【改善のヒント連載目次】
- 1. 儲かる現場づくりとは
- 2. チームとして改善を進める
- 3. 現場から人を抜く
- 4. からくり改善とは
- 5. 改善の目を養おう
- 6. 生産の平準化とは
- 7. 生産現場の改善
- 8. 製造現場の活用で固定費削減
- 9. 改善は全員で
- 10. レイアウト変更とパラメーター
- 11. ムダは時間と命をすり減らす
- 12. 設計変更以外の手段とは
- 13. 小さな改善の効果とは
◆ 平準化生産で経営リソース生かす
1. 多品種小ロット生産の前提条件は平準化の徹底
昨今の経済状況からも、お客様のニーズがますます厳しくなり、企業のものづくりが変種変量のニーズに対応していくことが非常に難しくなってきています。それに対応するため、生産方式を従来の大量生産方式から多品種小ロット生産方式に切り替える企業が多くなってきています。この生産方式には、2本柱という「トヨタ生産方式:ジャストインタイム(JIT)」と「自働化」の考え方があり、企業内のあらゆるムダを徹底的に廃除して、儲(もう)け続ける体質をつくっていこうというもので、読者のみなさんもよくご存知だと思います。
JITとは、簡単にいえば「売れた分だけ流れでつくる」ことです。また「自働化」とは、同様に「品質に対して強い工程をつくる」ことです。この両者が合体しながら相乗効果となって、コストを最小に抑えながらリードタイムの短縮を図っていきます。その結果として、最終的に企業全体の利益やキャッシュフローの増大につなげ、儲け続ける体質に変えていくものです。
ところで、新しい生産方式を導入したけれども、納期対応や在庫削減などが思ったほど成果が出ず、なぜなんだろうと考えてみたものの、明確な答えがみつからない、という経験をお持ちでしょうか。お客様の受注変動がそのまま工場内に飛び込んできて、機種切り替えの増加や緊急残業などの後始末が相変わらず発生していて、経営数値にあまり改善結果が反映されていないことはありませんか。色々お話をうかがっていると、この生産方式の前提条件である「平準化」の考え方が、徹底されないままで取り組まれていないことが分かってきました。しかもその「平準化」のことは、あまりり知られておらず、知っていても上手く使いこなしている企業が少ないことも感じられます。
2. 平準化生産の意味と進め方のポイント
「平準化」という言葉の定義としては、生産量と品種の両方を平均化してつくるというものです。ずいぶん前には、月単位の生産計画を基に、日割りして製造に生産指示を出していましたが、それではお客様のニーズを満足させることができなくなり、月単位の計画を週単位に落とし込みました。それでもまだ対応しきれなく、日単位の計画まで細切れにすることを「平均化」生産といいます。さらに細かく日単位の計画を各品種のものをもっと小ロット化して、1日に2回、4回、8回などに細分化して生産することを「平準化」生産といいます。実際の計画と生産は、このようにスンナリ上手くいくものではありません。この際には、段取り替え時間短縮や工程の信頼性向上などの取り組みが必要となり、現場で色々な葛藤が生まれてきますが、ここを正面から立ち向かって取り組むことが、改善活動そのものなので諦めないで続けることです。
「平準化」は、さらに重要な意味を含んでいますので紹介します。それはお客様の受注オーダーや品種の変動の波が、直接工場内に伝わらないようにすることです。
イメージとしては、港の防波堤のようなものです。その一般的な方法としては、工場内に完成品在庫を持つことです。全ての製品の完成品在庫を持つことは、到底無理なことですので、リピート性が非常に高い製品を選び、在庫を持ちます。これはP-Q分析[1]に基づき、ABCの3つに区分します。「Aは、製品在庫と部品在庫を持つ」、「Bは、製品在庫は待たないが部品在庫は持つ」、「Cは、製品も部品も在庫を持たない」と設定を行います。つまり、製品に性格を持たせて、それぞれに対応していくものです。
たとえば、Aは完成品在庫がありますので、お客様からのオーダーが入ると、その日のうちに出荷することで即納が可能です。お客様にとっては、従来から比べて非常にリードタイムが短くなり、余分な在庫を持つ必要がなくなります。Bは部品在庫を使ってからの加工と組み立てを行う合計がリードタイムになります。Cは部品在庫がないため、部品や素材の発注リードタイムも含まれるので、非常に長くなります。
この平準化の狙いは、完成品在庫や中間品の在庫、あるいは部品や素材の在庫を上手く活用して、お客様の変動するオーダーの波を吸収して、工場内への波を少しでも小さくして生産を安定させるものです。つまりお客様の受注をいったん在庫で受け止めて、後はその間に工場内の都合に合わせ、波を安定化させながら生産していきます。
最初はどの程度在庫を持って良いか分からないものですが、まず、このやり方に了解がいただけるお客様を対象にして始めてみましょう。A製品は工場で在庫を持ち即納しますので、従来のようにまとめて発注をしないように、必要な分だけを発注していただけるようにお願いし、在庫調整しながら横展開を進めていけばよいでしょう。
これを始めていきますと毎日少しずつの受注となり、変動量がずいぶんと減ってきますので、それにあわせて完成品在庫の調整をします。ここで重要なことは、この在庫量を一定にするのではなく、受注と生産状況を鑑(かんが)みながら在庫量をバネのように大きく変動させて、工場内の負荷を調整していくことです。多くの場合が、この在庫量を素早く元に戻すように働き掛けた結果、生産現場に余分な変更をさせてしまっていることがあるのですが、あえて防波堤の高さを激しく変動させることがポイントになります。
3.平準化のメリットはどのビジネスにも応用可能
工場内の変動の波が小さくなってきますと、経営リソースである「人、もの、設備、スペース」などが抑えられ平準化のメリットが実感できます。変動が抑えられるようになりますと、作業が安定し作業の標準化が進んできます。異常対応が少なくなり、異常対応があっても迅速(じんそく)に対応しやすくなってきます。さらに工場の生産が安定してきますと、仕入先での対応にも影響してきます。つまり引き取り...
このように外部からの変動をそのまま社内や工場に流すのではなく、変動を吸収する防波堤を外部との間に設けるメリットは、内部における変動を抑えることにつながります。このような経営リソースを最小限で活用するメリットはどのビジネスにも応用できると考えます。
次回に続きます。
【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載
【用語解説】
[1]P-Q分析(Product-Quantity分析):工場内で生産する製品(Product)の種類と数量(Quantity)を、多いものから順に並べて整理します。その結果から、1品種当たりの数量が多いものは「製品別配置=ライン生産」、数量が少ないものは「機能別配置=ジョブショップレイアウト」が適していると判断します(引用:生産工学のキーワード解説記事から、https://www.monodukuri.com/gihou/article/1854、最終更新 2018年7月25日)。