メーカーでは2次元CADによる設計が中心ですが、同課では意匠面だけでなく構造部まで完全に3次元CADによる設計が行われています。このメリットとして、スライドを複雑に使った金型であっても、設計者のみならず後工程の担当者まで、型構造・製品形状が理解しやすい点が大きいのです。また、3次元に対応したCAMを使っていれば、フィーチャー機能などを活かすこともできます。
 
 逆に留意点として、シンプルな構造部も立体で表現するため設計負荷は増える印象が強いようです。こうした負荷をいかに前後行程のメリットで相殺できるかがポイントです。また、公差情報などの言語情報が伝わりにくい点も以前から言われているところです。そのため、3次元モデルデータとは別に、公差図や単品の部品図を作成する場合も多いようです。
 
 同課の強みとして、主にマシニング加工にあたり、完全なCAMによるデータ提供が行われています。このメリットは、①CAD図面の情報を読み違えなく加工データ作成に利用でき、ミスによるロスが減らせる、②加工履歴を残しやすく、金型メンテナンス時に効果を発揮する。逆に留意点として、①データ作成者と機械オペレーターが異なる場合、加工指示書の作成工数など間接コストが増大する、②機械オペレーターの応用力育成が鈍化するなどがあります。
 
 さらに同課の強みとして、5Sの徹底があります。前述した完全なCAMデータ化も、こうした5Sや管理ルールの徹底があるからこそ成り立つのです。例えば、作成したデータのツール番号と、実際にマシニングに取り付けられている刃具やツールホルダーが統一されているといった連携がなければかえって混乱を招くでしょう。同課はこうした点をクリアしており、ロスの少ない機械加工を行っています。
 

2. 金型修正の頻発

 
 同課の金型製造の課題として、自社で使う金型を製造しているが遠方の客先メーカーで使う金型を製作することもあり、組み上げた金型は客先で成形トライすることが多く、立ち会いもままならないことが多い。そのためか、製品意匠部の寸法を追加切削する金型修正が頻発しており、また溶接補修も多いことから、金型完成までのリードタイムは冗長していました。そこで、機械加工の一部ハンドワーク化も含め、金型製造における総リードタイム短縮への改善を行いました。
 

3. 微小な寸法不良

 
 トライ作業の際、ショートショットや焼け、銀条といった外観不良は、成形メーカーのオペレーターが対策するため、同課2名の設計者による金型では、そこが大きな問題点となることは少ないようです。同課を悩ませていたのは、ソリや変形などによる微小な寸法不良です。
 
 そのため、成形トライ後の修正方法として、金型を追加切削する寸法補正が高い頻度で発生していました。形状を盛る方向であれば、溶接肉盛りを伴い、溶接費用とリードタイムが余計にかさみます。もちろん溶接補修を避けるべく、ファーストトライ時は変形収縮方向を確認するため、切削の取りしろを余分に付け、変形の傾向を見るなどの対策はしていました。それでも、2回目、3回目のトライ時の成形サンプルを測定すると、傾向とは逆の動きに反るなど金型修正を繰り返す問題が頻発しました。もはやこうなると、遠方の成形メーカーと同課で、金型修正を繰り返しながら行ったり来たりです。どこで寸法が決まるのか読めない状況になってしまうのです。
 

4. 成形調整値の扱い

 
 これまでのやり方を改善すべく、過去、寸法補正加工が多かった金型を事例として取り上げ、設計時の狙い・意図からどれだけの誤差が出るのか、トライ時にいくつかの調整値による成形サンプルをとり、どれだけの振れ幅の調整値によって、どれだけの寸法変化が出るのか、同課のスタッフが主導となって検証しました。
 
 同課の中で、射出成形の技能検定の受験経験のあるS氏が中心となり検証を行いました。その結果、例えば、射出速度をいくつか変えて成形したところ、見込んでいた傾向とは異なる寸法の結果が出たりもしました。冷却の遅い箇所の収縮が大きくなるなど、反りや変形は製品形状によるところも大きいようです。そのため、多段射出を行ったり、キャビティとコアの型温度を変えたり、保圧のタイミングを遅らせたりといった調整を行う場合がありますが、こういったさまざまな影響要因が考えられるため、限定した調整値の見込みだけでは、寸法変化の傾向は読みきれないところが難しいのです。
 
 そこで今後は、成形サンプルを複数とるにあたり、成形メーカーに対してトライに用いる成形調整値を、あらかじめ同課から指定して依頼することとしました。ただし、このためには、成形オペレーションの知識が必要になります。まずは、もっとも知識のあるS氏が依頼する条件値を選定していますが、今後は、通常...
 生産マネジメント
 今回、紹介する金型メーカーは、株式会社Hの工場、金型課です。同課のスタッフは12名。扱う主要製品は、自動車部品が中心であり、製作している金型の種類としては、中型・小型の射出成形金型からダイカスト金型まで製造しています。
 
 射出成形やダイカスト金型、プレス金型の違いについても興味深いのですが、工程設計や金型構造、機械加工、トライ作業の際の着眼点など、それぞれ共通するところもあれば大きく異なることもあるようです。ただし、トライ作業については、成形作業の知識を持たないといけない点は、どの金型を扱っても同じです。今回はその点について触れてみます。
 

