3次元CAMの選定 伸びる金型メーカーの秘訣 (その12)

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 金型部品などの機械加工を行うT鉄工株式会社、自社に合う3次元CAMを選定する事例です。このCAM選定については、金型加工に適したもの、同社が探していた部品加工に適したもの、それぞれの違いに着眼しながら選定作業を行いました。この点について今回まとめてみたので、他の金型メーカーにもぜひ参考にして下さい。まず同社がどのような事業を行い、そのうえでどのような3次元CAMを探していたのか見ていきます。
 

1. コアコンピタンス

 
 同社は、大手自動車メーカーやそのティア1メーカーで使用されるダイカスト金型部品の機械加工を主力事業としています。数年先に採用を検討されるテスト段階の構造部品や新素材のテスト加工にも30年以上前から携わっており、成形に使われた金型部品の修理やメンテナンスまで請け負っています。まさに小型・中型の金型部品については、「ゆりかごから墓場まで」請け負う専門メーカーです。
 
 加工内容としても幅広く、マシニングやNC・汎用旋盤を用いた切削加工から、平面研磨、内径・外径の円筒研磨といった研削加工、手仕上げ磨きは鏡面仕上げまで対応しています。また溶接加工については、30年以上も前から異種材料の接合まで手がけ、自社設備の炉を使った特殊な条件の徐冷を行っており、顧客から高い信頼を得ています。
 
 同社が手がける部品の中には、ドリルやタップなどを使う穴あけ加工や、エンドミルを用いた2次元加工だけではなく、部分的に3次元の曲面加工が含まれているものがあります。こうした加工に用いる長年使い続けてきた3次元CAMは、使いづらい点も一部あったため、新たにCAMシステムの買い替えを検討したものの、近年多くのソフトが販売されており、その中で自社の仕事にマッチしたCAMの選定は困難でした。
 
 そこで、今回特に着眼したのは、カタログで紹介されている機能だけではなく、あくまで「自社がやりたい加工」に応えてくれるパスが出力されるかでした。
 
生産マネジメント
 

2. 金型用と部品加工用、CAMの違い

 
 一般に市販されている3次元CAMは、金型用とか部品加工用といったように定義して販売されているわけではありません。どちらに向いているかは、販売しているベンダに確認すると教えてくれます。ここで金型用とは、主に自由曲面で構成される金型意匠面を加工するためのCAMで、部品加工用は、主に金型の周辺部品や金型以外の構造部品でも加工できる汎用的な機能を持つCAMと想定しています。それぞれのCAMに求められる機能は、次のようなものがあります。
 

【金型用】

 
 素材形状は、6面フライスした材料などシンプルな形状が多く、そのため荒取り加工では切削ボリュームは多い傾向にあり、高効率化と工具の長寿命化を両立させられる機能、例えば局所的な負荷の低減など、高度な荒取り加工パスが要求されます。ボールエンドミルによる仕上げ加工パスにおいて、加工後に意匠面を磨く場合には、三角パッチの目が浮き出てはいけません、微細なトレランス設定が必要など、仕上がり面品質が重要になる場合があります。小径ボールエンドミルの加工がある場合は、前工具で削り残った領域を参照した加工パスが計算できる「削り残り部加工」は必須です。
 
 その他、①各荒取り工程後の素材形状を、次行程の加工領域に活用できる機能、②工具の突き出し長さの計算、③工具の突き出し長さごとに加工領域を切り分けられる機能などがあります。
 

【部品加工用】

 
 3次元加工は、2次元加工の後に行う場合が多く、3次元加工を行う前の素材形状は、何らかの加工形状がついた状態になります。そのため、自由度の高い素材定義ができる機能や、素材と工具の干渉を簡単に見つけられる機能が求められます。
 
 すでに仕上がっている2次元加工が終わっている部位に、3次元加工の工具が触れない加工パスが簡単に作成できることが望ましいのです。金型用の3次元CAMで使用する工具は、ボールやラジアスエンドミルが主体になりますが、部品加工用CAMで使用する工具は、フラットエンドミルや、ドリルやタップなども加わり、汎用的に色々な種類を用います。このため、2次元と3次元の加工を簡単に併用できる操作性が求められます。
 
