現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。今回は、下記(5)の並列について解説します。
1. 関係性の種類
それでは、要素の間にはどのような関係性の種類があるのでしょうか?
(1) 原因と結果
関係性で誰でもすぐ気が付くものに、原因と結果があります。ある要素が他の要素を生み出すという関係です。
(2) 影響を与える
原因と結果のようにある要素が他の要素を生み出すというまでの強い関係ではなく、前者が後者になんらかの影響を当える関係も存在します。
(3) 包含
ある要素が他のより大きな要素の一部になっている、すなわち包含されているという関係です。
(4) 重複(一部を共有)
ある要素とある要素が完全に独立しておらず、一部を共有しているような関係です。
(5) 並列
なんらかの関係性の全体の構造の中で、同じ位置付けであり、かつ両者間には重複はなく独立している関係です。
2.「並列」とは、相関関係はあるが因果関係がない関係
「並列」という言葉だけでは分かりづらいと思いますが、ここでは「相関関係はあるが因果関係がない」関係を意味するものとしています。つまり、2つのことは、相関関係があるので一つが変わると、もう一つも変わることが観察されますが、お互いは原因と結果の関係にはない状態をいっています。
●「並列」の問題点
この「並列」の関係において重要なことは、相関関係があるがために、因果関係があると誤って認識してしまうことがあります。
2020年から世界中で新型コロナが蔓延(まんえん)し、日本でも大きな社会問題となっています。その結果、外食が控えられ、家で食事をとる生活環境になっています。また、多くの人たちが運動不足からコロナ太りになっています。
仮に家で食事をするようになっていることと、皆が太ったという結果だけが観察されると、仮に新型コロナが原因なのかどうか分かっていないとした場合、家で食事をするようになった「ので」、皆が太ったと理解されてしまうことは十分あり得ます。すなわち、両者には因果関係があると誤って認識してしまうということです。
●「並列」の問題の原因:人間の脳のシステム1
このような問題は人間の頭脳では、起こりやすいことが、心理学の研究などで分かっています。
人間の頭脳は情報が不足している状況では、無意識のうちに自分の推測能力や過去の経験をフルに活用して、勝手に一見つじつまが合っているようなストーリー、すなわち仮想の因果関係を作り上げてしまうようにできています。これは行動経済学でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンの言う「脳のシステム1」の機能によるものです。
「システム1」は生存のための機能で、人間だけではなく、動物一般にみられる機能です。それは、瞬時に状況の把握を行い、原因を認定し、それに即座に対応し生き残る行動をとるためのものです。
しかし「システム1」は、生存のために即時性を重視するがゆえに、時に状況を見誤るという問題を起こします。その問題の一つ...
● 問題への対処策
この問題への対処策は、人間の脳はこの問題を起こすようにできていることを理解した上で、できるだけ認識された因果関係を疑ってみるということです。
根本的な対処策としては、一見因果関係があると思われることを「システム2」を使って考えてみたら違ったという経験を数多くする(つまり日頃からよく考えるということをする)ことで、それを「システム1」の前提となる経験に組み込むことがあります。
次回に続きます。