1. 金型課のコアコンピタンス

 
 同課の強みとして、次の点が挙げられます。
 
・完全3次元設計の実現
・機械加工の完全なデータ化
・徹底した5Sの実現
 
 多くの金型メーカーでは2次元CADによる設計が中心ですが、同課では意匠面だけでなく構造部まで完全に3次元CADによる設計が行われています。このメリットとして、スライドを複雑に使った金型であっても、設計者のみならず後工程の担当者まで、型構造・製品形状が理解しやすい点が大きいのです。また、3次元に対応したCAMを使っていれば、フィーチャー機能などを活かすこともできます。
 
 逆に留意点として、シンプルな構造部も立体で表現するため設計負荷は増える印象が強いようです。こうした負荷をいかに前後行程のメリットで相殺できるかがポイントです。また、公差情報などの言語情報が伝わりにくい点も以前から言われているところです。そのため、3次元モデルデータとは別に、公差図や単品の部品図を作成する場合も多いようです。
 
 同課の強みとして、主にマシニング加工にあたり、完全なCAMによるデータ提供が行われています。このメリットは、①CAD図面の情報を読み違えなく加工データ作成に利用でき、ミスによるロスが減らせる、②加工履歴を残しやすく、金型メンテナンス時に効果を発揮する。逆に留意点として、①データ作成者と機械オペレーターが異なる場合、加工指示書の作成工数など間接コストが増大する、②機械オペレーターの応用力育成が鈍化するなどがあります。
 
 さらに同課の強みとして、5Sの徹底があります。前述した完全なCAMデータ化も、こうした5Sや管理ルールの徹底があるからこそ成り立つのです。例えば、作成したデータのツール番号と、実際にマシニングに取り付けられている刃具やツールホルダーが統一されているといった連携がなければかえって混乱を招くでしょう。同課はこうした点をクリアしており、ロスの少ない機械加工を行っています。
 

2. 金型修正の頻発

 
 同課の金型製造の課題として、自社で使う金型を製造しているが遠方の客先メーカーで使う金型を製作することもあり、組み上げた金型は客先で成形トライすることが多く、立ち会いもままならないことが多い。そのためか、製品意匠部の寸法を追加切削する金型修正が頻発しており、また溶接補修も多いことから、金型完成までのリードタイムは冗長していました。そこで、機械加工の一部ハンドワーク化も含め、金型製造における総リードタイム短縮への改善を行いました。
 

3. 微小な寸法不良

 
 トライ作業の際、ショートショットや焼け、銀条といった外観不良は、成形メーカーのオペレーターが対策するため、同課2名の設計者による金型では、そこが大きな問題点となることは少ないようです。同課を悩ませていたのは、ソリや変形などによる微小な寸法不良です。
 
 そのため、成形トライ後の修正方法として、金型を追加切削する寸法補正が高い頻度で発生していました。形状を盛る方向であれば、溶接肉盛りを伴い、溶接費用とリードタイムが余計にかさみます。もちろん溶接補修を避けるべく、ファーストトライ時は変形収縮方向を確認するため、切削の取りしろを余分に付け、変形の傾向を見るなどの対策はしていました。それでも、2回目、3回目のトライ時の成形サンプルを測定すると、傾向とは逆の動きに反るなど金型修正を繰り返す問題が頻発しました。もはやこうなると、遠方の成形メーカーと同課で、金型修正を繰り返しながら行ったり来たりです。どこで寸法が決まるのか読めない状況になってしまうのです。
 

4. 成形調整値の扱い

 
 これまでのやり方を改善すべく、過去、寸法補正加工が多かった金型を事例として取り上げ、設計時の狙い・意図からどれだけの誤差が出るのか、トライ時にいくつかの調整値による成形サンプルをとり、どれだけの振れ幅の調整値によって、どれだけの寸法変化が出るのか、同課のスタッフが主導となって検証しました。
 
 同課の中で、射出成形の技能検定の受験経験のあるS氏が中心となり検証を行いました。その結果、例えば、射出速度をいくつか変えて成形したところ、見込んでいた傾向とは異なる寸法の結果が出たりもしました。冷却の遅い箇所の収縮が大きくなるなど、反りや変形は製品形状によるところも大きいようです。そのため、多段射出を行ったり、キャビティとコアの型温度を変えたり、保圧のタイミングを遅らせたりといった調整を行う場合がありますが、こういったさまざまな影響要因が考えられるため、限定した調整値の見込みだけでは、寸法変化の傾向は読みきれないところが難しいのです。
 
 そこで今後は、成形サンプルを複数とるにあたり、成形メーカーに対してトライに用いる成形調整値を、あらかじめ同課から指定して依頼することとしました。ただし、このためには、成形オペレーションの知識が必要になります。まずは、もっとも知識のあるS氏が依頼する条件値を選定していますが、今後は、通常トライ立ち会いを担当している設計担当者の2名が、射出成形の技能検定を受けるなど、順次知識を得て行く計画です。
 

5. デジタルによるものづくりの徹底

 
 同課はこれまで成形シュミレーションも活用してきましたが、今後成形オペレーションの知識を増やしていくことで、さらに有効に活用していけるでしょう。例えば、冷却水穴の位置・金型温度と、製品寸法の変形度合いなどを解析するなどです。また、機械加工の完全なCAMデータ化は、加工内容によっては工数増加リスクがあるため、今後はマシニングオペレーターを中心に、CAMデータに頼らないマニュアル加工を習得するようです。これにより、CAMデータや指示書作成など間接コストの削減とリードタイム短縮が期待できます。デジタルによるものづくりを徹底した同課において、今後は職人技術を高め、同業他社に負けない柔軟な金型づくりをしていけることを期待しています。
  
 この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。
 

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この記事の著者

村上 英樹

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント

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