 その他、①ダミー用サーフェース面の簡易なモデリング機能、②2次元から3次元を分け隔てなく使える加工シュミレーション機能などがあります。
 

3. CAMシステム選定のポイント

 
 金型用と部品加工用、それぞれのCAMについて、同社は次のような要件でCAMの選定を行いました。
 
 3次元加工の前におよそ完成形状の80%は、研削や旋盤加工によって仕上がっているため、3次元加工の際は、特に工具が素材に接触する際のアプローチ軌跡が、その仕上がり面に触れてキズをつけてはいけません。そのため、顧客から支給される3Dモデルにおいて、保護する部位にダミーのサーフェース面を追加モデリングしますが、この作業が簡単に行えるのです。熟練者以外の経験の浅い加工者でも加工データが作成できるように、加工パターンや切削工具、加工条件などが登録でき、また簡単に呼び出せてデータ作成ができます。実際の加工品に類似した3Dモデルを用いたベンチマークも行いながら、上記の要求を満たせるCAMシステムを、いくつかの候補の中から選定しました。
 
 上記の要件の中では、すでに仕上がった面に傷をつけない工具アプローチ軌跡を出力することが、各候補のCAMシステムにおいて最も難しい課題でした。もし保護のためのダミー面をつくらず、工具のアプローチ軌跡を作る場合、例えば、形状の接線方向に伸びた軌跡でアプローチすることが考えられます。ただし、こうしたアプローチ軌跡は、むしろ金型用の3次元CAMが得意とするところであ...
 金型部品などの機械加工を行うT鉄工株式会社、自社に合う3次元CAMを選定する事例です。このCAM選定については、金型加工に適したもの、同社が探していた部品加工に適したもの、それぞれの違いに着眼しながら選定作業を行いました。この点について今回まとめてみたので、他の金型メーカーにもぜひ参考にして下さい。まず同社がどのような事業を行い、そのうえでどのような3次元CAMを探していたのか見ていきます。
 

1. コアコンピタンス

 
 同社は、大手自動車メーカーやそのティア1メーカーで使用されるダイカスト金型部品の機械加工を主力事業としています。数年先に採用を検討されるテスト段階の構造部品や新素材のテスト加工にも30年以上前から携わっており、成形に使われた金型部品の修理やメンテナンスまで請け負っています。まさに小型・中型の金型部品については、「ゆりかごから墓場まで」請け負う専門メーカーです。
 
 加工内容としても幅広く、マシニングやNC・汎用旋盤を用いた切削加工から、平面研磨、内径・外径の円筒研磨といった研削加工、手仕上げ磨きは鏡面仕上げまで対応しています。また溶接加工については、30年以上も前から異種材料の接合まで手がけ、自社設備の炉を使った特殊な条件の徐冷を行っており、顧客から高い信頼を得ています。
 
 同社が手がける部品の中には、ドリルやタップなどを使う穴あけ加工や、エンドミルを用いた2次元加工だけではなく、部分的に3次元の曲面加工が含まれているものがあります。こうした加工に用いる長年使い続けてきた3次元CAMは、使いづらい点も一部あったため、新たにCAMシステムの買い替えを検討したものの、近年多くのソフトが販売されており、その中で自社の仕事にマッチしたCAMの選定は困難でした。
 
 そこで、今回特に着眼したのは、カタログで紹介されている機能だけではなく、あくまで「自社がやりたい加工」に応えてくれるパスが出力されるかでした。
 
生産マネジメント
 

2. 金型用と部品加工用、CAMの違い

 
 一般に市販されている3次元CAMは、金型用とか部品加工用といったように定義して販売されているわけではありません。どちらに向いているかは、販売しているベンダに確認すると教えてくれます。ここで金型用とは、主に自由曲面で構成される金型意匠面を加工するためのCAMで、部品加工用は、主に金型の周辺部品や金型以外の構造部品でも加工できる汎用的な機能を持つCAMと想定しています。それぞれのCAMに求められる機能は、次のようなものがあります。
 

【金型用】

 
 素材形状は、6面フライスした材料などシンプルな形状が多く、そのため荒取り加工では切削ボリュームは多い傾向にあり、高効率化と工具の長寿命化を両立させられる機能、例えば局所的な負荷の低減など、高度な荒取り加工パスが要求されます。ボールエンドミルによる仕上げ加工パスにおいて、加工後に意匠面を磨く場合には、三角パッチの目が浮き出てはいけません、微細なトレランス設定が必要など、仕上がり面品質が重要になる場合があります。小径ボールエンドミルの加工がある場合は、前工具で削り残った領域を参照した加工パスが計算できる「削り残り部加工」は必須です。
 
 その他、①各荒取り工程後の素材形状を、次行程の加工領域に活用できる機能、②工具の突き出し長さの計算、③工具の突き出し長さごとに加工領域を切り分けられる機能などがあります。
 

【部品加工用】

 
 3次元加工は、2次元加工の後に行う場合が多く、3次元加工を行う前の素材形状は、何らかの加工形状がついた状態になります。そのため、自由度の高い素材定義ができる機能や、素材と工具の干渉を簡単に見つけられる機能が求められます。
 
 すでに仕上がっている2次元加工が終わっている部位に、3次元加工の工具が触れない加工パスが簡単に作成できることが望ましいのです。金型用の3次元CAMで使用する工具は、ボールやラジアスエンドミルが主体になりますが、部品加工用CAMで使用する工具は、フラットエンドミルや、ドリルやタップなども加わり、汎用的に色々な種類を用います。このため、2次元と3次元の加工を簡単に併用できる操作性が求められます。
 
 その他、①ダミー用サーフェース面の簡易なモデリング機能、②2次元から3次元を分け隔てなく使える加工シュミレーション機能などがあります。
 

3. CAMシステム選定のポイント

 
 金型用と部品加工用、それぞれのCAMについて、同社は次のような要件でCAMの選定を行いました。
 
 3次元加工の前におよそ完成形状の80%は、研削や旋盤加工によって仕上がっているため、3次元加工の際は、特に工具が素材に接触する際のアプローチ軌跡が、その仕上がり面に触れてキズをつけてはいけません。そのため、顧客から支給される3Dモデルにおいて、保護する部位にダミーのサーフェース面を追加モデリングしますが、この作業が簡単に行えるのです。熟練者以外の経験の浅い加工者でも加工データが作成できるように、加工パターンや切削工具、加工条件などが登録でき、また簡単に呼び出せてデータ作成ができます。実際の加工品に類似した3Dモデルを用いたベンチマークも行いながら、上記の要求を満たせるCAMシステムを、いくつかの候補の中から選定しました。
 
 上記の要件の中では、すでに仕上がった面に傷をつけない工具アプローチ軌跡を出力することが、各候補のCAMシステムにおいて最も難しい課題でした。もし保護のためのダミー面をつくらず、工具のアプローチ軌跡を作る場合、例えば、形状の接線方向に伸びた軌跡でアプローチすることが考えられます。ただし、こうしたアプローチ軌跡は、むしろ金型用の3次元CAMが得意とするところであり、部品加工用の3次元CAMでは対応が難しい場合もあります。そもそも接線方向でパスが出せません、もし出力できても凸形状では問題ないのですが、凹形状では仕上がっている面に沿いながらアプローチしてしまうなどの問題も見つかりました。こうした実務上で発生しうる課題を挙げながら、CAMシステムの選定を進めました。
 

4. ソフト面からの技術強化

 
 最近のCAMは、次々と開発される新しい切削工具を最大限に活かせます。特に荒取り加工が優れたものが多く出ています。同社がこういったCAMの最新機能を活用することで、長年蓄積してきたダイカスト金型部品の加工技術をさらに効率化・高度化することができるでしょう。同社のような小ロットや一点ものの部品加工を主力事業として行う企業は、ロットの大きい製品と比べ、総じて加工単価は高い傾向にはあります、企業にとってコスト競争力強化は永続的なテーマであり、今後ソフト面からの技術強化に取り組む同社に大きな期待をしています。
 
この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。
 

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この記事の著者

村上 英樹

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント

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